建築は「機能」だけではない──「音楽のように聴き、美術のように見る」
― ひとつの本が教えてくれた「空間の感じ方」 ―
何年か前に読んだ一冊の本を、ふと思い出した。
本棚の奥の方で長いあいだ眠っていたその本を、久しぶりに取り出してページをめくる。
『건축, 음악처럼 듣고 미술처럼 보다(建築、音楽のように聴き、美術のように見る)』著者は、韓国の建築家であり教授でもある 서현(ソ・ヒョン)氏。
◆ 「これだ」と思った瞬間
この本と出合った時の感動を、今でもはっきり覚えている。
当時の私は、設計の中でいつも
「空間の中には、目には見えない“拍子”や“旋律”がある。
人が動き、光が変わることで、それは絶えず変化していく。」
と思っていた。
でも、それをどう説明すればいいのか、言葉にできなかった。
誰かに話しても「感覚的すぎる」と言われてしまうこともあった。
そんなとき、書店でこの本を見つけた。
タイトルを見た瞬間に思った。
「ああ、これだ。」
まさに、自分の中で言葉にならなかった感覚を、誰かがすでに表現してくれていた。

◆ 建築は“聴く”もの、そして“見る”もの
서현氏は、建築を「技術」ではなく「人文的な芸術」として語る。
レンガの温もり、コンクリートの静けさ、木の呼吸、光と影の対話。
それらをただ“見る”のではなく、“聴くように感じる”という発想。
点が線になり、面が立体となり、そして空間へと広がっていく。
建築は形ではなく、“時間と感情の流れ”の中で生きているのだと教えてくれる。
「建築を、かっこいい/かっこ悪いで判断していないか?」
著者のこの問いかけに、ハッとさせられた。
建築は時代の思想を映す鏡であり、そこには人の生き方や社会の価値観が刻まれている。
私たちが感じ取る“美しさ”は、結局のところ自分の感性そのものなのだ。
◆ 光と影の中に、音楽を聴く
この本を読んでから、街を歩くときの視点が変わった。
昼下がりの光が壁をなでる瞬間、影が床を横切るとき、
そのリズムに「音楽のようなもの」を感じるようになった。
ふと見上げた建物が、まるで静かに語りかけてくるように思える瞬間。
その時間こそが、建築という芸術の一番美しいところなのかもしれない。
◆ “感じる建築”を教えてくれた一冊
『建築、音楽のように聴き、美術のように見る』は、
空間を愛するすべての人に読んでほしい本だ。
技術や構造の話ではなく、
「どう感じるか」「どう向き合うか」を教えてくれる。
建築家である前に、
一人の“空間を感じる人”として大切にしたいことが、
この本の中には詰まっている。
◆ 最後に
今、またこの本を読み返してみると、
初めて読んだときよりも、言葉の一つ一つが深く沁みる。
歳月を重ねて、少しだけ世界の見え方が変わったからかもしれない。
でも根っこの部分――
「建築を音楽のように、美術のように感じたい」という想いだけは、
あの頃からずっと変わらない。

いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!