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深く掘る者が勝つ。 〜薄利163円が高収益に化けた理由〜

こんにちは。
株式会社スプリングボード代表の足立晋平です。

白状すると、私はかつて、タクシーに乗るのが少し苦手でした。

理由はお金ではありません。

流しの車をつかまえられずに手を挙げ続ける気まずさ。
電話してもつながらない営業所。
「あと10分でうかがいます」の、あの10分。

財布より、心の消耗のほうがこたえる。

そういう「お金以外のコスト」が、タクシーという乗り物にはついて回っていました。

それを、すっと消してくれたのがGO(ゴー)という配車アプリです。

スマホを数回タップすれば、近くの車が迎えに来る。
流しを探さなくていい。
電話しなくていい。
どこまで来ているかも見える。

あの非金銭的な面倒くささが、まるごと無くなった。

ガラパゴスかもしれないけれど、日本の事情にちゃんと根ざした、ありがたいイノベーションだなあと、乗るたびに思います。

そのGOが、先日上場しました。
時価総額はおよそ1864億円。今年の国内では指折りの大型上場です。

ところが目論見書を読んで、私は思わず首をかしげました。


🚕 1回163円の会社が、なぜ儲かるのか

GOがアプリでの配車1回から得る売上は、たったの163円。
2026年5月期3Q時点の数字です。

仮に運賃を1000円とすると、取り分は16%ほど。
世界の巨人Uberがアメリカで運賃の3割を取るのと比べると、ずいぶん薄い。

理由は規制です。

日本では、お金をもらって人を運べるのはタクシー事業者だけ。
GOにできるのは、乗客とタクシー会社を引き合わせる「仲介」まで。
そのマージンしか受け取れません。

これだけ聞くと、薄利のしんどい商売に思えます。

ところが、GOの営業利益率は期の途中で18%超。
Uberの約11%を上回っています。

薄いはずなのに、分厚く儲かっている。

種明かしはこうです。

GOがアプリの配車そのものから立てる売上は、全体の43%。
残りは「タクシー関連サービス」です。

たとえば、車内のキャッシュレス決済「GO Pay」の手数料。
後部座席のタブレットに流れる動画広告。

つまり、お客さんが乗っているあいだに、決済もすれば、広告も見る。

GOは「乗車」という一つの体験を、これでもかと深く掘って稼いでいたのです。

ここで効いてくるのが、こんな考え方です。

💡ちょこっと理論紹介💡
🧭 アンゾフの成長マトリクス

企業の成長の方向を「顧客」と「商品」の2軸で4つに整理した、イゴール・アンゾフの古典的フレームです。

同じ顧客に同じ商品を売り込む、同じ顧客に新しい商品を出す、新しい顧客に既存商品を広げる、そして両方とも新しい「多角化」。

一般に、新しい顧客×新しい商品の荒野へ飛ぶほど土地勘がなくなり、難易度はぐっと上がります。

アンゾフの成長マトリクス
(画像 https://x.gd/DY9IO)

Uberは、この図でいう「多角化」に進みました。
タクシーの顧客に、まったく別物のフードデリバリー、Uber Eatsという新商品を出した。

一方のGOは、同じ「乗っているお客さん」に、決済や広告という近い商品を重ねた。

広い荒野へ散らばったUber。
足元を深く掘ったGO。

同じ「成長」でも、向かった方角がまるで違うわけです。

🎨 北斎は、富士山だけで世界を獲った

「一つを深く掘る」と聞いて、私の頭に浮かぶのは葛飾北斎です。

『富嶽三十六景』。

タイトルのとおり、北斎は富士山という、たった一つの山を何十通りにも描き分けました。

富嶽三十六景 /葛飾北斎
(画像 https://x.gd/1XapK)

大波の向こうにのぞく富士。
町家の屋根ごしの富士。
雷雲を抱いた赤富士。

題材を増やしたのではありません。

一つの対象を、角度を変え、季節を変え、徹底的に掘り下げた。
その結果、富士山という一点から、無限のバリエーションが生まれた。

同じことを油絵でやったのが、フランスのモネです。

積みわら。
ルーアン大聖堂。
睡蓮。

彼は同じモチーフを、朝の光、昼の光、夕暮れの光で何枚も描き続けました。

対象は一つ。
けれど光が変われば、まるで別の絵になる。

題材を広げることだけが、豊かさではない。
一つを深く掘ることでも、世界は驚くほど広がる。

北斎とモネは、それを絵で証明してみせた人たちです。

GOがやったのも、絵筆こそ持たないけれど、同じこと。

「乗車」という一つの富士山を、決済から、広告から、データから、何度も描き直した。

私にはそう見えるのです。

🍜 なぜ「近くを掘る」と強いのか

ここで、もう一つ補助線を引きます。

💡ちょこっと理論紹介💡
🎯 隣接戦略(アジャセンシー)

強いコア、本業のすぐ隣へ、少しずつ染み出すように広げると成功しやすい」という、戦略コンサルタントのクリス・ズックが提唱した考え方です。

逆に、本業から遠くかけ離れた分野へ一足飛びに進出すると、勝率は一気に下がる。

新規事業の成否を分けるのは、アイデアの派手さより「コアからの距離の近さ」だ、というわけです。

身近な例で言えば、繁盛しているラーメン屋が、餃子とビールを置く。

これは隣接です。
お客さんも、店の強みも、ほぼそのまま生きる。

けれど同じ店が、いきなり隣にアパレルショップを開いたらどうでしょう。

たぶん、うまくいかない。
お客さんも違えば、勝てる理由もまるで別物だからです。

GOの決済や広告は、まさに餃子とビールでした。

「タクシーに乗っているお客さん」という、すでに握っているコアの真横。
だから無理がない。

一方、Uber Eatsは、いわばアパレルショップです。
当たれば大きい。
けれど、別の戦場で一から戦う必要がある。

どちらが偉いという話ではありません。

ただ、限られた資源で確実に稼ぐなら、遠くの花畑より、足元を深く掘るほうが堅い。

GOの18%という利益率は、その堅実さのご褒美のように見えます。

⚾ イチローが「ホームランを捨てた」理由

スポーツの世界にも、同じ匂いの人がいます。

イチローさんです。

彼ほどの身体能力なら、ホームランバッターを目指す道もあったはずです。

けれど彼が選んだのは、ヒットを打つ技術を、これ以上ないほど深く掘ることでした。

逆方向へ運ぶ。
芯を外しても内野安打にする。
相手の守備位置を読む。
走りながら打つ。

「ヒット」という一点を磨き続けた結果が、日米通算4000本超という、誰も到達できなかった地平です。

もし彼が、

「ホームランも打ちたい」
「盗塁王も取りたい」
「守備でも毎年一番になりたい」
「全部、その年の頂点を狙いたい」

と手を広げていたら、たぶんあの記録は生まれなかった。

広げないと決めることは、しばしば、深く掘ると決めることでもあるのです。

GOが「Uberのように何でもやる」道を選ばず、タクシーの一点に賭けたのも、どこか似ています。

何をやらないかを決めた者が、深く掘れる。

🧭 「全部できる人」を、目指さなくていい

ここまで会社や偉人の話をしてきましたが、これは私たち一人ひとりの、仕事やキャリアの話でもあると思っています。

30代、40代。
現場を任され、肩書きもつき、後輩も増えてくる。

すると不思議なもので、

「あれもできないと」
「この資格も取らないと」
「あの分野も押さえておかないと」

と、つい手を広げたくなる。

広げないと、取り残される気がしてくる。

でも、GOや北斎やイチローが教えてくれるのは、その逆かもしれません。

新しい何かを足すより、いま自分がすでに乗っている「乗車」を、もう一段深く掘れないか。

たとえば、こんな問いです。

🔍 いまの仕事で、自分がいちばん長く向き合ってきた「一点」はどこか

🛠 その一点の「周辺」に、まだ拾えていない価値が眠っていないか

🌱 広げる前に、もう一段だけ深く掘れる余地はないか

私の知るかぎり、「売れっ子」と呼ばれる人たちも、たいてい必殺技を10個持っているわけではありません。

たった一つの強みを、あきれるほど深く掘り下げている。
そして、その深さが、結果として他の誰にも真似できない厚みになっている。

163円の薄利を、誰も真似できない高収益に変えたGOのように。

私たちの「たった一つ」も、掘り方しだいで、まだまだ化けるはずです。

あなたが「深く掘れる一点」は、どこにありそうですか。

もしよかったら、コメントでそっと教えてください。
読むのを楽しみにしています。

今日も、最後までお付き合いいただきありがとうございました。


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