新規事業の市場規模の調べ方|TAM・SAM・SOMを推計する8ステップ
新規事業の市場規模の調べ方を検索すると、TAM・SAM・SOMという言葉が出てきます。
ところが、三つの大きな数字を並べただけでは、事業へ投資するか、追加調査するか、いったん止めるかは決まりません。
経営判断に必要なのは、次の問いに答えられる市場規模です。
どの顧客を数えたのか
その顧客は本当に支払うのか
現在の商品を提供できる範囲はどこまでか
初年度に何件へ接触し、何件を獲得できるのか
どの仮定が外れたら計画を見直すのか
この記事では、顧客、支払者、提供方法がおおむね決まった段階から、公開統計を使ってTAM・SAM・SOMを推計し、GO・HOLD・STOPの判断材料へ変える手順を解説します。
TAM・SAM・SOMは「大・中・小の市場」ではない
TAM・SAM・SOMに、法律上統一された計算式があるわけではありません。この記事では、実務上の定義を次のように固定します。
区分 / この記事での定義 / 経営判断で見ること
TAM — この記事での定義:対象顧客が全員購入した場合、または既存市場全体で発生している年間支出 / 経営判断で見ること:長期的な上限
SAM — この記事での定義:地域、業種、規制、提供条件を踏まえ、現在の商品で対象にできる年間市場 / 経営判断で見ること:参入可能な範囲
SOM — この記事での定義:営業経路、認知、成約率、供給能力を踏まえ、期限内に現実的に獲得できる金額 / 経営判断で見ること:初期計画と投資上限
TAMが大きくても、SAMを定義できなければ対象顧客が曖昧です。SAMが大きくても、SOMへ到達する営業経路や供給能力がなければ、初年度計画の根拠にはなりません。
大切なのは、数字を大きく見せることではなく、TAMからSAM、SAMからSOMへ、何をどの根拠で除外したかを説明できることです。
まず「何を数えるか」を一つに決める
市場規模の計算が崩れる大きな原因は、途中で単位が変わることです。
最初に、市場を数える単位を一つ決めます。
BtoC:人、世帯、利用回数、年間支出
BtoB:企業、事業所、店舗、部門、契約数
店舗型事業:商圏人口、世帯数、昼間人口、来店回数
仲介型事業:取引件数、流通総額、手数料売上
たとえば、「全国の企業数」と「対象地域の事業所数」を同じ計算に入れると、本社と支店を重複して数える可能性があります。「利用者数」に「企業向け年間単価」を掛けるのも、単位が一致しません。
計算表の先頭には、必ず次の一文を書きます。
今回は、対象条件を満たす事業所数に、1事業所当たりの年間契約額を掛けて市場規模を計算する。
この一文が書けなければ、統計を探す前に対象定義へ戻ります。
市場規模の調査に使える公的データ
人口・世帯・就業者を調べる
地域、年齢、世帯構成、就業状態などを確認する場合は、総務省統計局の令和2年国勢調査が基礎になります。
国勢調査より新しい人口水準を確認したい場合は、人口推計を併用します。国勢調査の年と現在の人口を同一の数字として扱わず、それぞれの基準日を記録してください。
企業・事業所・従業者・売上を調べる
BtoBでは、令和3年経済センサス‐活動調査から、産業や地域別の企業数、事業所数、従業者数、売上などを確認できます。
業種の範囲が曖昧な場合は、e-Statの日本標準産業分類で、含める分類と除外する分類を先に決めます。
ただし、統計表が作られた時点と産業分類の改定年は必ず確認します。現在の分類名を、そのまま過去の統計表へ当てはめられるとは限りません。
家計の支出を調べる
個人向け商品の支出水準を確認する場合は、総務省統計局の家計調査を使えます。
家計調査は抽出された世帯を対象とする調査です。全国の平均支出を、そのまま特定の年齢、地域、課題を持つ人の購入額として扱わないでください。対象世帯、集計区分、品目の定義を確認し、単価の参考値や別計算との照合に使います。
商圏と直近の動向を調べる
店舗や地域サービスでは、e-StatのjSTAT MAPを使うと、市区町村より細かい地域やメッシュ単位で人口・世帯・事業所を確認できます。
小売市場の最近の方向性を確認する場合は、経済産業省の商業動態統計も候補です。ただし、月次の増減を、そのまま新規事業の獲得可能額に置き換えてはいけません。構造を把握する統計と、直近の動きを見る統計を分けて使います。
統計名が分からない場合は、各府省の統計を横断検索できるe-Statから探します。数字を見つけたら、表のタイトル、調査年、単位、注記まで確認します。
TAM・SAM・SOMを作る8ステップ
1.今回の判断を一文にする
「市場を知る」ではなく、判断と期限を書きます。
3か月後に試験販売へ進むか判断するため、対象地域のSAMと初年度SOMを確認する。
設備投資の判断と、顧客インタビューを5件行う判断では、必要な精度が違います。
2.対象条件と除外条件を決める
年齢、地域、業種、従業者規模、既存設備、許認可、予算区分などを列挙します。
「中小企業向け」のような広い表現ではなく、「特定地域にあり、従業者数が一定範囲で、現在の提供方式を利用できる事業所」のように、統計表で抽出できる条件へ変換します。
3.出典台帳を作る
数字ごとに、次を残します。
統計名と統計表名
調査主体
調査時点と公表日
地域、対象、単位
速報値か確定値か
税込みか税抜きか
URL
加工した計算式
利用上の注意
「e-Statで見た」だけでは、後から同じ数字を再現できません。
4.TAMを二つの方法で計算する
トップダウンでは、既存統計の市場全体から対象割合を絞ります。
TAM = 対象になり得る顧客数 × 年間単価既存市場の年間支出額が直接公表されている場合は、その値を基準にする方法もあります。
一方、ボトムアップでは、顧客数、購入頻度、単価を積み上げます。
TAM = 対象顧客数 × 年間購入回数 × 1回当たり単価二つが大きく離れたら平均を取らず、対象範囲、単価、購入頻度のどこが違うかを確認します。
5.SAMでは「買えない顧客」を除く
TAMから、現在の商品では対象にできない範囲を除外します。
提供地域外
対象外の業種・規模
必要設備がない
規制や契約条件を満たさない
価格帯が合わない
自社の提供方式を利用できない
SAM = TAMの対象顧客数 × 適合率 × 年間単価適合率に根拠がなければ、都合のよい割合を置かず、該当条件を持つ顧客へのインタビューや名簿調査を次の行動にします。
6.SOMは営業と供給から積み上げる
SOMを「SAMの1%」のように置くと、その1%へ届く根拠がありません。
営業側は次の順に積み上げます。
接触可能数 × 会話化率 × 提案化率 × 成約率 × 年間単価さらに、提供できる顧客数の上限を確認します。
SOM顧客数 = 営業から見た獲得数と供給可能数の小さい方営業で10件獲得できても、同時に3件しか提供できなければ、初期SOMは3件を基準にします。
7.一点ではなく三つのシナリオを作る
未検証の会話化率や成約率を一つに決めず、保守、基準、上振れの三つを置きます。
上振れケースだけで投資が成立する計画は、まだGOではありません。どの仮定を検証すれば、保守ケースから基準ケースへ移れるかを決めます。
8.数字をGO・HOLD・STOPへ変換する
たとえば、次のように判断条件を先に定めます。
GO:基準ケースで必要粗利を満たし、供給体制も準備できる
HOLD:SAMは確認できたが、単価または成約率の根拠が不足している
STOP:供給上限まで販売しても必要粗利に届かない
STOP:法規、設備、契約条件により主要顧客へ提供できない
実際の条件は、事業の投資額、撤退費用、検証期間に合わせて設定します。
完全な架空例:宿泊施設向け業務改善サービス
以下は計算方法を示すための完全な架空例です。実在する企業、顧客、FREE LABOの案件、公的統計の実数とは関係ありません。
全国の対象候補を8,000事業所、年間契約額を24万円と仮定します。
TAM
8,000事業所 × 24万円 = 19億2,000万円地域、施設規模、既存設備、提供条件を満たす事業所が1,200件と仮定します。
SAM
1,200事業所 × 24万円 = 2億8,800万円初年度の営業を三つのシナリオで計算します。
シナリオ / 接触数 / 会話化率 / 提案化率 / 成約率 / 計算上の成約数
保守 — 接触数:80 / 会話化率:10% / 提案化率:50% / 成約率:25% / 計算上の成約数:1件
基準 — 接触数:120 / 会話化率:15% / 提案化率:60% / 成約率:30% / 計算上の成約数:約3件
上振れ — 接触数:160 / 会話化率:20% / 提案化率:65% / 成約率:35% / 計算上の成約数:約7件
同時に提供できる上限が5件なら、上振れケースも5件で止まります。
初年度SOM
保守:1件 × 24万円 = 24万円
基準:3件 × 24万円 = 72万円
上振れ:5件 × 24万円 = 120万円TAMは19億円を超えていても、初年度SOMは24万〜120万円です。
ここで経営者が検討すべきなのは、「巨大市場だから参入する」ではありません。
72万円の基準ケースで検証費用を回収できるか
120件へ接触できる経路があるか
年24万円という価格を顧客が受け入れるか
5件を超えて提供するには何を標準化すべきか
この問いに変換できて、初めて市場規模が経営判断に使えます。
市場規模推計で起きやすい7つの誤り
業界全体の売上を、そのまま自社のTAMにする
人口、世帯、企業、事業所を途中で混ぜる
調査年や産業分類の違う統計を無条件で接続する
平均支出額を、全対象者が支払う価格として使う
SAMの除外条件を文章で説明できない
SOMを根拠なくSAMの1%、3%、5%と置く
上振れケースだけで投資回収を説明する
市場規模調査の最終チェックリスト
☐ 何を判断する調査か一文で書いた
☐ 人、世帯、企業、事業所など計算単位を統一した
☐ 対象条件と除外条件を明記した
☐ 統計名、調査年、単位、URLを記録した
☐ TAMをトップダウンとボトムアップで照合した
☐ SAMへ絞った根拠を説明できる
☐ SOMを営業能力と供給能力の両方から計算した
☐ 保守、基準、上振れの三つを作った
☐ 未確認の仮定と、次に確認する方法を分けた
☐ GO・HOLD・STOPの条件を数字と結び付けた
まとめ
市場規模は、事業を魅力的に見せるための数字ではありません。
TAMで長期的な上限を確認し、SAMで現在の商品が対象にできる範囲を定め、SOMで営業と供給の現実へ落とします。そして、出典、除外条件、未確認事項を残し、GO・HOLD・STOPへ接続します。
三つの数字を一枚の意思決定にまとめたい方は、次の実務テンプレートを使えます。
15項目でGO・HOLD・STOPを決める実務テンプレートを見る
このテンプレートだけで判断できれば、個別相談は不要です。記入後も市場規模の根拠、対象顧客、初年度SOMを定められない場合に限り、購入記事内の適合確認から次の調査支援を選べます。
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