「隣は30%OFF」問題に、社長が選んだ“まさかの答え”──モンベルの価格リストラが教える視座の上げ方
みなさん、こんにちは。株式会社スプリングボードの足立です。
突然ですが、こんな経験はありませんか?
あるお店で定価で買った商品が、隣のお店では「30%OFF」で売られていた。
その瞬間に来るのは、得した気分ではなく——「しまった!」という損した感覚と、少しの裏切られたような気持ち。
今日は、まさにこの 「隣は30%OFF」問題 を、真正面から解いた会社の話です。
主役は、日本が誇るアウトドアブランド モンベル。そして意思決定したのは、辰野勇社長(当時)でした。
結論から言うと、社長が選んだ答えは“まさか”のこれです。
卸価格はそのまま。メーカー希望小売価格(定価)を、一気に3割下げる。
え? 値引きに負けたの? と思いますよね。
でも、ここが面白いところです。これは単なる値下げじゃありません。
「市場のルールそのものを作り変える」 という、構造への一手でした。
「売れるサクランボ」しか摘まないお店たち
時は1991年。モンベルが大阪駅近くに、記念すべき直営店第1号を出したときのことです。
それまでモンベルの商品は、問屋を通して登山専門店などで販売されていました。
しかしメーカーとしては、どうしても越えられない壁がありました。
それが チェリーピッキング です。
「熟れたおいしいサクランボだけを摘む」
=小売店が「確実に売れる定番商品」しか置いてくれない状態
アウトドア・登山の世界って、売れ筋だけでは成り立ちません。
少数でも必要な道具があるし、新製品も「見て・触って・説明を聞いて」納得して買うものが多い。
なのに、棚に並ばなければ存在しないのと同じ。
「このままでは、本当に届けたい価値が届かない」
そう考えた辰野会長は、リスクを取って直営店を出します。
品揃えも、説明も、体験も、自分たちの手で届けるために。
直営店が出会った「不都合な真実」
ところが、直営店オープン直後に、さらに大きな壁が立ちはだかります。
すぐ近くの取引先店舗で、モンベル製品が 常時3割引き で売られていたのです。
お客様は直営店で丁寧な説明を聞き、商品の良さを理解する。
でも、買うのは安い隣の店。
あるいは、直営店で買ったあとに隣の安売りを見て——
「損した!」
と返品に来られるお客様も出てきました。

ここで起きているのは、単なる価格差ではありません。
定価を守る直営店が、結果としてお客様に不公平感を与えてしまう
かといってメーカーが、値引き競争に参戦するわけにもいかない
あちらを立てればこちらが立たず。
「真面目にやっている側」が、損をする構図です。
みなさんがリーダーなら、この状況でどうしますか?
値引きしますか。説得しますか。取引先を切りますか。
社長が選んだ“まさかの答え”——定価を3割下げる
辰野会長が選んだのは、こういう答えでした。
卸価格は据え置きのまま、メーカー希望小売価格(定価)を一気に3割引き下げる
ここ、表面だけ見ると「値下げ」です。
でも本質は、「値下げ」ではなく 参照点(基準) の修正です。
人は価格そのものよりも、
「これが普通だよね」という基準と比べて、損得や不公平を感じます。
市場で3割引が常態化しているなら、
お客様の頭の中の“普通”も、もうそっちに寄っている。
その状態で直営店が定価を守ると、良い接客をしても、
割高に見える
損した気分になる
信頼が削れる
つまり直営店は、商品ではなく 体験 で負けてしまう。
だから辰野会長は、定価そのものを動かして
「どこで買っても大きく差が出ない」状態を作った。
この一手で、まず 顧客の心の痛み が消えました。
価格でチャネルが“整う”——残ったのは、価値で売る店だった
さらに面白いのは、この決断が 流通(チャネル)そのものを整えた ことです。
定価を下げると、値引きの余地は小さくなります。
すると「安売り」だけを武器にしていた店は、優位性がなくなる。
一方で、丁寧に説明し、納得して買ってもらう登山専門店はこう感じた。
「これで不毛な値引き競争を意識せずに、丁寧な商売ができる」
結果として、モンベルの周りには
価値を正しく伝えてくれるパートナー が残った。
価格って、売上を作る道具だと思われがちですが、
時にそれは 「誰と、どんな売り方をするか」を選別する装置 にもなるんですよね。
黒船が来る前に、ルールを変えた
そしてもう一つ。辰野会長は、目の前の値引き問題だけを見ていませんでした。
当時アメリカでは、大型アウトドア店が
自社ブランド(PB)を企画・製造し、低価格で売るモデルで支持を集めていました。
もし彼らが日本に来たら、攻め手はシンプルです。
「安い」
「一通り揃う」
「分かりやすい」
もし日本市場が
「定価は高いけど、どこかで大きく値引きされる」
という前提のままだったら、黒船の“刺さり方”はもっと強かったかもしれません。
でもモンベルは、先に身を切って EDLP(Everyday Low Price) に寄せ、
価格差で揺さぶられる隙を減らしていた。
結果として、外資が来ても採算が合わず撤退し、モンベルが引き継ぐ展開へ。
この流れは、「視座を高くした意思決定」が後から効いてきた例だと思います。
モンベルの話は、私たちの仕事にもそのまま刺さる
この話を「アウトドア業界の成功談」で終わらせないとしたら、学びはここです。
目の前の現象(値引き)を追うのではなく、体験と構造(ルール)を見にいく。
「隣が安いから、ウチも安くする」
「売れないから、もっとキャンペーンを打つ」
「文句が出たから、とりあえず謝る」
こういう対症療法も必要です。でも、どこかで消耗戦になる。
一段上の視座に上がると、問いが変わります。
なぜお客様は不満なのか?(損得ではなく“不公平”かもしれない)
守りたい価値は何か?(価格ではなく“信頼”かもしれない)
その前提は、誰のためのルールなのか?
そして時には、
身を削ってでも、ルールそのものを変える という選択肢が見えてくる。
モンベルのロゴを見るたびに、そんな「覚悟」を思い出して背筋が伸びる思いです。
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