人事の教科書 第5章
第5章|責任とは何か
冒頭の問い
• その責任には、意思決定する権限が伴っていますか。
ケースコラム|名ばかり責任者の疲弊
プロジェクト責任者に任命されたが、重要な判断はすべて上層部。
責任だけが重く、裁量がなく、本人は消耗していった。
責任は成長の機会にも、破壊要因にもなる。
概要
責任は、人を成長させる力にも、人を壊す重荷にもなります。その違いを分けるのは、責任そのものではなく、「どのように与えられ、どう扱われているか」です。本章では、責任を精神論としてではなく、構造として捉え直し、健全な責任が育つ組織と、責任が形骸化する組織の違いを明らかにします。
・責任と権限の関係
責任と権限は、本来セットで設計されるべきものです。
心理学的に見ても、人は「自分で選び、決めた」と感じられるときに初めて、その結果に対して責任を引き受けようとします。これを自己決定感と呼びます。
しかし組織ではしばしば、「結果はあなたの責任だが、判断は上司がする」という状態が生まれます。
たとえば、
• 目標は上から与えられる
• やり方も細かく指示される
• それでも結果が出なければ評価が下がる
このような状況では、本人の中に「自分がやった」という感覚が育たず、責任は外から押し付けられたものとして感じられます。
哲学的に言えば、これは「自分の行為として引き受けられない行動」を強いられている状態です。
責任とは本来、「自分で選んだ行為の結果を引き受けること」です。
選ぶ余地がないところに、本当の意味での責任は生まれません。
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・「任されていない責任」が人を壊す
近年よく見られるのが、「名ばかり責任者」の存在です。
肩書きや役割だけは与えられているものの、
• 意思決定権は持たされていない
• 周囲も本気で任せていない
• 失敗したときだけ責任を問われる
こうした状態は、心理的に非常に消耗します。
人は「期待されている」と感じるときに力を発揮しますが、「信用されていないのに責任だけ負わされている」と感じると、無力感や諦めが生まれます。
これは心理学でいう学習性無力感に近い状態です。
例えば、
• 会議では意見を求められるが、結論は常に上司が決める
• トラブル時には「責任者としてどう考えているのか」と問われる
こうした経験を重ねると、人は「どうせ自分が考えても意味がない」と感じ、思考を止めてしまいます。
結果として、主体性も責任感も失われていきます。
責任は、人を信頼するという行為と表裏一体です。
信頼なき責任付与は、成長ではなく消耗を生みます。
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・責任が育つ組織、育たない組織
責任が育つ組織には、共通した特徴があります。
それは、「任せた後の関わり方」が丁寧であることです。
責任を任せるとは、「あとは一人で頑張れ」ということではありません。
むしろ重要なのは、
• 判断に迷ったときに相談できる場があるか
• 失敗したときに一緒に振り返る文化があるか
• 結果だけでなく、考え方やプロセスを見てもらえるか
こうした支援があることで、人は「この責任を引き受けてよかった」と感じるようになります。
一方で、責任が育たない組織では、
• 成果だけが評価される
• 失敗は個人の問題として切り離される
• 振り返りが行われない
その結果、責任は「避けるもの」「押し付けられるもの」になっていきます。
哲学的に言えば、責任とは「孤立した個人に背負わせるもの」ではなく、「関係性の中で引き受けられるもの」です。
人は、支え合える関係の中でこそ、重い責任にも向き合うことができます。
人事としての問い
責任は人を育てているだろうか、それとも消耗させているだろうか。
チェックリスト
• 決定権のない責任を押し付けていないか
• 責任を任せた後のフォローが設計されているか
• 「結果責任」だけが強調されていないか
