あなたの「しんどかった経験」が、誰かを救う力に変わる話
「社会福祉士」という言葉を聞いて、どんなイメージが浮かびますか?
お年寄りの介護をする人、施設で働く人、なんとなくそういった職業のイメージを持っている方が多いかもしれません。
あるいは、「自分とは縁のない世界」と感じている方もいるかもしれません。
でも、少し立ち止まって、こんな場面を想像してみてください。
親の介護が重なって、仕事を続けられなくなった。誰かに相談したくても、何をどこに聞けばいいかわからない。
育児中に気持ちがどんどん落ちていって、ある日「もう消えてしまいたい」と思った。でも「こんなことを言ったら、子どもを取られるかもしれない」と怖くて誰にも言えなかった。
うつで会社を休職し、やっと回復してきたけれど、「社会に戻れるのか」という不安が毎晩頭から離れない。
「もっとお金があれば」「もっと周りに人がいれば」「もっと早く誰かが気づいてくれれば」
そんな場面で、ふっと現れて「一緒に考えましょう」と言ってくれる人——それが、社会福祉士(ソーシャルワーカー)です。
この記事を読んでいるあなたが、もし過去に誰かの助けを借りた経験があるなら。 もし、しんどい時期を何とか乗り越えてきた経験があるなら。 もし、「あの時、もっとこうしてほしかった」と今でも思うことがあるなら。
その経験は、あなたが思っている以上に、大きな「財産」になります。
社会福祉士という仕事は、華やかでも高収入でもないかもしれません。でも、「あなたがいてくれてよかった」という言葉を、仕事の中で受け取ることができる、数少ない職業のひとつです。
第1章 「困っている人に寄り添う」とは、どういうことか
正しい答えを出す仕事ではない
社会福祉士の仕事を一言で言うなら、「困りごとを一緒に整理して、その人に合った道を探す」仕事です。
医師が病気を診断して薬を処方するように、社会福祉士はその人の生活全体を丁寧に聞き取り、本人が気づいていない困りごとや、使える制度・サービスを一緒に見つけていきます。
「正しい答え」を押しつけるのではなく、その人が「自分で選べる」状態になるための伴走者です。
たとえば、「仕事を失って家賃が払えなくなった」という方が相談に来たとします。
多くの人は「生活保護を申請すればいい」と思うかもしれません。でも実際には——
申請の方法がわからなくて手が止まっている
「生活保護を受けるのは恥ずかしい」という気持ちが邪魔をしている
実は家族との関係が壊れていて、そちらの方が深刻だった
ハローワークには行けているが、精神的に限界でそもそも動けない状態だった
……といったことが、話を丁寧に聞いてみると見えてきます。
制度を「知っているか・知らないか」ではなく、その人の「生活まるごと」を見ていく。それがソーシャルワーカーの仕事の本質です。
「助けを受けた側」の経験が、なぜ強みになるのか
対人援助の世界には「自己覚知(じこかくち)」という考え方があります。
難しい言葉ですが、要するに「自分がどんな人間で、どんな時に感情が揺れるかを知っておくこと」です。
なぜこれが大事かというと、援助者が自分の感情に気づいていないと、知らないうちに相手に自分の価値観を押しつけてしまうからです。
たとえば、「子どもには絶対に夢を諦めさせたくない」という強い思いを持つ援助者が、「もう勉強はいい、早く働きたい」という若者の相談を受けたとします。その時、「でも、もったいないよ!」という言葉が自然と出てしまう——これは援助者自身の価値観が「じゃま」をしている状態です。
対人援助の専門家になるためには、まず自分自身をよく知ること。
そして、ここが大事なポイントなのですが、自分自身が困難に直面し、支援を受けた経験がある方は、この自己理解がとても深まりやすいのです。
なぜかというと、「あの時、私はこう感じていた」「あの言葉に救われた」「あの態度が傷ついた」という具体的な記憶が、そのまま「相手の立場で考える力」になるからです。
経験のない人が「想像で」補わなければならない部分を、あなたはすでに「実感」として持っている。
これは、教科書では絶対に学べない、特別な力です。
第2章 社会福祉士は「どんな人」に関わるのか
驚くほど幅広い「生活のすべて」が対象
「福祉=お年寄りの介護」というイメージは、今や昔の話です。
社会福祉士が関わる場面は、人の「生活」が揺らぐあらゆる場面に広がっています。
こんな方たちが、社会福祉士に出会います
お子さんが不登校になって、どこにも相談できないでいる家族。学校に「スクールソーシャルワーカー」として配置された社会福祉士が、家族全体に関わります。
大きな病気をして手術は成功したけれど、退院後の生活が不安。病院の「医療ソーシャルワーカー」が、自宅へ帰るための準備をサポートします。
長年働いてきたのに会社が倒産し、50代で路頭に迷いかけた方。ハローワークや就労支援センターにいる相談員が、一緒に次の一歩を考えます。
DVで家を飛び出し、子どもと二人で支援施設に駆け込んだ女性。施設のスタッフとして、そして行政の相談員として、社会福祉士が法律や制度を使いながら守ります。
ひきこもりが10年以上続き、親も高齢になった家族。NPOや地域包括支援センターの社会福祉士が、本人だけでなく家族全体にアプローチします。
どうでしょうか。
もしかして、これらのどれかが「他人事じゃない」と感じた方もいるかもしれません。
そう感じたなら、それはきっと、あなたにとって「近い経験」があるということ。その感覚こそが、相談援助の仕事に向いているサインのひとつです。
第3章 「気持ち」だけじゃない—プロが使う「考え方の道具」
優しさだけでは、人を救えない
ここで少し、正直な話をします。
「人の役に立ちたい」という気持ちは、とても大切です。でも、その気持ちだけでは、複雑な問題を一緒に解決することはできません。
たとえば、こんな場面。
孤独に悩む高齢者の相談を受けた時、「かわいそう」「なんとかしてあげたい」という感情だけで動くと、相手が望んでいない支援を押しつけてしまったり、自分が燃え尽きてしまったりします。
プロのソーシャルワーカーは、「気持ち」と「技術」の両方を使います。
「なぜ困っているのか」を立体的に見る
社会福祉士は、困りごとを見る時に「3つの目」を使います。
体の目(身体的な視点): 体に何か問題はないか。病気、障害、睡眠、栄養。体が限界だから、気持ちも落ちている——そういう繋がりを見ます。
心の目(心理的な視点): どんな感情を抱えているか。過去のトラウマ、自己肯定感、不安の癖。「この人はなぜここまで自分を責めるのだろう」という問いを立てます。
環境の目(社会的な視点): 周りの状況はどうか。職場、家族、経済状況、地域との繋がり。「本人」ではなく「本人を取り巻く環境」に問題があることも、非常に多いのです。
この3つを組み合わせて状況を整理することで、「本当の困りごと」と「本当に必要な支援」が見えてきます。
さらに大事な視点があります。
「問題はその人の中にあるのではなく、その人と環境のズレの中にある」
という考え方です。
たとえば、「仕事に行けない」という人がいた時、「あの人は意志が弱い」と考えるのか、「あの人と今の仕事環境がマッチしていないのかもしれない」と考えるのか——どちらの視点から見るかで、支援のアプローチが全く変わります。
社会福祉士は、人を責めるのではなく、環境を変えることで人が生きやすくなることを目指します。
この視点は、かつて「自分が弱いから、うまくいかないんだ」と思い込んでいた経験のある方にとって、特に深く響く考え方ではないでしょうか。
第4章 「聴く」はスキルだった—コミュニケーションの技術
「うなずき」にも意味がある
日常生活でも「聴く」という行為はありますが、プロの「聴き方」には、明確な意図と技術があります。
たとえば、表情、視線の向け方、うなずくタイミング、体の傾け方——これらすべてが「あなたの話をちゃんと受け取っています」というメッセージになります。
人が他人から受け取る情報の7割以上は、言葉ではなく表情や身振りなどから来ていると言われています。「何を言うか」よりも「どう在るか」が、信頼関係を作ります。
また、質問の仕方にも技術があります。
「はい/いいえ」で答えられる質問(「今は大丈夫ですか?」)ではなく、「最近、どんな気持ちで過ごしていましたか?」のように、相手が自由に話せる質問を使うことで、本人が自分でも気づいていなかった感情や考えが出てきます。
「反射」と言われるテクニックもあります。「もう全部嫌になった」という言葉に対して、「全部嫌になってしまったんですね」と、そのままの言葉で返す。それだけで「ちゃんと聞いてもらえた」という感覚が生まれます。
こういった技術は、才能の話ではありません。学んで、練習すれば、誰でも習得できるスキルです。
第5章 「守秘義務」と「倫理」—信頼を守る責任
「秘密を守る」は、当たり前ではない
相談援助の仕事において、守秘義務(プライバシーを守ること)は最も基本的なルールです。
相談者が話してくれた内容を、本人の同意なしに外に漏らしてはいけない。これは法律で定められており、社会福祉士はその責任を負っています。
でも、守秘義務には例外もあります。虐待の疑いがある時、本人が自分を傷つける危険がある時——その場合は、守秘よりも「命を守ること」が優先されます。
このような難しい判断を、ソーシャルワーカーは日常的に迫られます。
だからこそ、社会福祉士は「倫理綱領」というプロとしての行動指針を持ち、「誰のために、何のために動くのか」を常に問い続けます。
あなたがかつて、誰かに「もっとこうしてほしかった」「あの言葉は傷ついた」と思った経験は、こういった倫理的な感覚を磨く上で、とても大切な素地になります。
第6章 地域を変える仕事—一人の先に、社会がある
「制度が間違っている」と声を上げる役割
社会福祉士のもうひとつの大切な役割が、「社会を変えること」です。
目の前の一人を助けながら、その人が困っている理由が「社会の仕組みや制度の問題にある」と気づいた時、声を上げることもソーシャルワーカーの仕事です。
たとえば、「シングルマザーが仕事と子育てを両立できない」という相談が重なってきた時、個別に対応するだけでなく、「この地域には保育資源が足りない」「この制度には使いにくい部分がある」として、行政や地域に働きかけることもあります。
一人ひとりの「困りごと」は、社会の「課題」の映し鏡です。
あなたがかつて感じた「もっとこうだったらよかった」という気持ちは、社会を変えるための大切な問いの種になります。
第7章 社会福祉士になるには—資格へのロードマップ(概要)
「社会福祉士という仕事が、自分の経験と繋がっている気がする」と感じてきた方もいるのではないでしょうか。
社会福祉士は通信制で「働きながら」目指せる
養成校には通信制のコースがあり、働きながら・育児しながら資格を目指している方がたくさんいます。
費用や学校の選び方、国の給付制度(学費の一部が戻ってくる制度もあります)など、詳しい内容は別記事でまとめています。ぜひあわせてご覧ください。
👉【社会人のスキルアップや生涯学習に!】社会福祉士を目指してみませんか?
第8章 国家試験の現実——難しいけど、戦略で突破できる
「第38回試験の合格率は60.7%」
社会福祉士の国家試験は、毎年2月上旬に実施されます。
「合格率が低くて難しそう」というイメージを持つ方も多いのですが、直近の第38回試験(2026年2月実施)では、合格率が60.7%と大幅に上昇しました。
かつては合格率が30%前後の年も続いていましたが、試験の内容や方式が見直されてきており、しっかりと対策をして臨めば、働きながらでも十分に合格を狙えます。
試験の概要
出題数は全129問(マークシート方式)。第37回試験より問題数が見直され、以前の150問から変更されました。試験時間は午前・午後に分かれており、1日で終わります。
勉強の進め方や教材選びについて、詳しくは別記事でまとめています。ぜひあわせてご覧ください。
👉【社会人のスキルアップや生涯学習に!】社会福祉士を目指してみませんか?
第9章 「自分の経験」を志望動機に活かす方法
過去の辛い経験は、語り方次第で最大の強みになる
養成校への入学選考や、資格取得後の就職活動では、ほぼ必ず「なぜ社会福祉士を目指したいのですか?」と聞かれます。
「自分がうつを経験したから」「介護で家族が大変だったから」「子どもの不登校を経験したから」——そういった経験を持つ方は、正直に話すべきか迷うことがあると思います。
結論から言います。語り方を工夫すれば、これ以上ない志望動機になります。
ただし、「つらかった」「大変だった」だけを話すのでは伝わりません。大切なのは、その経験から「何を学んだか」「だから自分はどうしたいか」という流れで話すことです。
「経験→気づき→行動」の3ステップで語る
経験:「〇〇という状況を経験しました」(具体的に、でも短く)
気づき:「その時、〇〇ということを感じ/学びました」(支援を受けた側として気づいたこと)
行動:「だからこそ、今度は自分が〇〇したいと思っています」(具体的な関わり方のイメージ)
たとえば、こんなふうに話せます。
「数年前、精神的に追い詰められて仕事を休んでいた時期がありました。その時、ある相談員の方が、私の話をただ静かに聞いてくれたことが、回復のきっかけになりました。その経験から、『話を聞いてもらうこと』がどれほど人の力になるかを実感しました。今度は、自分が誰かにとってのその存在になりたいと思い、社会福祉士を目指すことにしました。」
この話し方には、「経験」「気づき」「行動」が全部含まれています。しかも、相手を「責める」のではなく、「自分がどう変わったか」が中心になっています。
自分の経験をネガティブな過去として話すのではなく、「その経験があったから、今の自分の動機がある」というポジティブな繋ぎ方をする——これが、経験者ならではの強みを最大限に活かす方法です。
第10章 社会福祉士の職場・やりがい
社会福祉士の職場は、実際にどんな職場があるのか?
病院(医療ソーシャルワーカー): 病気や入院をきっかけに生活が揺らいだ方や家族への支援。退院後の生活を一緒に組み立てる仕事です。給与は比較的安定しており、正規雇用の求人も多い職場です。
地域包括支援センター: 高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、介護・医療・福祉を繋ぐ相談窓口。地域に根ざして働きたい方に向いています。
児童相談所・子育て支援センター: 虐待対応や養育困難家庭への支援。公務員採用が多く、待遇は安定しています。
スクールソーシャルワーカー: 不登校・貧困・虐待など、学校現場の問題に関わります。非常勤・パート勤務が多い現状ですが、需要は急速に高まっています。
障害者支援施設・就労支援センター: 身体・知的・精神の障害を持つ方が、自分らしく働き・生活できるよう支える仕事。長期的な関係の中で、少しずつ変化していく姿を見届けられます。
NPO・民間支援団体: ひきこもり支援、依存症回復支援、外国人支援など。制度の隙間を埋める仕事が多く、自分の「やりたい」と直結しやすい職場です。
転職組の「前職の経験」は本当に活きるか
結論から言うと、活きます。とても。
一般企業での折衝力(関係者を調整してまとめる力)は、多職種連携が求められる社会福祉の現場でそのまま使えます。事務処理やパソコンスキルも、記録業務が多い福祉現場で重宝されます。
「お客さんと接してきた」「チームをまとめてきた」「クレーム対応をしてきた」——そうした経験は、福祉の現場で求められているスキルと重なっている部分がたくさんあります。
「福祉は未経験」でも、「社会人経験がある」ことは、採用の場面でも、現場に出てからも、確実にプラスに働きます。
おわりに—「始める」ことが、一番の勇気
長くなりましたが、ここまで読んでくれてありがとうございます。
社会福祉士への道は、確かに簡単ではありません。勉強も、実習も、試験も、それなりの時間とエネルギーが必要です。
でも、ひとつだけ確かなことがあります。
「あの時、もっとこうしてほしかった」という経験を持っている人が、支援する側に回った時——その人は、本当に強い。
制度を知っているだけの支援者ではなく、相手の痛みの重さを「知っている」支援者になれる。
その強さは、どんな教科書にも書いていません。あなたが生きてきた中で、体で覚えてきたものです。
まず、自分の学歴と職歴を一枚の紙に書き出してみてください。それが、ロードマップの出発点です。
一歩ずつ、一緒に進んでいきましょう。
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