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現場を巻き込むDX。推進側が最初にかける、たった一つの質問

はじめに


新しいツールを入れた。使い方も説明した。それでも現場で使われない——DXを進める側にいると、一度は突き当たる壁だと思います。現場を巻き込みたいのに、なぜか抵抗される。その感覚です。

なぜ溝が生まれるのかは「現場と推進側の溝」に、入れた後になぜ崩れるのかは「形骸化するDX」に書きました。今回はその手前——現場に最初にかける一言と、動き出す前の“ゼロ日目”だけに絞ります。

大きな計画の話ではありません。推進側が、明日、現場で踏み出せる「最初の一歩」の話です。結論から言うと、最初の一歩はたった一つの質問から始まります。

まず、私が最初の一歩を間違えた話

私は昔、正しい絵を描いてから現場に渡す、という順番でしくじりました。要点だけ書きます。

運用ルールを整えたことがあります。あるべき姿はきれいに描けていた。けれど現場に渡すと、入力の項目が抜け、まとめて後で打つ人が出て、在庫の数字が実態からずれていきました。あるべき姿ばかりを見て、それを回す手間を勘定に入れていなかったのです。

次にやったのは、数字の正しさを根拠に押すこと。改善は明らかだと思っていました。でも「正しいのは分かる」と言われて、手は止まったまま。正しさを重ねるほど、相手との距離がむしろ開いていく気さえしました。

この失敗の詳細は前の二本に書いたので、ここでは深追いしません。ひとつだけ、当時の私に足りなかったことを言うなら——最初の一歩を、現場ではなく会議室の側から踏み出していた。それに尽きます。

ここから先は、では最初の一歩をどこに置けばいいのか、という具体の話です。

最初の一歩①:たった一つの質問から始める

最初にやるのは、計画の説明ではありません。現場に、たった一つ質問することです。

「今、いちばん手間だと感じている作業は何ですか」。この一言から入ると、話の入り口が変わります。全体最適から説明すると自分ごとになりにくい。けれど困りごとから入れば、相手はすぐ自分の一日を思い浮かべます。

聞き方は、推進側の言葉を捨てて、現場の言葉にします。たとえばこう切り出します。

  • 「今週いちばん“またこれか”と思った作業、なんでしたか」

  • 「毎朝の入力で、正直めんと思う一手間ってあります?」

  • 「もし一つだけ機械に押しつけていいなら、どの作業にします?」

聞く相手も選びます。役職者ではなく、その作業を毎日実際にやっている当人を一人。全体を代表する人ではなく、手を動かしている人に聞くと、出てくる困りごとが具体的になります。

出てくる作業は、たいてい小さい。でも、その小ささが次の一歩の土台になります。

最初の一歩②:一つの作業を、一緒に片づけてみせる

二歩目は、全社に広げることではなく、その一つの作業を、一人と一緒に片づけて見せることです。

大きな仕組みを一度に入れる計画は、聞こえは立派でも、現場には重く映ります。動き出す前に身構えられる。私が最初にやった「一度に全部」が、まさにこれでした。

そこで、聞き出した作業だけを、その場で軽く形にします。繰り返しの入力なら、その一画面ぶんだけ自動化して、一緒に動かしてみる。完璧なものは要りません。30分で作った叩き台で十分です。目の前で手打ちが数秒に変わると、説明の百倍の説得力があります。

繰り返し入力の自動化そのものは、以前デモとして無料で配布しました。「読むだけ」で終わらせないための一式です。二歩目の“やってみせる”には、こういう小さな実物が効きます。

ここで外せないのが「一緒に」です。できあがりを渡すのではなく、作る途中に立ち会ってもらう。横で一緒にいじった仕組みは、渡された瞬間から“自分たちのもの”になります

最初の一歩③:最初の成果は、現場の名前で返す

三歩目は、出た成果を推進側の実績にせず、現場の名前で返すことです。

小さく試して手応えが出たら、「推進がうまくやった」で終わらせない。「あの人が現場を良くした」という形にする。手柄を現場に戻すと、その仕組みは現場に根づき、次の「面倒な作業」も、今度は現場のほうから挙がってくるようになります。

最初の一歩の狙いは、実は一つの作業を片づけることではありません。現場の誰かに「これなら自分にもできそうだ」と一度思ってもらうこと。そこさえ超えれば、二歩目・三歩目は自然と回りはじめます。

断られたら、どうするか

とはいえ、最初の一歩は、きれいに進むとは限りません。ここは前の二本に書かなかった、正直な補足です。

質問しても「特にない」と返されることがあります。協力者を探しても、誰も手を挙げてくれないこともある。過去のすれ違いが尾を引いていれば、なおさらです。

そのときの二の矢を、三つ用意しておくと動けます。

  • もっと小さくする……作業まるごとではなく、その中の一手間だけに絞って聞き直す。

  • 相手を変える……いちばん忙しい人ではなく、少し余白のありそうな人から始める。

  • 自分の作業で先に見せる……人に頼む前に、自分の手元の繰り返し作業を一つ自動化して「これ、やってみたんですけど」と見せる。押してけではなく、実物が呼び水になる。

断られたのは、提案が悪かったからとは限りません。多くは、タイミングと大きさの問題です。小さくして、出直せばいい。

やってはいけない、最初の一歩

逆に、最初にやると溝を深める踏み出し方も、正直に書いておきます。どれも、かつての私がやったことです。

  • 全社一斉に始める……周知して一律に切り替える。整って見えて、いちばん形骸化しやすい入り方。

  • 数字だけで語る……「何割削減」は経営には響いても、現場は「数字の都合で動かされている」と感じやすい。速さの前に、納得が要る。

  • 完成品を持ち込む……できあがりを「使ってください」と渡すと、それは現場にとって“他人が作ったもの”のまま。

良かれと思ってやってしまうものばかりです。だから、最初の一歩の踏み出し方だけは、意識して選ぶ価値があります。

それでも、すぐには変わらない

立場の違いは、動き方を変えても消えません。一度や二度の歩み寄りで空気が変わるとも限らない。ただ、現場の困りごとから、一人と一つの作業で小さく始める。この積み重ねが、変わるまでの時間を確実に縮めます。急がず、回数を重ねる話です。

おわりに

DXが現場で止まるのは、多くの場合、ツールの性能でも現場のやる気でもありません。最初の一歩を、会議室の側から踏み出しているからだと、私は自分の失敗から思っています。

最初の一歩は、小さくていい。現場に「いちばん面倒な作業は何ですか」と一つ聞く。一人と、一つの作業で試す。成果は現場の名前で返す。それだけで、景色が少し変わります。

最後に、あなたにも一つだけ聞かせてください。あなたの現場で、今いちばん“またこれか”と思う面倒な作業は、何ですか。 一つだけで大丈夫です。それが、最初の一歩の入口になります。よかったら、コメントで教えてください。

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