ペトロダラーという世界システムの終焉
トランプ大統領が世界経済システムを壊しにかかっている。これをただの暴走、トランプ氏の愚かさだと見る向きも結構強いようだけれど、実は私は、ニクソン大統領あたりからすでにプログラムされていた動きなのではなかろうか、と考えている。だからあまり驚きがない。
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https://news.yahoo.co.jp/articles/31f29db7258b5f85bfda28dbae67a42a852d9de8
ニクソンが大統領になったころ、アメリカの通貨であるドルは「金兌換紙幣」だった。1ドル札を銀行に持っていったらゴールドのカタマリと交換してもらえるという約束があるお金のこと(細かいことは端折る)。ゴールドと交換してもらえるから、紙きれである1ドル札をお金として信頼できた。
ところがニクソン大統領はある日、とんでもないことを言い出した。1971年8月15日のこと。「今日からドル札をゴールドと交換するのをやめます」宣言。ニクソンショックという。これでドル札は、ゴールド(金)と交換してもらえない不換紙幣となり、ただの紙切れになるはずだった。
ところが、ニクソン大統領にはとんでもない懐刀がいた。キッシンジャー。この人物がどんな魔法を使ったのかわからないが、いつの間にやら「世界中どこに行っても石油はドルでしか買えない」という仕組みを作り上げていた。中東でもインドネシアでもベネズエラでも、石油を買うならドル。
既に世界中の国が石油なしでは生きていけなくなっていた。自動車を動かすのも、船を進めるのも、飛行機を飛ばすのもすべて石油(これは現状でもあまり変化がない)。農業生産するにも、トラクターを動かすのは石油。石油なしでは食料生産さえままならない社会になっていた。
そんな世の中になって「石油はドルでしか買えない」となったら、どの国も何とかしてドル札を手に入れ、それで石油を買うしかなくなる。そのため、世界中の国々がアメリカに「この商品を上げるからドル札下さい」と頼みに来る。アメリカは「よっしゃ」とばかり、ドル札を印刷して渡す。
手にしたドル札を、日本のような国は中東に持って行って「これで石油を売ってください」と頼む。それで石油を買い、日本に持ってきてまた自動車やテレビを製造するエネルギーとする。作った自動車や冷蔵庫、テレビはアメリカに輸出してまたドル札を分けてもらう。こうした経済循環が生まれた。
この構造で奇妙なのは、アメリカはドル札を印刷するだけで世界中の商品を購入できること。でも、背に腹替えられない。みんな石油が欲しいんだから。石油を買うにはドル札を手に入れなくちゃいけないんだから。この世界構造のおかげで、アメリカはドル札を印刷するだけで世界中の商品が手に入った。
では、なぜ中東などの石油産出国は、ドルでしか石油を売らないという約束を守ったのだろう?それは、強大なアメリカ軍基地が、サウジアラビアに配置され、うかつに逆らえなかったたから。しかしこれは、中東諸国にメリットもあった。専制的なリーダーが支配者でい続けられたのだから。
こうして、日本のようなアメリカ以外の国は、アメリカ様に商品を輸出しさえすればドル札を手に入れ、石油も買えるというメリット、アメリカは中東に強大な軍事力を派遣さえしておけば、ドル札を印刷するだけで世界中の商品を買えるメリット、中東の国々は支配者が支配者でい続けられるメリットが。
こうした、石油とドル札を結び付けることで出来上がっていた世界構造を、ペトロダラーともいう。ペトロとは石油、ダラーとはドルのこと。私の言葉で言えば、ドルが「石油兌換紙幣」になったことで、アメリカを中心とした世界経済が勢いよく動き出すことになった。
しかし、このペトロダラーの構造にヒビが入り始める。ヨーロッパ諸国が連携し、経済力を持つようになったことを受けて、イラクのフセイン大統領が「これからはドルだけでなくユーロでも石油を売ります」と言い出した。さあ大変、こんなことをしたら「石油はドルでしか買えない」構造が壊れてしまう。
その結果、イラクはアメリカに攻め滅ぼされ、フセイン大統領は死に、これでペトロダラーの世界はまだまだ安泰に思われた。しかし時代の流れは止められず、クウェートやベネズエラ、特に大きなところではロシアが、ドル以外の貨幣でも石油を売るようになり始めた。
こうしてペトロダラーの仕組みが壊れつつある中、決定的だったのが「石油がエネルギーとして意味をなさなくなる」問題だったように思う。
石油が利用され始めたころ、砂漠に穴をあけるだけで噴水のように石油が噴出した。1の労力に対し、200倍のエネルギーの石油を採ることができた。
ところがシェールオイルという、地中に高圧で水を注入し、なんとか石油を絞り出す近年の技術になると、1の労力を投じて7~10倍程度の石油しか採れなくなっている。きわめて採算性が悪化したエネルギーになりつつある。しかも、3倍を切ったらエネルギーとして意味をなさなくなる。
石油そのまま(原油)では自動車は走らせることができず、ガソリンや軽油に加工しないといけない。こうした加工に要するエネルギーや、ガソリンスタンドまで運ぶエネルギーも必要なことから、掘るときに必要なエネルギーの3倍は石油が採れないと、エネルギーとして意味をなさなくなる。
私の予想では、恐らく2020年に、世界各国の首脳らに、石油が間もなく採りたくても採れなくなる時代が来る、というレポートを受け取ったのではないか、と考えている。というのも、この年は非常に奇妙な年だったからだ。たまたま新型コロナが大流行を始めた年だが、問題はそこではない。
それまで、地球温暖化なんてどこ吹く風、石油を燃やして二酸化炭素が増えて何が悪い、とうそぶいていた中国やアメリカが急に「脱炭素だ!電気自動車だ!」とかじを切ったこと。また、日本でも奇妙なことに、この年から「みどりの食料システム戦略」(以下、みどり戦略)が策定され始めた。
みどり戦略では、化学肥料使用の大幅削減を目指す。化学肥料は大量のエネルギーを消費することで製造されている。石油がなくては製造が厳しくなる。このみどり戦略は、2020年に唐突に話が出てきた。私は、石油がいよいよ利用できなくなることを日本も察知したからではないか、と見ている。
石油が利用できなくなる世界にシフトする。このことは、見方を変えると「ペトロダラーの終焉」を意味する。まがりなりにも、石油とドルの関係は深く、今でも石油の価格はドルで表示されている。ペトロダラーの構造は、壊れつつもギリギリ機能してきたが、ついに破綻の時代を迎えつつある。
ペトロダラーの構造が壊れれば、アメリカは「ドル札を印刷するだけで世界中から商品を買い漁れる」というこれまでのやり方を続けられなくなる。ついつい今までの習慣がたたって、アメリカはそのやり方を続けられないのに世界中から商品を買い続けてきた。しかしいよいよ本当に続けていられない状況に。
バイデン前大統領ひきいる民主党はどうやら、ペトロダラーの構造が壊れてもだましだまし、今の世界経済の仕組みを維持しようと思っていた様子。しかし、歴史的にペトロダラーの構造を熟知している共和党は、「そろそろ潮時だ」と判断した様子。そこにトランプ氏が現れた。
トランプ氏は、世界中の国々にイチャモンをつける形で大幅関税アップを断行した。多くの識者が「そんなことをしたらアメリカ国民の方が大迷惑するだけなのに」と考えているようだけれど、トランプ氏のこの判断は、ある意味やむを得ないのかもしれない。だってペトロダラーの構造は壊れてるのだもの。
石油がろくに採れなくなり、ペトロダラーの構造を維持できなくなったのなら、もうアメリカは「ドル札を印刷するだけで世界から商品を買い漁れる」という根拠が失われてしまう。大転換を迫られていたアメリカにとって、トランプ大統領の無茶は、案外無茶でない可能性がある。
しかし、ペトロダラーの構造にすっかり依存し切っていた他の国々からしたら、突然のことのように思えて戸惑うのも仕方ないだろう。しかし、アメリカが世界中から商品を買ってくれたのは、ペトロダラーの構造あってこそ。それが壊れるのなら、もうアメリカも続けていられない。
トランプ大統領はピエロを演じることができる人物。おそらく、ペトロダラー・システムが壊れるにあたり、アメリカがとるべき方策を耳打ちしている人物がいるように思う。その一つの方法が、アメリカの大量消費に冷や水となる「高い関税」。もしこの推測が正しいとすれば、アメリカは容易にこの政策を撤回しないだろう。
アメリカは今後、「モンロー主義」に戻っていくように思う。アメリカはもともと、二つの世界大戦を経験するまでは「うちはうちでやっていくからほっといて。あんたらのことも干渉せんから」という独立独歩の方針を維持していた。これがモンロー主義。
実際、アメリカは超豊かな国。豊かな農地を持ち、石油や天然ガスなどの資源も豊富、工業力も早くに手に入れ、他国と貿易しなくても国内だけですべてがそこそこ手に入る国、それがアメリカだった。だからモンロー主義をとることもできた。
しかし、イギリスが世界帝国の地位を維持できなくなり、それに代わる形で世界最強の国となったアメリカが、第二次世界大戦後、世界のかじ取りをするようになった。しかし第二次世界大戦だって「参加やめとこうぜ、自分たちだけで生きていけるんだから」がアメリカ国民の反応だったらしい。
そうした消極的な姿勢だったのが、日本の真珠湾攻撃で「リメンバー・パールハーバー(真珠湾を忘れるな)」とプロパガンダを張って、アメリカ国民を国際政治の中に叩き込むのに成功したのが、ルーズベルト大統領。それまでは、アメリカは国際政治に出ることに消極的だった。
戦後、アメリカは世界の警察として君臨し、ニクソン大統領以後はペトロダラーの構造維持に努めてきた。しかし、この世界構造が壊れつつある。アメリカは次の時代に適応する準備を始めた。日本をはじめとする他の国々も、適応を余儀なくされることになるだろう。
