業績が安定している今こそ、社長が仕込むべき7つの「倒れない会社」の設計図
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1. 「うちはまだ大丈夫」という言葉
「うちはまだ大丈夫ですよ」
経営者の方とお話ししていると、よく聞く言葉だ。業績は悪くない。借入もまだ余裕がある。従業員も辞めずに働いてくれている。だから、まだ大丈夫——。
その言葉、正しいのかもしれない。
でも、もうひとつの可能性として、こういうこともある。
「3年後の自分は、今の自分が"大丈夫"だと思っていたことを、後悔しているかもしれない」
私は元銀行員として15年、その後、事業再生屋として10年やってきた。これまで300件以上の中小企業の事業再生に伴走してきた中で、何度も同じ景色を見てきた。
ある日、ある社長が、こう言う。「あのとき、なぜ動かなかったんだろう」と。
業績が良かった、あの3年前。
この記事は、まだ「うちは大丈夫」と思える今のあなたに向けて書いている。
倒れない会社の設計図は、業績が良い今しか描けない。だから、今のうちに知っておいてほしいことがある。
2. 元銀行員として見てきた、突然倒れる会社の共通点
銀行員時代、業績が良かったのに、ある日突然崩れた会社をいくつも見てきた。
外から見れば、決算書は黒字。月次の数字も悪くない。社長は元気で、商談も進んでいる。それなのに、半年後、1年後に、資金繰りが急激に悪化していく。
倒れた後で振り返ると、3年前の段階に、すでに兆候があったケースがほとんどだ。それも、社長自身も気づいていなかった、内部のじわじわとした問題だった。
経理が一人体制で、誰もチェックしていない。借入残高が、知らないうちに月商の何倍にも膨らんでいる。部門別の収益性を見ていないから、赤字部門が黒字部門を食い潰していることに気づかない。内部留保が薄いから、ちょっとした取引先の倒産で資金繰りが揺らぐ。
そして共通しているのは、3年前の段階で動いていれば、回避できたケースがほとんどだったということだ。
3年前の社長は、「うちはまだ大丈夫」と言っていた。
倒れない会社の設計図は、業績が良い今だからこそ描ける。これから紹介する7つは、私が現場で何度も見てきた「業績が良い段階で仕込めば、確実に効いてくる」ものばかりだ。
3. 設計図①:経理のブラックボックス化を防ぐ
中小企業の経理は、一人体制になりがちだ。
社長の家族——妻、母、姉妹など——が担当しているケースも多い。「信頼している」「家族だから問題ない」という理由で、誰もチェックしない状態が続く。
これは、横領のリスクだけの話ではない。経営判断のリスクでもある。
社長自身が数字を把握できない。月次の試算表を見ない。決算書を細部まで読めない。そういう状態は、業績が良いうちは問題が表面化しないが、危機の局面で致命傷になる。
元銀行員として申し上げると、「社長が自社の数字を自分の言葉で語れない会社」は、ほぼ例外なく数年以内に資金繰り問題に直面している。逆に言えば、社長が数字を語れる会社は、危機にも強い。
経理体制の見直しは、業績が良いうちにこそやるべきことだ。
社内で経理担当を増やす、外部の経理代行を入れる、業務効率化ツールを導入する——方法はいくつもある。大事なのは、「家族一人に任せきり」の状態を、まだ余裕があるうちに変えておくことだ。
4. 設計図②:銀行借入への依存度を測る
多くの中小企業は、無意識に銀行借入に依存している。
それ自体は、悪いことではない。レバレッジを効かせて事業を伸ばすのは、健全な経営判断のひとつだ。
問題は、「依存していることに気づいていない」ことだ。
借入残高と月商の比率、借入返済比率、有利子負債依存度——これらを社長自身が把握しているだろうか。「だいたいこれくらい」ではなく、具体的な数字で。
借入が増え続けている会社は、水温が徐々に上がっていく鍋の中のカエルのようになりがちだ。日々の事業は回っているから、危機感を持たない。でも、ある日銀行員の対応が冷たく感じる瞬間が来る。そのときには、すでに借入依存が深い段階に来ている。
元銀行員の視点から見ると、「借入が回っているうちは安全」と思っている社長は、銀行の空気が変わる瞬間に気づくのが遅れる。
業績が良いうちに、借入依存を減らす計画を立てておく。これは、賢い社長が必ずやっていることだ。
5. 設計図③:自社の真の収益性を見える化する
売上は伸びているが、本当の収益性は下がっている会社がある。
部門別、製品別、取引先別の収益性を、見える形にしているか。試算表を見ても、全体の数字しか分からない会社は多い。
「黒字なのに資金繰りが苦しい」と感じる会社の多くは、ここがブラックボックス化している。実は、ある部門が赤字を出していて、それを黒字部門が補填している。ある取引先が、利益率は高くても回収サイトが長すぎて、資金繰りを悪化させている。
こういうことは、数字を細部まで見える化して初めて分かる。
業績が良い今こそ、収益性の細部を診断するチャンスだ。問題があっても、まだ立て直す余裕がある。
数字で経営できる会社と、勘で経営している会社の差は、3年で大きく開く。
6. 設計図④:内部留保と運転資金の余白を持つ
内部留保が薄い会社は、ちょっとした外的ショックで揺らぐ。
コロナ禍、リーマンショック、取引先の倒産、自然災害——こうしたショックは、いつ起きてもおかしくない。
月商の何ヶ月分の現預金を確保しているか。3ヶ月か、6ヶ月か、それとも1ヶ月分もないのか。
「業績が良い今」は、内部留保を厚くする唯一のタイミングだ。
利益が出ているとき、配当や設備投資に振り向けるのも大事だ。でも、それと並行して、現金の余白を作る経営判断ができているか。
業績が悪くなってから、内部留保を厚くすることはできない。それは、できる人にしかできない、業績が良い時期の経営判断だ。
7. 設計図⑤:経営者保証を外す動きを始める
中小企業の社長の多くは、銀行借入に個人保証をつけている。
これは、「会社が倒れたら、社長個人の財産・自宅が失われる」というリスク構造だ。
ここで知っておいてほしいのが、「経営者保証に関するガイドライン」だ。一定の条件を満たせば、業績が良い段階で保証を外せる可能性がある。
具体的には、法人と個人の資産・経理が明確に分離されていること、財務基盤が安定していること、適時適切な情報開示ができていることなどが条件になる。
ただし、ここが重要なのだが、業績が悪化してからでは、銀行は保証を外さない。
「業績が良いから保証を外す」というのが、銀行の論理だ。困ってから頼んでも、答えは決まっている。
経営者保証を外す動きは、業績が良い今だからこそ始められる。これは、社長自身と家族を守るための、長期的な布石だ。
8. 設計図⑥:数字を読める従業員を育てる
社長一人が数字を把握していても、組織全体が数字感覚を持っていなければ、判断は遅れる。
部門長レベルが、自部門の損益を読めているか。経理担当が「入力作業」ではなく「分析」をできているか。営業担当が、取引先ごとの収益性を意識して動いているか。
数字を読める従業員がいる会社は、強い。問題が起きたとき、社長以外も「これはおかしい」と気づける。打ち手も早くなる。
業績が良いときに、数字の読める従業員を育てておく。これは、危機の局面で会社を救う、未来への投資だ。
最近は、kintoneのような業務効率化ツールで、数字を組織全体で共有しやすくなった。業績が良い時期に、こうしたツールを導入し、組織の数字感覚を底上げしておく価値は大きい。
9. 設計図⑦:事業承継を「いつかやる話」から外す
「事業承継はまだ先の話」
そう思っている社長は多い。
でも、後継者を育てるには10年単位の時間がかかる。後継者候補が経営判断を覚え、社内外の信頼を獲得し、本当に事業を引き継げる状態になるまで、思っている以上の時間が必要だ。
業績が良いうちに承継を始めれば、後継者は健全な会社を引き継げる。十分な内部留保と、安定した取引先と、育った従業員と、整った経理体制を、後継者にバトンタッチできる。
逆に、業績が悪化してから承継すると、後継者は「火消し」から始めなければならない。資金繰りに追われ、銀行交渉に追われ、従業員の動揺に追われる。それで事業を立て直すのは、業績が良い時期の何倍も難しい。
承継は、業績が良い今だからこそ動けるテーマだ。
10. 業績が良い今が、唯一動ける時間
7つの設計図、すべてに共通しているのは、「業績が良いうちにしか動けない」ということだ。
経理のブラックボックス化を解消するのも、借入依存を減らすのも、収益性を見える化するのも、内部留保を厚くするのも、経営者保証を外すのも、従業員を育てるのも、事業承継を始めるのも——全部、業績が良い時期にしかできない。
業績が悪化してから動こうとしても、選択肢は極端に狭まる。銀行は冷たくなり、内部留保は使い切られ、組織は疲弊する。後継者候補も「危ない会社は引き継ぎたくない」と離れていく。
「うちはまだ大丈夫」という言葉は、今このタイミングで動くための合図でもある。
3年後、10年後の自分が、「あのとき動いてよかった」と思える今を、ぜひ作ってほしい。
業績が良いというのは、何より価値ある経営資源だ。その資源を、今しかできない仕込みに使うかどうかで、10年後の景色は変わる。
倒れない会社の設計図は、今、あなたの手元にある。
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