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量子力学ですが、何か? 【大魔法使いの誕生】 − 153 第3話(2)

− 文と構成: 柾しの −
− 世界観協力と絵: 優音 −


優音作画 リュネ姫

 道中のあちこちで、リュネ姫が地面に何やら施していたこともあり、目的の狩猟小屋に着いたときには、すでに19時を過ぎていた。
 振り続いた小雨のせいで、三人ともすっかり雨に濡れていたが、関取は手際よく暖炉に火を起こし、白湯を用意した。

 着替えなど、ろくに用意できていない。
 急ぎ城をでなければならない状況だったとはいえ、リュネ姫は気にすることもなく毛布にくるまり、ソファで静かな寝息を立て始めた。

 王族だろうが、精霊魔法の使い手だろうが、やはり少女なのだ。

 勇者の名前を教えろと関取が言うので、
「カツラコゴロウだ」と答えた。
 無論、本名ではない。
 それくらいしか、名前が浮かばなかった。
 まあ、恥ずかしさのせいか早口で小声になったかもしれない。
 なんとなく、真名を告げたくはなかった。

「カラガウ?」と関取が聞き返す。
 どんなヒアリング能力だよ、と突っ込みかけたが、
「やはり勇者は英雄だ。レドゥビア神話の知の神と同じ名ではないか。」と関取がワクワクした顔で感嘆している。

 どう返事をしていいか迷っているうちに、関取はさらに続けた。
「勇者がカラガウの名を持つ者だからこそ、
 アルス姫も身を捧げる覚悟をされたのだな。さすがはアルス様だ。」

 意味が分からない。
 分かるように言ってくれないかと関取に注目をつけたら、
「も、もし勇者がアルス様を受け入れねば、 王家は勇者にリュネ様を……」
 そこまで言って、関取は口を閉ざした。

 静かな小屋の中で、薪がパチパチと音を立てていた。
 一体なんの話なんだ、と勇者は考える。   
 すでに第二王女までは婚約が決まっていると聞く。
 精霊王盟約を守るとすれば、アルス姫の他に残る王女は ―

 そこまで考えて、今はそんな話をしている場合ではないと、勇者は思い出した。

 道中、リュネ姫があちらこちらで立ち止まったり、しゃがみこんでいたのは何だったのかと、関取に尋ねる。

「陣を仕込んでいたんだな。リュネ様は…」
 どうやら、精霊を使役する陣を描ける者はレドゥビアでも数えるほどしかおらず、リュネ姫は精霊魔法以外の魔法にも精通しているらしい。

「凄いな。子供にしか見えなかったが ― 」
 そう言いかけた、その時。

「言葉が過ぎるのではないか?」

 勇者と関取は、びくりとして恐る恐る振り返った。
 毛布にくるまったまま、悪戯な笑みを浮かべたリュネ姫が、目を開けてこちらを見ていた。

 リュネ姫の話では、精霊と心を通わせて描いた精霊契約陣は、三日から四日ほど効力が続くらしい。
 陣のそばを誰かが通れば、精霊がそれを知らせてくれるという。

 城内で襲撃を受けたばかりだ。
 警戒しているのだろう。

「リュネ、ありがとう。これで安心して休める。
 ところで、その精霊契約陣は同時にいくつ描ける?」
 勇者の問いに、リュネ姫は少し考えてから答えた。

「試したことはないが……五枚か六枚はいけると思う。
 それに、フレアのような炎の精霊より、雷の精霊の方が、私は得意だな。」

 勇者は、すぐにでも試したいことがあると言いかけたが、
「こちらも、聞きたいことがある。」リュネ姫は、そう言って勇者の言葉を遮った。

   *    *    *

「聞かせてもらおう、
 秘宝アナテスは、どうやって理(ことわり)をねじ曲げているのだ?」
 リュネ姫に問われ勇者は、首を振った。
 違うと、ハッキリ言う。
 アナテスは理(ことわり)を操作しているのではなく、力を使ったのだと。
 
「力…?」リュネ姫が訝しむ。

「物が宙にあれば、落ちるのが理だろう。」
 そう言って譲らないリュネ姫に、勇者は言った。

「リュネ、力なんだ。 
 理解できなくていい。
 そういうものだと、受け入れろ。
 精霊は優しく便利な妖精ではなく、目に見えない “ 力 ” を行使する存在だ。
 そうでなければ、量子力学は分からない。
 なによりリュネ、
オマエはアナテスの縛鎖を見ている。
 自分を疑うな。
 受け入れることが量子力学の始まりだ。」 
 勇者は、迷いなくそう答えた。

 関取は、勇者の物言いを、ハラハラしなが見ていることしかたできなかった。

   *    *    *


 リュネ姫の柔軟で高い理解力は、勇者を驚かすほどだった。

「分かった。 
 オマエは、これからカラガウと名乗れ。
 表に行くぞ。量子力学とやらの力を、見せてもらう。」
 そう言うと、リュネ姫はその場で乾いた服に着替え始めた。

「どうした?
 子供の着替えに、大人が気をつかうな。」
 そう言って、リュネ姫はまた悪戯な笑みを浮かべた。

 小屋から少し離れた場所に、ちょうど小屋と同じくらいの大きさの巨石があった。
 勇者は周囲に人の気配がないことを確かめてから、関取に言った。

「割ってみせろ。」
 関取は背中から戦斧を抜き、二度、三度と呼吸を整えてから斧を振り下ろした。

 ――!!

 耳が痺れるほどの硬い音が響いたが、巨石はびくともしなかった。

「リュネ、岩の左右に陣を展開しろ。
 片方で周囲の熱を集め、集めた熱を、ありたけもう片方の陣へ送れ。
 送った方の陣が極低温になるはずだ。」

 瞬時にリュネ姫は精霊契約陣を巨石を挟むように描き切った。
 青白い炎に包まれた放つ陣と、バキバキと音を立てて氷を纏う陣が現出している。

「雷の精霊が、動き出そうとしていないか?」
 勇者の問いに、リュネ姫は答える。

「ふふっ。今にも暴れだしそうなほどな。」とリュネ姫が高揚した顔で答える。

 王族が精霊とコンタクトする時に現れる瞳の変色が現れていた。
 それは、アルス姫よりはっきりと赤く、光を放つかのようだった。

 リュネ姫の瞳が光を放ち燃えていた。

 姫の長い髪が風もないのに、宙に舞い始めている。

「通せっ!!」 勇者の言葉と同時に、リュネ姫が反応する。

「ヴァハラ!」リュネ姫が雷の最上位精霊の名を告げる −−−−

 次の瞬間、巨石は轟く雷鳴の響きを残し、塵となって、跡形もなく消え去った。
 リュネ姫の周りに精霊がざわついたためか、星屑のような小さな粒子が幾つも舞っていた。
 リュネ姫は ひとつ息を吐く
 …っ。
 ふふっ。

 興奮したような、どこか微かに邪悪な歓びを湛えた魔女のような表情で、勇者を見た。

 片方の唇の端を吊り上がったままに、満足気に口を開き

 「大魔法使いの誕生だな。」と言った。

               続きます

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 優音先生の人気記事の紹介です。
 今回は、優音先生の「量子力学ですが、何か?」の紹介記事もつけました(−人−)

 

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