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《書体のはなし》 #19 エレガントで少し冷たい印象もある“Didot(ディド)”

「書体の話」マガジン

書体に関する記事はこちらのマガジンにまとめています。

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。


Didot(ディド)

Linotype Didot

カテゴリー:セリフ体
分類:Neoclassical/Didone
デザイナー:Adrian Frutiger, Firmin Didot
ファウンダリー:Linotype
リリース:1929

Linotype Didot™ は1799年から1811年の間にフィルマン・ディド(Firman Didot)によって作られた書体に基づいて、1992年にアドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger)によってデザインされた書体です。

いわゆるDidone(ディドネ)という種類に分類される書体です。Didoneとはセリフ体の中の1分類です。

フルティガーはまた、ディド家が1818年に印刷した書籍『ラ・アンリエード』(ヴォルテール著)に使用されたディド書体も研究しました。

この美しく描かれた書体ファミリーは、エレガントな書籍や雑誌のデザイン、あるいはクラシックな雰囲気を求める広告に最適な選択肢です。
(Myfonts)


『ラ・アンリエード』

By Faman - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4770731

『ラ・アンリエード』(フランス語発音:[ラ・アンリヤード])は、1723年にフランス啓蒙思想家・作家であるヴォルテールによって書かれた叙事詩です。
ヴォルテール自身によれば、この詩はフランス国王アンリ4世の生涯を称えて書かれたものであり、彼の人生を称賛する内容となっています。

表向きの主題は、1589年のパリ包囲戦(アンリ3世とナヴァール公アンリ=後のアンリ4世=によるもの)ですが、詩全体に流れるテーマは、宗教的狂信と内乱という二つの悪であり、加えてフランスの政治状況についても論じられています。

ヴォルテールは、「フランスのヴァージル(ローマの叙事詩人)」となることを目指しており、古典悲劇に見られるアリストテレス的な「場所の統一」(=物語の舞台を限定する)を叙事詩で実現しようとしました。つまり、物語の舞台をパリとイヴリの間に限定することで、古典の枠を超えた新しい叙事詩を目指したのです。

この作品は、初めて出版された際は『ラ・リーグ(La Ligue)』という題名で1723年に印刷され、その後ヴォルテールの生涯のうちに何十回も再版されました。(*1)


 ヴォルテール

ヴォルテール(24歳の時)ニコラス・ド・ラルジリエール作
ニコラ・ド・ラルジリエール - このファイルの派生的著作物:  Voltaire-2008-11-24.jpg http://www.deism.com/images/Voltaire.jpg (old image: From en wikipedia), パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=23942による

ヴォルテール(仏: Voltaire)こと、本名フランソワ=マリー・アルエ(仏: François-Marie Arouet、1694年11月21日 - 1778年5月30日)は、フランスの哲学者、文学者、歴史家です。

歴史的には、イギリスの哲学者であるジョン・ロックなどとともに啓蒙主義を代表する人物とされています。また、ドゥニ・ディドロジャン・ル・ロン・ダランベールなどとともに百科全書派の学者の一人として活躍しました。

Voltaireという名はペンネームのようなもので、彼の名のArouetをラテン語表記した"AROVET LI" のアナグラムの一種、「ヴォロンテール」(意地っぱり)という小さい頃からの渾名をもじった等、諸説あります。


Didot(ディド)は書体グループ

Didot(ディド)は、一連の書体グループを指します。

「Didot」という名前は、フランスの有名な印刷・書体製造一家であるディド家に由来しています。

この書体の分類は「モダン」または「ディドネ(Didone)」として知られています。

もっとも有名なDidot書体は、1784年から1811年の間に開発されました。

フィルマン・ディド(Firmin Didot, 1764–1836)が文字を彫刻し、パリで活字として鋳造しました。彼の兄ピエール・ディド(Pierre Didot, 1760–1853)は、その活字を用いて印刷を行いました。特に、1818年に印刷したヴォルテールの『ラ・アンリエード』(上述)は彼の代表作とされています。

この書体は、ジョン・バスカヴィルが試みた「ストロークのコントラスト強調」や「より引き締まった骨格(アーマチュア)」の探究からインスピレーションを得ています。

ディド家によるコントラストの強い、縦方向のストレスを持つ書体の発展は、イタリアのジャンバティスタ・ボドニ(Giambattista Bodoni)が同時期に開発した類似の書体とも並行した動きでした。

Didot書体は一般に新古典主義的(ネオクラシカル/Neoclassical)であり、啓蒙時代(エイジ・オブ・エンライトメント)を想起させるとされています。

また、ディド家は独立直後のギリシャに最初に印刷機を持ち込んだ一家の一つであり、それ以降、Didotスタイルの書体はギリシャ語において人気を保ち続けています。


Didotの復刻とデジタル化

Didot書体はこれまでに何度も復刻されており、最初は活版印刷(ホットメタル)向けに、続いて写真植字(フォトタイプ)、そしてデジタルフォントとして展開されてきました。

デジタルでの使用上の課題

Didot書体は、均整の取れた理知的なデザイン繊細なストロークにより、非常にエレガントな印象を与える一方で、読者に「まぶしさ(dazzle)」を感じさせることがあるという問題も知られています。

これは、太い縦線(垂直ストローク)が視線を強く引きつけるために、文字を識別するために重要な細い線が目立たなくなり、判別が困難になるという現象です。

このため、Didone系書体(Didotなど)を使用する際には、文字の表示サイズに最適化されたフォント(オプティカル・サイジング)を使うことが特に重要だとされています。

  • 本文サイズで使うフォントは、より太めの細線やセリフ(装飾部分)を持ち、ストロークのコントラストが少なく文字間のスペースも広めに設計されており、可読性を高める工夫がされています。

  • 一方、見出し用(ディスプレイ用)のフォントは、繊細さを重視した華やかなスタイルになります。

この「オプティカル・サイジング」は、金属活字の時代には自然な工程(サイズごとに手作業で彫刻されたため)でしたが、デジタルフォントの登場により省略されるようになりました。

しかし近年、商業用フォントを中心に再び注目され、復活しつつあります。


ファッション誌のロゴ

アメリカ人の写真家・デザイナー・教育者であるアレクセイ・ブロドヴィッチ(Alexey Brodovitch)は、『Cahiers d'Art』や『Harper's Bazaar(ハーパーズ・バザー)』でDidot書体を使用しました。

また、『Vogue(ヴォーグ)』誌は1955年以降、表紙タイトルの書体としてDidotを使用しています。

Vogue (US)
source: Amazon.co.jp 「Vogue [US] Margot Robbie Cover - July 2019 (単号) [Single Issue Magazine]」
Elle 
Photo source: via Fashionista
Harepaer's Bazaar
source: models


Didotが「おしゃれ」な理由

見ての通り、Didotは、細いところがとても細い書体です。手吹きのワイングラスのステム(脚)のような繊細が、Didotのセリフにはあります。この繊細さ、ルネサンスやロココを経て洗練された美しき装飾の美学なども反映されています。そしてこういったデザインを可能にしたのが、銅版印刷という技術でした。銅版印刷とは、盛り上がった活字ではなく、銅の板を削って掘って、そこにインクを流して印刷する手法です。いわゆる凹版(おうはん)印刷です。

画像引用:銅版印刷株式会社 | DOBAN PRINTING INC.

のちに活字や写植、現代ではデジタルフォントにもなっていますが、出自、生まれたときにすでに繊細で、そして高価なニュアンスをまとった書体でした。

ラグジュアリーで繊細で美しい

これ以上にファッションにふさわしい書体はあまりないかもしれません。創業が1892年のアメリカ合衆国のファッション誌『Vogue』は1950年代ころから、この書体Didotをベースにしたロゴを使用しています。Didotそのままではなくて、細かな調節はされています。

赤いほうがDidotで黒いほうがVogueのロゴ
source: Quora

ZARAのロゴも2019年からDidone系

ZARAのロゴの歴史
source: Creative network “The brand new Zara logo by Baron & Baron”

ファストファッションブランドのZARAは2019年からロゴを変更し、このDidoneというジャンルの書体を使っています。ブランディングとしては、既存のファストファッションブランドから抜け出して、新しい「速い(ファスト)がラグジュアリー」というブランドイメージの形成を試みているのでしょう。速いニュアンスは、文字間をぐっと詰めて急いでる意匠で表し、書体がDidoneであることで、ラグジュアリーよりのブランドであることを表しています。


その他の使用例

Dune (2021) character posters

Source: Warner Bros. License: All Rights Reserved. Via Fonts in Use

LT DidotはどうもFuturaとよく一緒に使われているようです。


101 Essays That Will Change The Way You Think

Source: shopcatalog.com Thought Catalog Books. License: All Rights Reserved.


Si Non Là magazine

Photo: undercast. License: All Rights Reserved.


まとめ

Didotを含め、Didoneは「エレガンス」を伝える書体の種類と言っても良いでしょう。銅版印刷系の書体の多くが、ラグジュアリーなニュアンスを持っているのは、印刷費が高額になるだけではなく、美しさや優雅さを読みやすさよりも重視した姿勢にもよるのでしょう。DidotおよびDidoneという書体ジャンルを覚えておくと、「優雅さ」というものを体現する代表的な書体として使ったり、読み取ったりできて、世界が拡張することでしょう。そして、これらのデザインが200年以上も長らえてきていることにも注目したいです。時の洗礼を生き抜く美しさや強さも併せ持っている左証になるからです。


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参照

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*2



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