臨界分配関数論――臨界現象を「分配関数」から組み直す論文を公開しました
臨界分配関数論(Critical Partition-Function Theory)の第一論文を、Zenodoで公開しました。
DOI:10.5281/zenodo.21911425
今回の研究で考えたかったことは、とても単純です。
通常、臨界現象を考えるときには、
「何次元か」
「どんな対称性を持つか」
「相互作用は短距離か長距離か」
「どんな模型・ハミルトニアンか」
といった情報を先に与え、そこから臨界指数やスケーリング関数を求めます。
今回の理論では、この向きをかなり逆転させました。
まず臨界指数やスケーリング構造などの少数の臨界パラメータがあり、次元・対称性・相互作用距離などは、そこから再構成される側の量なのではないか。
これが臨界分配関数論の基本的な視点です。
臨界指数からスケーリング関数そのものを決める
今回の第一論文で特に重要なのは、スケーリング関数についての結果です。
従来のスケーリング理論では、臨界指数によってスケーリング変数や関数の形は強く制約されますが、非自明なスケーリング関数そのものは、一般には別途求める必要があります。
今回扱った二変数・power-law・rank-one sector では、臨界点における log partition function の Hessian が rank 1 になるという条件から、スケーリング関数が満たす非線形微分方程式が現れます。
TeXをそのままnoteへ貼れないので、記号を少し簡略化して書くと、
(rho, sigma) + rank(H) = 1
→ scaling function Phi が満たす非線形方程式
→ 正規化された Phi の関数形全体
という流れです。
つまり、このsectorではスケーリング関数を「未知の任意関数」として残さず、少数の臨界パラメータから関数形そのものを決定できます。
これは今回の論文の中心結果の一つです。
臨界準位間隔分布も分配関数から見る
もう一つの柱が、臨界準位統計です。
臨界準位間隔分布を P_c(s) とすると、その Laplace transform を L_c(a) と書くことができます。
今回の理論では、
P_c(s) ↔ L_c(a) → V(a) ↔ theta(a)
という形で、確率分布、Laplace生成関数、キュムラント曲率、running shape parameter をつなぎます。
ここで重要なのは、ランダム行列模型を最初に仮定していないことです。
Anderson転移では臨界準位統計が長く研究されてきましたが、今回の構成そのものは「ランダム系だから」導入されたものではありません。
分配関数と臨界構造から出発しているので、より一般の臨界現象へ同じ考え方を持ち込める可能性があります。
次元を「入力」ではなく「結果」として見る
この研究では、次元についての見方も少し変わります。
普通は、
dimension → critical exponents
という向きで考えます。
臨界分配関数論では逆に、
critical parameters → dimension descriptor
という逆問題を考えます。
これは「空間次元は存在しない」という意味ではありません。
臨界現象を特徴づける座標として見たとき、次元を最初から固定するのではなく、臨界データから読み出せる量として再定義できるのではないか、ということです。
Anderson転移では、非整数の spectral dimension を持つフラクタル格子上で臨界指数を調べる研究も進んでおり、「次元を連続的な臨界座標として見る」という考え方には現実の比較対象があります。
同じ考え方は、対称性や相互作用距離についても考えられます。
つまり、
critical parameters
→ dimension / symmetry / interaction-range descriptors
という方向です。
ただし、これらの一般的な逆写像をすべて第一論文で完成させたわけではありません。今回の論文では、そのための分配関数側の基礎構造を作っています。
RG、CFT、非線形σ模型、ランダム行列、数論を共通座標で見る
論文を書くにあたって、かなり広い先行研究を調べました。
スケーリング理論、繰り込み群、共形場理論、functional RG、非線形σ模型、Anderson局在、ランダム行列理論、multifractality、Lee–Yang/Fisher zeros、thermodynamic geometry、large deviations、数論的統計力学、Riemann ζ関数などです。
それぞれ非常に強力な理論ですが、出発点はかなり違います。
臨界分配関数論では、これらを全部同じ理論へ還元しようとは考えていません。
むしろ、
分配関数・log partition function・Hessian・キュムラント・スケーリング関数
という共通座標を使い、それぞれの理論が与える情報を部分的に翻訳できるのではないか、と考えています。
例えば、
RGで得られた臨界指数
→ 臨界分配関数の座標
→ スケーリング関数
あるいは、
臨界準位統計
→ 臨界分配関数の座標
→ 次元や対称性に関する情報
といった翻訳です。
この意味で、臨界分配関数論は「新しい個別模型」というより、異なる臨界現象・異なる理論体系の間で使える共通座標として育てたいと思っています。
非線形σ模型を逆向きに使えば、材料開発にもつながるかもしれない
これはまだ今後の研究ですが、かなり面白いと思っている方向があります。
Anderson転移などでは、非線形σ模型(NLσM)が、対称性・次元・結合定数などと臨界現象をつなぐ有効理論として使われます。
通常は、
材料・模型
→ NLσM
→ RG
→ 臨界指数
という順番です。
臨界分配関数論から逆向きに見れば、
欲しい臨界パラメータ
→ NLσM / effective field theory
→ それを実現する材料候補
という逆設計を考えられるかもしれません。
材料の種類から臨界性を探すのではなく、
「こういう臨界性が欲しい」から材料を探す。
まだ研究計画の段階ですが、個人的にはかなり面白い方向だと思っています。
数論とのつながり
分配関数という立場を取ると、統計力学以外にも自然に広がります。
例えば energy level を
epsilon_n = log n
と置けば、
Z(beta) = Σ g_n n^(-beta)
となり、g_n = 1 なら Riemann ζ関数になります。
数論的対象を統計力学として読む研究自体には長い先行研究があります。
僕自身も以前、数論的BECや Hessian degeneracy を用いて数論的臨界現象を考える研究を行っていました。
今回の研究では、それを特定の数論的模型に限定せず、一般化された分配関数の臨界構造として組み直しています。
第一論文として、ここで一度固定します
今回の第一論文ですべてを完成させたわけではありません。
特に、
有限サイズ依存性
dimension / symmetry / interaction range の一般的な逆再構成
臨界準位分布の具体的な数値検証
NLσMを介した逆設計
より一般の multicritical / BKT / quantum critical sector
などは、これからの研究です。
第一論文では、その土台になる
「臨界現象を、模型ではなく分配関数の臨界構造から見る」
という枠組みと、その中で厳密に閉じる部分をまとめました。
かなり長い研究になりましたが、ようやく第一論文として公開できました。
興味のある方に読んでもらえたら嬉しいです。
DOI:10.5281/zenodo.21911425
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