なぜFirefoxを使う人は辞めないのか?―― ブラウザの選択が「離職率」と「生産性」を左右するという驚きの事実
こんにちは。株式会社スプリングボードの足立です。
いきなりですが、これ…読んだ瞬間に「え、そこ?」と声が出ました。
そして同時に、ちょっと耳が痛かった。
「初期設定のまま生きてない?」って。
今日は、マシュー・サイド著『多様性の科学』に出てくる、衝撃的だけど実務に効くエピソードを紹介します。
テーマは、まさかの——ブラウザです。
「ブラウザ」の選択が、離職率を左右する?
労働経済学者のマイケル・ハウスマンは、あるソフトウェア企業のコールセンター従業員5万人分のデータを分析しました。
知りたかったのは、シンプルにこれです。
「どんな人が長く働き、成果を出すのか?」
学歴、転職回数、採用時の適性検査…。
「これが効きそう」と思える要因を片っ端から調べても、納得のいく答えが見つかりません。
学歴 → 決定打にならない
過去の転職回数 → 離職率と相関がない
適性検査(性格傾向など) → はっきりしない
ここで、研究助手がふと気づきます。
データの中に、業務能力とは無関係に見える“おまけ情報”が混ざっていた。
それが、「採用試験の入力フォームで、どのブラウザを使っていたか」でした。
正直、私ならスルーします。
「いや、関係ないでしょ」って言って終わりそうです。
でも集計してみたら、結果は想像以上でした。
Firefox や Chrome をわざわざインストールして使っていた人は、初期設定の Internet Explorer や Safari の人より勤続期間が15%長く、さらに欠勤日数が19%少なかった。
しかも生産性・売上・顧客満足が一貫して高く、対応時間も短かった。
——『多様性の科学』より要旨
「ブラウザが高性能だから?」ではありません。
ポイントは、もっと人間っぽいところにありました。
Internet Explorer / Safari は、PCに最初から入っている(初期設定)
Firefox / Chrome は、探して、選んで、ダウンロードして入れる必要がある
つまり差を生んでいたのはブラウザ自体ではなく、
初期設定をそのまま受け入れるか、より良い方法を探すかという行動のクセだったんです。
初期設定のブラウザではなく Firefox や Chrome を使っていた従業員は、マニュアルに縛られず、自分なりに工夫して顧客対応に当たる傾向が高かった。
(中略)彼らはマニュアルの枠組みから抜け出して考え、行動に移して問題を解決した。
自分の仕事に変化を起こした。それによって満足感を感じながら、高い生産性を発揮した。
——『多様性の科学』より引用
なぜ「初期設定のまま」だと、仕事はしんどくなるのか
コールセンターの仕事には、だいたいマニュアルがあります。
マニュアル通りで解ける問い合わせなら、正直ラクです。
でも現実には、こういう“例外”が必ず来る。
想定外の質問
条件が複雑で、正解が一つじゃない
相手が怒っている/不安になっている
このときに分かれ道ができます。
マニュアルの枠から出ない(出られない)
マニュアルを土台にして工夫する(出入りできる)
前者は「守っているのに詰まる」状態になりやすい。
詰まる回数が増えるほど、仕事が苦しくなる。
一方、後者は「詰まったら工夫する」という回路がある。
だから、例外が来ても立て直せる。
そして何より、自分で状況を動かせた感覚(手応え)が残る。
この手応えが、次の工夫を呼び、欠勤や離職を減らし、成果も上げていく。

ここまでの話を一言でまとめると、こうです。
「例外対応が来たとき、止まるか、動かせるか」で、仕事の体感が変わる。
そして、この体感の差を生む背景には、わりと有名な心理のクセがあります。
理論で言うと「デフォルト効果」:人は“変えない”を選びがち
ここで理論は1つだけ。行動経済学のデフォルト効果です。
人は、あらかじめ用意された選択肢(初期設定)を、そのまま選びやすい。
たとえば——
あなたのPCで、ずっと同じブラウザを使っている理由って、「最初からそれだったから」だったりしませんか?
職場でも、同じことが起きます。
会議が毎週60分なのは、昔からそうだったから
資料が分厚いのは、前任者の型を踏襲してるから
問い合わせ対応がマニュアル通りなのは、それが安全だから
つまり、選んでいるようで、実は「選ばずに済ませている」。
忙しいときほど、これは合理的です。面倒を増やさずに回るから。
ただ、変化が多い現場では、この“初期設定のまま”が、じわじわ効いてきます。
例)マニュアル外の問い合わせが来た瞬間
想定外の質問が来る
→ マニュアルの該当ページがない
→ とりあえず探す
→ でも答えが出ない
ここで「初期設定」タイプの人は、こうなりやすい。
マニュアルにない=自分は動けない
結果、同じ場所で止まる
相手の圧が上がる
自分の焦りも上がる
この状態が続くと、仕事の感覚がこう変わっていきます。
「自分の力で前に進めた」ではなく
「詰まって、消耗して終わった」が積み上がる。
そりゃ疲れます。
疲れると、休みたくなる。
そして「この仕事、向いてないのかも…」に繋がっていく。
逆に「変えられる」と思える人は、止まっても“動かし方”を知っている
一方で「変えられる」タイプの人は、同じ場面でこう動きます。
言い回しを変える(相手の前提を確認する質問に切り替える)
質問の順番を入れ替える(結論に必要な情報から先に聞く)
別ルートを探す(FAQ、社内ナレッジ、過去ログ、担当部署)
詳しい人に聞く(30秒で答えが出るなら聞いたほうが早い)
ここで大事なのは、派手な工夫じゃないことです。
神対応とか天才的ひらめきじゃなくて、
「詰まったときの次の一手を、2〜3個持ってる」
それだけで、体感がまるで違う。
だから、小さな工夫で十分なんです。
むしろ効くのは、だいたいその程度だったりします。
そして面白いのが、ハウスマンの研究です。
Firefoxを選ぶ人は、日常の小さな場面でも「初期設定を更新する」経験を積んでいた。
そのクセが、仕事の例外対応でも効いていた——というわけですね。
職場の「初期設定」は、思っている以上に多い
この話、コールセンターに限りません。
会議は毎週60分が当たり前
資料は分厚いほど安心
引き継ぎは前の人のフォーマットを踏襲
「マニュアル通り」が評価される空気がある
…ありますよね。
私も研修づくりで、気づくとやってしまいます。
「前回の構成をベースに…」って置きにいくやつ。
効率はいいし事故も減る。でも、変化には弱い。
初期設定は便利です。
ただ、便利すぎると、思考の筋肉が落ちる。
「初期設定を壊す」じゃなく「初期設定をゆるめる」
いきなり改革はいりません。
現場で効くのは、こういう“小さな変更”です。
「このやり方、なんでこうなってるんだっけ?」を一度だけ口にする
マニュアルに「例外時の判断ポイント」を1行だけ足す
会議を1回だけ「30分・結論先出し」で試す
自分の仕事で「小さな改善」を1個だけやってみる
ポイントは、初期設定を否定することじゃない。
初期設定を未完成のまま扱うことだと思います。
完璧すぎる仕組みは、人の工夫を止める。
でも、少し余白があると、人は考え始める。
最後に:「初期設定を1個だけ」疑ってみましょう
偉そうなことを書きましたが、私も普通に“そのまま”に流れます。
忙しいと、思考が浅くなる日もありますし、面倒で後回しにする日もある。
だからこそ、この研究の示唆が刺さりました。
「この世界は変えられる」と思える人は、仕事の中でも変えられる。
そして、その小さな変化が、成果と満足感を連れてくる。
あなたの職場の「初期設定」、ひとつだけ挙げるなら何ですか?
(そして、それは本当に“今も最善”でしょうか)
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