私的映画録…「リリィシュシュのすべて」2001年 [映画感想文]
あちこちでいろいろな文章を書いたり、本を出したり、セミナーで話したり、Web関連を中心としたPRのディレクションをしたり、音楽作品を出したり、アーティスト紹介サイトの運営をしたり、うさぎの動画を作ったり…なんてことをしているけれど、そのどこでも書けていない、これまでに観た映画等の感想でも書いておこうかと書き始めた第433弾。
今回は、好きな映画という意味でかなり上位に入る作品「リリィシュシュのすべて」のお話。
先に書いておくと、原則としてネタバレとかまったく気にせず書いているので、まだ観てない方やネタバレが気になる方はお読みにならない方がいいかもと思います。
ちなみに先に言い訳しておくと、この感想もだいぶ前に書いているものをちょっとなおして載せているので、まさに今の情報とは違っていることもあるかもしれませんので、そういった点もお許しください(毎回冒頭から言い訳が多い)。
公開:2001年10月6日
監督:岩井俊二
脚本:岩井俊二
出演者:市原隼人、忍成修吾、蒼井優、伊藤歩、大沢たかお、稲森いずみ、細山田隆人、松田一沙、高橋一生、吉岡麻由子、阿部知代、市川実和子、樋口真嗣、杉本哲太、等
配給:ロックウェル・アイズ
一言で言えば痛い。
痛さでいっぱい。
加害者側ですら痛さでいっぱい。
しかもこの痛さは取り返しもつかない。
しかしきっと彼らはいつしかこの痛さを忘れちゃうんだろうなぁとも思える痛さも感じる。
北関東の田園風景広がる地方の町の学校。
その生徒たちの間にいつの間にかできる強力なヒエラルキーによって、学校生活は一気に地獄に変わる。
そしてとても残酷なことも行われ、取り返しのつかないこともやってしまう。
そして教師は概ね無力かつ不感症だ。
しかし、それもなんとなく記憶が薄れて乗り越えて行けちゃう。
それがこういう年代の特徴でもあり特権でもあるのかもしれないなと観ていて思った。
だから痛い。
取り返しのつかないことさえいつか自分と切り離された記憶の一つに変わっていくんだろうなぁ…とか。
実際自分たちの学生時代にも、この映画のように、前年までのいじめられっ子が翌年とてつもない支配者になることなんてこと、あったもんなぁ。
ホント、なにがきっかけでどう変わっていくのか、実はまったく読めない。
それがこの年代なんじゃないかなと思う。
そして最終的に人が死ぬ。
それもアリだと思う。
多くの映画において、こういう風に人が死ぬと殊更それが大袈裟なことになり、主人公は打ちひしがれて立ち直れなかったり、またはその立ち直るまでの過程を物語にしたりするものだが、この主人公はそれをあっさりと乗り越えることもできちゃっているように見える。
そしてラスト、きっと彼は、それをやった自分のこともやがて忘れてこのまま何事もなかったかのように生きて行くんじゃないかなぁと。
そんな風にさえ思える。
それがこの年代ということなのだろうし、そこにある重大さに気づくのは、きっともっと年齢を重ねてからということなのだろうなとも思う。
だからさらにリアルさを感じたりもする。
そう考えると岡崎京子さんの「リバース・エッジ」が描いていたものとの共通点は多いかもなぁ。
「リバース・エッジ」が連載されていたのが1993年から1994年。
こちらの作品は2001年公開。
準備期間を考えると実はほぼ同時期に着想していたかもしれない。
そして岡崎京子さんも岩井俊二監督も、こうした少年少女たちに対して、ともに近しい結論を得たのかもしれない…なんてことも思ってみたり。
そしてこの映画は、音楽がすごく良かったという意味でも印象深い。
「リリィシュシュ」という劇中の架空アーティストの曲もすべてよかったし、ドビュッシーのピアノも美しかったし、劇中合唱曲のアレンジも良かった。
これらすべてを岩井俊二監督がかなり深く関わって(合唱曲なんてご自身がアレンジしたらしいし)、小林武史さんと作り上げたことも素晴らしい。
そしてこれらの楽曲は、若い年代だからこそ音楽にやたら大きな影響を受けるという事象を見事に描いているとも思える。
そういった意味でこの音楽も力強いもう一つの主役だったと思う(そう言えば岩井俊二監督と小林武史さんって「スワロウテイル」でもいい音楽を作ってたっけなぁ…あれも素晴らしかったっけ)。
そうそう、ネット掲示板を使った展開も話題になった。
それには参加していないので詳しくはないんだけれど、それに基づいて構成されていると思われる原作は、映画とはまた別の意味で面白かった。
そして当時それが、とてつもなく新しい試みと思えたっけなぁ。
映画内の、バケ文字がキーボードタイプの音とともに、ネット掲示板に書かれた投稿に変化する演出も印象的だったなぁ。
それと、岩井俊二監督ならではの画面の美しさや構図の面白さも印象的だった。
あの田園風景の美しさ(これがその背景で起こっていることの緊張感と相対して本当に印象深い)。
葬列のシルエット。
夜にあえて懐中電灯程度の光で撮られた映像。
泥の中に裸で落とされる少年の色。
列車の中の小津安二郎監督を思い起こさせる低い構図。
川に飛び込む津田詩織(演・蒼井優さん)。
逃げ回る久野陽子(演・伊藤歩さん)の目線から見た風景。
津田詩織が見上げるカイト。
津田詩織の事件後、自宅での蓮見雄一(演・市原隼人さん)に切り替わった時のカット。
その他、沖縄のシーンもコンサート会場のシーンも、忘れられない場面ばかりだ(そういえばコンサート会場の群衆には一人一人役割を書いた紙を渡していたんだとか…エキストラにすら演じるわくわくを与えちゃう岩井監督…すごいなぁ…)。
久野陽子のピアノ・シーンも美しかったなぁ。
そう言えばこの、優等生ながら酷い目に遭う久野陽子を演じた伊藤歩さんは、ピアノがまったく弾けなかったのにこの映画のために特訓して、ドビュッシーをある程度きちんと弾けるところまで持っていったとのこと。
実際画面の中の彼女は、まさに彼女自身が弾いているかのように見事な指使いを見せている。
絶対簡単な曲ではないと思う。
それをやってのけちゃうあたり、女優魂というか、ものすごいものを感じるなぁ。
伊藤歩さんはさらに坊主にまでなってるんだよね。
これって脱ぐより勇気いると思うなぁ(「スワロウテイル」では脱いでるんだけど…てか、なんかのインタヴューか対談の企画で「(岩井俊二監督の作品では)酷い目にあいっぱなし」だと笑ってたっけなぁw)。
本当にすごい俳優さんだと思う。
そうそう、主人公・蓮見雄一を演じた市原隼人さんや星野修介を演じた忍成修吾さん、そしてめちゃくちゃ印象的な少女・津田詩織を演じた蒼井優さんは、これがデヴューなんじゃなかったかなぁ(調べたら忍成さんだけ3作目だった;;;)。
それぞれこの作品の中でも本当に忘れられない表現を観せてるけど、みなさん、今や日本を代表する俳優さんたちだもんなぁ。
そのスタート地点がここだと思えるのも感慨深いなぁ。
とにかくこんなすごい映画、なかなかない。
もしまだ観ていない方がいたなら是非観てみてほしい。
本当にオススメ。
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