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「3年先の約束」は、もうしなくていい。 〜味の素×ホンダ・スーパーカブに学ぶ、“創発”で勝つチームの作り方〜

こんにちは。
株式会社スプリングボード代表の足立晋平です。

ここ数年、日本の経営界隈で「味の素の決断」が静かな、しかし強烈な波紋を呼んでいるのをご存知でしょうか。
それは、多くの日本企業が金科玉条のごとく守ってきた「中期経営計画(中計)」の廃止です。

3年先、5年先の数字を緻密に積み上げ、分厚い資料を作る。

サラリーマン時代、この「中計づくり」のために徹夜をしたり、上司と詰め合ったりした経験がある方も多いはずです。

私も会社員時代、鉛筆を舐めながら「3年後の売上なんて、誰にもわからんやろ……」と心の中でボヤいていた記憶があります。

味の素は、これを「中計病」と名付け、バッサリとやめました。

今日は、このニュースを単なる「制度の変更」としてではなく、「ホンダのスーパーカブ」の成功事例や、私自身の若手時代の失敗談も交えながら、私たち現場のリーダーが明日からチームをどう動かすべきか?という視点で噛み砕いてみたいと思います。


🟥 なぜ味の素は「地図」を捨てたのか?

味の素が中計を廃止した理由は、非常にシンプルかつ本質的です。

「3年先の予測が不可能な時代に、緻密な計画を作ることにエネルギーを使うのをやめ、長期ビジョンの実現と変化への対応に全振りする」

これに尽きます。

これまでの日本企業(そして多くの組織)は、こんな症状に陥っていました。

🚫 手段の目的化
計画を作ること自体が仕事になり、現場が疲弊する。

🚫 短期志向の罠
3年間の数字を作ることに固執し、本来目指すべき長期的な「ありたい姿」がおろそかになる。

🚫 硬直化
「3年前に決めたことだから」と、目の前で起きている変化(競合の台頭や市場の変化)に目をつぶる。

味の素の藤江社長は、これを「中計病」と呼びました。

代わりに導入したのが、ASV(Ajinomoto Group Shared Value)経営です。
これは、「現状からの積み上げ(フォアキャスティング)」ではなく、「2030年にどうなっていたいか(バックキャスティング)」から逆算し、「今の最適解」を毎月見直す(ローリングフォーキャスト)というスタイルです。

ガチガチに決まった「地図」を持って旅をするのをやめて、遠くにある「北極星」だけを見据えながら、目の前の地形に合わせてコンパスで進路を決め続ける。そんなイメージへの転換です。


🟧 計画通りにいかないのが「現実」

ここで少し、経営学の視点を借りてみます。
「なぜ計画はうまくいかないのか」について、非常に腹落ちする理論があります。

💡ちょこっと理論紹介💡
🧢 ミンツバーグの「創発的戦略」


カナダの経営学者ヘンリー・ミンツバーグは、戦略には2種類あると言いました。

1️⃣意図された戦略(Deliberate Strategy)
当初の計画通りに、トップダウンで実行される戦略。

2️⃣創発的戦略(Emergent Strategy)
現場の試行錯誤や、予期せぬ環境変化への対応から、ボトムアップで生まれる戦略。

ミンツバーグは、優れた戦略の多くは、最初から計画されたものではなく、現場の学習から事後的に生まれる(創発する)」と説きました。

この「創発的戦略」の最も有名な実例が、ホンダの米国進出(スーパーカブ)の話です。

🛵 当初の計画(意図)
ホンダは当初、「アメリカの広大な土地には大型バイクが合うはずだ」と考え、ハーレーダビッドソンに対抗して大型車を販売しようとしました。しかし、故障続きで全く売れず、撤退寸前まで追い込まれます。

🛵 現場の偶然(創発)
そんな中、現地社員が「ちょっとした足代わり」として、日本から持ち込んだ50ccのスーパーカブに乗って街を走っていました。すると、それを見たアメリカ人から「なんだその可愛いバイクは?売ってくれ!」と問い合わせが殺到したのです。

🛵 戦略の転換
ホンダはプライドを捨てて「大型バイク販売計画」を撤回。スーパーカブの販売に全振りした結果、アメリカで爆発的なヒットとなりました。


もしホンダが当初の計画に固執していたら、今日の世界的な成功はなかったと言われています。まさに「現場の現実は、本社の計画よりも賢い」という好例です。


🟩 サッカーと組織運営の共通点

私たちはつい、「偉い人が作った立派な計画(意図された戦略)」が正解だと思いがちです。
しかし、現実のビジネスは生き物です。

例えば、私が大好きなサッカーに例えてみましょう。
試合前に監督が「前半15分に右サイドから攻めて1点取る」という完璧な計画(中計)を立てたとします。

でも、いざ試合が始まれば、相手のフォーメーションも変わるし、雨が降ってピッチが滑るかもしれない。

その時、「計画通り右から攻めろ!」と叫ぶ監督と、「右は塞がれているから、空いている左から攻めよう」と判断できる選手たち。

どちらが勝つ確率は高いでしょうか?

元日本代表監督の岡田武史さんも、チームを「生物的組織」にしたいとよく語っていました。監督の指示待ちではなく、選手一人ひとりが細胞のように自律的に判断し、有機的に連動する組織です。

味の素が目指しているのも、まさにこの「生物的なアジリティ(機敏さ)」なのだと思います。


🟦 私の「計画崇拝」が崩壊した日

偉そうなことを書いていますが、私自身、かつては「計画さえあればなんとかなる」と信じていた人間です。

20代の頃、新規事業で子会社の立ち上げメンバーに抜擢されました。
当時の私は、意気揚々と「事業計画書」を作り込みました。「この通りにやれば絶対に売れる」という完璧なシミュレーションです。

しかし、現実は残酷でした。
電話をかけてもかけてもアポは取れない。受注してもクレームになる。
部下たちは疲弊し、職場の空気は最悪になり、周囲からはマネージャー失格の烙印を押されました。

あの時の失敗は、「机上の計画(意図)」に固執し、目の前の「顧客の反応(現実)」を見ていなかったことから起きていました。

もしあの時、ホンダのように「大型バイク(当初の計画)がダメなら、スーパーカブ(現場の兆し)で行こう」という柔軟なマインドを持てていれば、あそこまで追い詰められることはなかったかもしれません。


🟨 リーダーである私たちが、今日からできること

味の素の事例は、経営レベルの大きな話ですが、私たちのチーム運営にもそのまま転用できます。

もしあなたが、部下に「計画通りに進んでいるか?」とばかり聞いているとしたら、少し問いかけを変えてみませんか。

✅ 「今、お客さんの反応はどう変わってきている?」
✅ 「当初の予定とは違うけど、こっちの方が面白そうという兆しはある?」
✅ 「計画を守ることより、成果を出すために『今』変えるべきことはない?」

計画(地図)は大切です。でも、目の前に崖があるのに地図を見て「直進せよ」と言うのはリーダーの仕事ではありません。

味の素の改革も、財務上の数字は絶好調ですが、現場レベルでのマインドチェンジ(意識変革)にはまだ課題があると言われています。それくらい、「決まったことを守る」という癖を抜くのは難しいことなのです。

変化を楽しむこと。
予想外のことが起きたら、「お、面白い展開になってきたな」とニヤリと笑えるくらいの余裕を持つこと。
それが、この不確実な時代をサバイブする、一番の「計画」なのかもしれません。


📚 足立の過去のNoteから



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