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神の子 番外編 : 西門界隈異聞 − 186

 本当に、お客様はテルマがお好きですね、と馴染みの娘が微笑む。
 「いつもと同じく、お任せですね。」という気取らない物言いも嫌いじゃない。

 まあ、レドゥビアで食事や宿をとるなら、ここが一番だろう。
 一品目は、カナクイドリの肩肉の串焼き。 ノカナのエールで流し込むと、矢鱈と美味い。

「あら、私が給仕したからでしょうか。」そう言って、嫌味なく微笑む。
「相変わらず、呑気なものだね。」などと、適当に返してあげた。

 丁度良いタイミングで次のエールが差し出される。
 つい、「君も飲みなさい」と言ってしまう。

「あら、嬉しい。
 本当によ?」
 そう言って喜んでみせる仕草が、妙に娘らしくて、心持ちを、くすぐられる。

「これ、お口に合うかしら。」次に出てきたシチューを見て、思わず驚いた。
 イノシシ肉だという。
 めったに口に出来ない味だ。

 「今日はお帰りと聞きましたけれど……」
 食事を始めたばかりだというのに、それだけ言って、娘は曖昧に笑う。
 要領を得ない。

 何か面白いものでもあればね、と体よく断ろうとすると、娘は小さな袋を取り出した。

「触るだけですよ。
 お城から怒られますから。」

 お城?
 そう言われたら、確かめずにいられない。
 袋に手を入れた瞬間、分かった。

「帝国と商いしてるのか!」
 娘は、ゆっくりと首を振る。
 戦のせいで、ワニ革はレドゥビアでもノカナでも、どんな値段でも売れる。

 もし、これが見本なら――

「見せろ。」と言っても埒があかない。
 そのうち、三品目の皿が運ばれてきた。
 今夜は泊まろうかと言うと、一番いい部屋しか空いてないという。

 ええい、ままよ……。

 泊まると告げた後、やはり分かりましたか、と悪戯な表情で俺を見る。

「今夜は、月が綺麗だとか言うでしょう?」  
 話をいちいち変えるなと、言い出しそうになる。
 手持ち金は、いくらあった?

 ワニ革だぞ……

 上等なワインを頼んだ。
 「はぁ〜、美味しっ。」そう言って表情を崩したあと、一度席を立った娘は薄手の夜着にガウン姿で現れた。

 大きめの金魚鉢を抱えている。
 月が綺麗じゃなかったのかい、とぼやきながらワインを口に運ぶ。
 嗚呼、しかし美味いワインだな。
 大陸一といわれるだけはある。
 金魚の意味は知らないが、何か面白い話でもしてくれるのであろうよ。

「いやだもう。
 金魚じゃなくてよ。」

 ……口の周りに、ヒゲが生えている。
 6インチはある。

 まさか、緋色――。
 夜着姿の給仕娘が、俺の唇を押さえた。
 顔を近づけ、声を出すなと、目で告げる。

 飲み過ぎたか。
 いや、テルマに長浸りし過ぎたせいかもしれない。
 もし、ワニ革だったら。
 もし、あれがレドゥビアの緋色…

 故郷に城を建てられる。
 給仕娘にワインを勧め、軽く抱き寄せる。
「月も眺めていないのに」と言いながら、少しだけ、身体を預けてきた。

 その時、噂話を思い出す。
「 “ 神の子 ” の奇跡か?」思わず訊いてしまった。

 主様はいつも商いばかりねと、娘はふくれて見せた。
 苛立った。
 だが、商人は我慢に慣れている。

 ワインをもう一本頼むと、機嫌を直した娘が頬を寄せてきて、
「他の革もあるのよ。」と囁いた。

 ……な、何と。
 いつもの少女っぽい可愛いらしさが勝っている細身の娘が、大きな蛇のように見えた。

おしまい


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 今回のタイトルカットは、フレキシブルフランクことChatGPTの作画です。
 レドゥビアは商業も盛んで御座い。

 いつもありがとうごさいます。
 コメントなど頂けたら、舞い上がります💗

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