美容クリニックの現実〜ラクそうだから転職した結果〜【第八話】
辞めたいのに応募できない
私は手当たり次第に転職サイトへ登録した。
気になる求人に「いいね」を押す。
お気に入りにも保存する。
鬼気迫る勢いだった。
それなのに、応募ボタンだけは押せなかった。
本当に辞めてしまっていいのだろうか。
美容クリニックは憧れの仕事だった。
地方から都会へ出てきて、ようやく手に入れた職場だ。
毎日辞めたいと思っているくせに、それを自分から手放すこともできない。
なんとも情けない話である。
給料は下がるだろう。
待遇も今より悪くなるかもしれない。
家族はどう思うだろう。
アラサーにもなって職場でうまくやれず、数か月で辞めるなんて。
がっかりされるのではないか。
そんなことばかり考えていた。
そして、応募ボタンを押せなかった理由はもう一つある。
私は転職サイトの仕組みをよく分かっていなかったのだ。
応募したらすぐ面接になるのだろうか。
内定が出たら、すぐ働き始めなければいけないのだろうか。
退職日も決まっていないのに応募していいのだろうか。
そんなことまで真剣に悩んでいた。
今思えばバカな悩みだ。
だが当時の私は本気で悩んでいた。
知らないというのは恐ろしい。
それだけで足が止まってしまうのだから。
ここで勘の良い読者さんは思うかもしれない。
「前にも転職してなかったっけ?」
その通りである。
私は以前、地方から都会の美容クリニックへ転職している。
ではなぜ転職サイトのことをよく知らなかったのか。
理由は単純だ。
転職サイトの担当者が気に入らなかったのである。
地方在住だった私が都会の美容クリニックへの転職を希望すると、担当者はどこか鼻で笑うような口調で言った。
「都会はちょっと厳しいかもしれませんね」
正確な言葉は覚えていない。
だが、「あなたには無理」と言われたような気がしたことだけは覚えている。
若かった私は腹を立てた。
なんだコイツ、と思った。
絶対に都会の美容クリニックに受かってやる。
意地になった。
今思い返しても、なかなか無茶な転職活動だった。
あの暗黒時代については、いつか別の記事にしたいと思っている。
結局、その日も応募ボタンは押せなかった。
応募する勇気はない。
辞める覚悟もない。
それなのに、お気に入りの求人だけは日に日に増えていく。
今思うと滑稽である。
辞めたい。
逃げたい。
でも辞めたくない。
自分でも何がしたいのか分からない。
それでも転職サイトだけは毎日開いていた。
求人を眺めている時間だけは、今の職場のことを忘れられたからだ。
あの頃の私にとって、それは現実から目をそらせる唯一の時間だった。
【第9話へ続く】
美容クリニック編の全体の流れを読みたい方へ。
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