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その仕事は何のためにあるか。AIで自動化する前に決める判断軸

1. AIで自動化する前に考えること

AI活用の最初の一歩は、「何を自動化するか」ではなく「この仕事は何のためにあるか」を問うことです。

文字起こしも、データの集約も、図面の整理も、いまや多くがAIに任せられます。「これも自動化できそうだ」と思える場面は、増える一方ではないでしょうか。

ところが、選択肢が増えるとかえって手が止まることがあります。「便利なのは分かった。では、どこから手をつけるか」。この戸惑いは、AIを使い始めた現場で広く起きています。

手が止まる原因は、判断の基準が定まっていないことにあります。だからこそ、自動化の前に一段手前の問いを置くと、選ぶ道が見えやすくなります。

ある対談で触れられていたのも、「AIを使う前に、仕事とは何かを整理できているか」という観点でした。本記事は、その問いを製造業の現場に当てはめ、独自に考え直したものです。

2. 自分の作業の目的を把握する重要性

速くする前に「この作業は何のためにあるか」を問うと、自動化の中身そのものが変わります。

目の前に手作業がある。AIで速くできそうだ。だから自動化する。順番としては自然です。しかし、この順番には落とし穴があります。速くなったのに釈然としない作業が出てくるのです。

原因は、「どう速くするか」ばかりに目が向き、「そもそも何のためにあるか」を問えていないことにあります。手段を磨いても、目的がずれていれば成果はずれます。

たとえば、ある転記作業。速くする方法はいくらでもあります。けれども「これは、最終的に誰の、どんな判断のための数字か」と問うと、転記の形そのものを変えたほうがよいと見えてくることがあります。

順番を逆にする。「何を自動化するか」の前に「この仕事は何のためにあるか」を問う。たったこれだけで、自動化の質は変わります。

3. 「効率」だけで測れない判断軸

人が答えを検算する手間は、効率では説明できません。それでも残す価値があります。

AIの出力を鵜呑みにせず、人が検算する。この習慣は、過去記事でも扱ってきました。

参考:AIの答えを、私はまだ信じきれない。「検算する」という習慣の話

効率だけで見れば、検算は回り道です。AIの答えをそのまま使ったほうが速く、検算の手間は純粋なコストにも見えます。

それでも検算をやめないのには、効率以外の理由があります。根拠のない数字を、自分の名前で出したくない。これは速さの話ではなく、納得して仕事を出せるかどうかの話です。

ここに、判断軸が「効率」一つではないという事実が現れています。速さと、納得感。多くの現場が、知らないうちにこの二つで天秤にかけているのではないでしょうか。

4. AIに「任せる/任せない」の線引き

全部をAIに委ねるのが正解とは限りません。任せて納得できるかで線を引きます。

「何を任せ、何を任せないか」。この線引きは、過去記事でも整理してきました。

参考:その作業、Excelで粘る? AIに任せる? 自動化の「やる・やらない」線引きガイド

任せると判断が雑になりそうな作業や、人が最後に目を通したほうがよい作業は、あえて手元に残す。これが現場での実感です。

線の引き方に唯一の正解はありません。「ここは任せてもよかったかも」と、後から思う線引きもあります。

それでも共通点があります。判断の基準は「効率が上がるか」だけではなく、「任せて、自分が納得できるか」でした。ここでも判断軸は一つではありません。

5. 効率より「納得」が人を動かす理由

人を動かすのは「どう効率化するか」ではなく「どう働きたいか」という問いです。

退職するベテランの「勘」を、AIに言葉として残せるか。このテーマも過去に扱いました。

参考:退職するベテランの「勘」を、AIに言葉として残せるか試した話

取り組んでわかったのは、長くやってきた人ほど、自分の仕事を機械に置き換えることにすぐには首を縦に振らないという事実です。

これは「変化を嫌う頑固さ」では片づきません。長年積み上げた職能への誇りがあり、そこに「自分の仕事の意味」があるからではないでしょうか。

ある対談でも、AIへの置き換えにベテランが抵抗した事例が語られていました。そこで効いたのは、「どう効率化するか」ではなく「どう働きたいか」へ問いを変えることだったといいます。

現場感覚とも、これは静かに響き合います。「効率」だけで押すと人は動きません。「あなたが納得して働けるか」を一緒に問うと、話が前に進みます。効率と、人の納得。判断軸は、やはり二つ要ります。

6. 仕事を「作る・届ける・支える」で整理する方法

ここからは実体験ではなく、「こう使えるはずだ」という提案として読んでください。

検算・線引き・技能継承で繰り返してきたのは、つまるところ「効率の前に、目的を問う」でした。これを現場で使える手順に落とすと、こうなります。

手順:AIを当てる前に、自分の仕事を大きく3つに分ける。

  1. 作る(モノや書類、データを生み出す仕事)

  2. 届ける(必要な人に渡す、伝える、共有する仕事)

  3. 支える(後から困らないよう整え、フォローする仕事)

分け方は現場ごとに変えて構いません。大事なのは、まず大きく整理してから、それぞれに「ここにAIをどう当てるか」を考える順番です。

「何を自動化できるか」から入ると、目についた作業を片端から自動化しがちです。先に3つで整理すると、「この箱は、AIを当てる前にやり方を見直したほうがよい」と気づけます。

この枠組みは、ある対談で触れられていた「仕事を少数の役割に分けて考える」という発想に着想を得つつ、製造業の文脈で独自に組み直したものです。元の図そのものではありません。

7. 判断軸に「人の納得」を足す2つの問い

自動化の判断軸に、「効率」だけでなく「人が納得して働けるか」を足します。

ある作業をAIに任せるか迷ったとき、二つの問いを並べて考えてみてください。

  • 問い1(効率): これをAIに任せると、どれだけ速く・楽になるか

  • 問い2(納得): これをAIに任せて、担当する人は納得して働けるか

問い1だけで決めると、速いけれど現場が腑に落ちない結果になりがちです。問い2を足すと、「速さは少し落ちても、人が納得して回せるやり方」を選びやすくなります。

たとえば、ベテランの判断が要る工程。問い1だけなら「全部AIに」となるかもしれません。問い2を足すと、「判断は人が持ち、AIは下調べに徹する」という分け方が見えてきます。

どちらが正解かは、現場によって違います。だからこそ、判断軸を二つ持っておくことに意味があります。

ここまでは提案です。あなたの現場でこの手順がはまるかは、現場の中身しだいです。体験していない具体は、創作で埋めず、あえて書きません。

8. この考え方の限界

ここまで書いておいて逆のことを言うようですが、この考え方でAI活用のすべてが解けるわけではありません。

「目的から問う」と言っても、目的そのものが現場でバラバラなことはよくあります。3つの箱に、きれいに収まらない仕事もあります。「人の納得」を足しても、全員が納得する分け方など、たいていは見つかりません。

そして、最後の答えを出すのは結局のところ人です。AIは整理を手伝ってくれますが、「この仕事は何のためにあるか」を決めるのは、その現場にいる人にしかできません。

それでも、効率だけで突き進む前に一度立ち止まり、目的と納得を問う価値はあります。完全には解けないけれど、問う前と後とでは選ぶ道が変わる。ここに、この考え方の意味があります。

9. AIに飲み込まれず、人が主役であるために

AIは、驚くほど多くのことをやってくれます。任せられることは、これからもっと増えていきます。

だからこそ、「何を自動化するか」の前に、もう一つ手前の問いを置く価値があります。この仕事は、そもそも何のためにあるか。そして、この働き方に、人は納得しているか

AI活用の「ありたい姿」は、AIに仕事を飲み込ませることではないのかもしれません。人が主役のまま、AIと一緒に働く。その形を、それぞれの現場で少しずつ探していけたらと思います。

あなたの現場では、「この仕事は何のためにあるか」と問い直したくなる作業は、ありますか。よかったら、コメントで聞かせてください。

着想元(出典): 川原匠さんのYouTube対談(ビジネス戦略チャンネル)
https://youtu.be/9NG9bxnTwfo
※本記事は、この対談で触れられた「AIの前に、仕事とは何かを問う」という観点をきっかけに、製造業の現場で独自に考え直したものです。動画の紹介・要約ではありません。

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