#しくみのスキマ|機能にない触媒という立ち位置がしくみを変える
はじめに
多くの企業では、情報システム部門とDX推進部門は別々に存在しています。
情報システム部門はインフラやセキュリティを守り、システムを安定運用・進化させることが役割です。
一方でDX推進部門は、業務改革や新しい挑戦を推し進めることが役割です。
この役割分担は、組織を安全かつ前向きに動かすための、基本的に正しい考え方です。
しかし私は、現場での業務経験を経てDX推進に携わり、いまは情報システム部門にいます。
組織図のセオリーから見れば、本来「いないはず」の中途半端な立ち位置かもしれません。
ですが、そこにいるからこそ、見えてきたものや、できることがあります。
役割が分かれている意味
情報システム部門は“守りと進化”の部門です。
インフラやセキュリティを安定稼働させること、既存システムをより良くすることがミッションです。
システムが止まれば現場の息が止まってしまうため、彼らは極めて慎重に、論理的に物事を進めます。
DX推進部門は“攻めと変革”の部門です。
業務改革や新しいサービスを生み出し、企業に変化を起こすことがミッションです。
既存の枠組みを疑い、時には摩擦を恐れずに新しい風を吹き込もうとします。
守りと攻め。性質の異なる仕事だから、分かれていることには合理性があります。
両者が同じ部署にいては、安全性を優先して変革が止まるか、変革を焦って足元のシステムが揺らぐかのどちらかに陥りやすいからです。
でも、交わるからこそ生まれるものがある
私は現場の実態や痛みを知り、DX推進という変革を経験し、いま情報システム部門にいます。
現場・改革・システム、三つの視点を一度に持つことで、情報システム戦略とDXを効率的につなげることができるようになりました。
このポジションに立ってみて気づいたのは、「混ざることでしか起きない良いことがある」ということです。
例えば、新しいツールを導入するとき、システム側は「仕様通りか」を気にし、現場は「今の自分たちのやり方に合うか」を気にします。
この二つは、そのままぶつけると必ずすれ違います。
しかし、両方の文脈を知っていれば、現場の「やりたいこと」をデジタルの「仕様」に翻訳し、システムの「制約」を現場が納得できる「運用ルール」へと変換することができます。
「触媒」として起こるポジティブな反応
私は、自分の役割を“触媒”だと思っています。
現場・開発・ベンダー・経営、それぞれの人たちが持つ知識や経験を翻訳し、つなぎ合わせ、反応を促す。
ただの間に入って言葉を伝える伝書鳩ではなく、異なる物質を混ぜ合わせて新しい変化を生み出す存在です。
すると、組織に少しずつ不思議なことが起きます。
これまでになかった発想が生まれる。
既存の開発者や運用担当が新しい視点を得る。
「あ、こういうやり方もあるんだ」という相互のリスペクトが生まれる。
最初から全社を変えようとするのではありません。
「杭を打ち、そこから寄って広げていく」ように、小さな変化が大きな変革の土台になる感覚です。
これは組織を壊す“異物”ではなく、“化学反応を起こす触媒”に近い役割です。
情報システム部にいるDX推進者の強み
現場が見えるから、「こんなことができればいいな」を具体的に想像できる。
システムを知っているから、「何を揃えればどこまでできるか」を企画できる。
そして、ユーザーから見えないデジタルの仕組みを“明るく照らし”、共創できる。
これは情報システム部門にいるからこそできることでもあり、同時にどの部門でも応用可能なことでもあります。
技術だけが先行しても、現場の熱量だけが先行しても、仕組みはうまく回りません。
両方の温度感を知り、間を縫い合わせるように設計することで、初めてシステムは現場で呼吸を始めます。
もっと深く「しくみと立ち位置」を覗きたい方へ
「触媒」としての役割や、業務とシステムの間に立つ職能について、より深く構造や哲学から理解したい方は、ぜひこちらの記事も覗いてみてください。
#業務設計者論|業務でもITでもない、しくみの“スキマ”に立つ
今回お話ししたような、システムでも現場でもない「どっちつかず」に見える立ち位置が、なぜ今の組織に必要なのかを定義しています。
#業務設計者論|翻訳者はしくみの言葉を編む
異なる部門の間に立ち、言葉をどう翻訳してつなぎ合わせるのか。その具体的な思考プロセスに触れています。
#しくみのスキマ |一点突破がしくみを広げる法則
いきなり全体を変えるのではなく、「杭を打って広げる」ような小さな化学反応の起こし方、広げ方の構造を解説しています。
どの部門でもできること
私がこの立ち位置にいるのは、たまたまの環境や経歴があったからです。
けれど、どの部門にいても「掛け合わせ」や「杭打ち」をすることは可能です。
業務効率化や改革は、どの部門でも永遠の課題です。
自分の持つ経験やスキルに、少し違う領域を掛け合わせるだけで、小さな化学反応を起こせるかもしれません。
営業の知識と少しのデータ分析、経理の知識と少しの自動化ツールなど、ほんの少しの越境が、組織の空気を変えるきっかけになります。
おわりに
情報システム部門に現場上がりのDX推進者がいることは、「触媒」のような役割を果たします。
違う視点が混ざることで、組織に化学反応が起き、新しい価値が生まれます。
あなたの周りにも、こうした“触媒”はいますか?
あるいはあなた自身が、別の領域に杭を打ち、ポジティブな反応を起こせるかもしれません。
◯と◯の掛け合わせで、自分のポジションを確立しながら、次の“化学反応”を起こしてみませんか?
