クジラとソーダ水の夜
不思議と私の夜空には
いつもクジラが泳いでいた。
窓から見上げる夜空にも
帰り道に見上げた夜空にも。
街に夕闇が訪れる頃、
ソーダ水を泳いでやって来る。
パチパチ光る泡を含み、
空の一番高いところ
帯のように流れ出すソーダ水。
紺青の帯は、クジラといっしょに、
泡を連れて降りていく。
紺青色に染まった泡に、
包まれ、街は光り出す。
チカチカと淡く明滅し、
泡もパチパチ弾けて飛んだ。
私は思わず空を見る。
帯を泳ぐクジラを見る。
悠々と泳ぐその姿は、
優しく泡と戯れていた。
帯を纏い、空を行く。
ゆったりゆったり夜に染める。
夕闇街が紺青に、
すっぽりすっかり包まれたら、
「さあ、終わり終わり」
と帰っていく。
クジラは、泡の中へと帰っていく。
私の夜はソーダ水。
パチパチ光る泡の中、
いつも必ずクジラが泳ぐ。
ソーダ水の夜の下
誰も涙を流さない。
