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神の子とダンジョン ・ 第21話 − 203

「とにかく、日没までには帰るから、店長には適当に言っておいて。」
 ダーニャには悪いことをしたかもしれない。
 だが、あいつは一週間経っても顔を出さねえし、負けっ放しってえのは都合が悪い。
 第一、西門闘技場の名が廃っちまう。

 精霊王様の奇跡だ、なんてダーニャは言っていたけど、神の子って言うのは勇者のことだ。
 ダーニャだって、俺と一緒にアルス姫と勇者の婚礼披露宴を見に行って、凄え力を見ただろうが。
 あのクソガキが俺の魔法に何をしたのかは分からねえ。

 だが、あんなもの、別の魔法を使えば済んだ話だ。
 ……ああ、思い出すだけで腹が立つ。

 チッ、思ったより寒いな。
 石壁は、夜の冷えを溜め込みやがる。
 板くらい貼ってくれよ。
 まあ、陽が高くなるまでの辛抱か。

 西門の闘技場宿舎を出て、レドゥビア城下の市街地に着く頃には、肌寒さもいくらか和らいでいた。
 朝も早いというのに、市場は賑やかだ。

 賑やかなだけじゃなく、女子供達も笑っている。
 レドゥビアは、いい国だ。
 商いが盛んで、民は働き者だ。
 俺みたいな帝国育ちでも、普通に暮らすことができる。

 何より——
 民を無理やり戦に駆り出すような真似はしない。

 朝方の冷え込みは厳しいが、レドゥビアも収穫の季節だ。
 リンゴ1個が1バリイ。
 売り子が「ありがとうございます。」と頭を下げる。
 ……いや、こちらこそだ。
 美味いリンゴをありがとう。

 剣術道場が目に入ったから、ちょいと覗いてみた。
 だが、アイツはいない。
 両手短剣の帝国剣術を教える道場なんぞ、レドゥビアにあるはずもねえ。

 何人かの道場生に声をかけ、若いハンターの話を聞いたが、若いハンターなら “ ジャック様 ” だと口を揃える。
 斧を使うハンターで、神の子って噂が流れているらしい。

 そういえばダーニャも、 “ 神の子・越後屋ジャック ” とか言ってやがった。
 対人の時だけ両手短剣を使うのか?
 わかんねえ。
 なんでハンターが両手短剣なんだよ。

 レドゥビア城を見上げながら通りを歩くと、剣の研ぎ屋があった。
 丁度いい。
 剣を研いでもらいながら、勇者じゃねえ方の神の子の話を聞く。
 すると、研ぎ職人が露骨に嫌な顔をした。

 俺は、西門闘技場の剣士兼給仕娘で怪しい者じゃないと説明すると、ようやく安心したように口を開いた。

「帝国訛りで長剣ぶら下げた奴が、そんなこと聞きゃあ、誰だって心配するさ。」と、研ぎ職人。
 その神の子は、ベルゼウ公とたった二人で宿屋ラ・ケイダーャを襲い、帝国兵と魔導士十数人を斬り捨てたという。

 ラ・ケイダーャの騒ぎは耳にしている。
 ベルゼウ公っていやぁ、若いが相当腕の立つと評判の剣士だ。
 だがよ、帝国兵と魔導士を十数人だと?
 信じられねえ。
 しかも、あのクソガキがかよ。

「だから皆、“ 神の子 ” って呼ぶんでさ。」
 別れ際、生真面目そうな研ぎ職人がそう言った。

 あのクソガキがジャックなんだとしたら、斧も使う。
 ハンターなら、必ず獲物の卸しで組合に顔をだすはずだ。
 そう考えて目についた飲食組合へ来てみたが、少し時間が早かった。
 腹も減った。
 向かいの店でソーセージサンドを買う。
 3バリイ。
 なかなか美味い。

 研ぎ職人だけじゃない。
 この街には、いろんな職人がいて、ちゃんと仕事をしている。
 だから居心地がいいんだろう。

 飲食組合の受付は感じの良い娘だった。
 ダーニャより少し若い。
 西門界隈で働けば人気者になれるだろうが、あそこは汚いところもある世界だ。
 普通がお似合いだ。

 組合長は感じが良いとは言えなかった。
 帝国製の妙な長剣が悪いんだろう。
 それでもジャックなら、“ ダンジョン ” と呼ばれている旧市街の奥で狩りをしているだろうと教えてくれた。

「争いごとは勘弁だからね。」
 組合長はそう言った。
 俺も同じだ。
 戦のことを思い出しかけたが、首を振って考えるのをやめた。
 誰だって戦なんか嫌に決まっている。

 旧市街へ向かう途中、肉か何かを焼く屋台が目に入った。
 やけに繁盛している。
 帰りに寄るか——
 いや、ジャックを探すのが先だ。

 旧市街は、時間が早いせいか、ハンターの姿はまばらだった。
 小さな子供達が、水路でザリガニか何かを採っている。
 どんな街にも、ろくに飯も食えない奴はいる。

 そう思った時、子供達の向こうに野犬が数匹見えた。
 一瞬、
 ほんの一瞬だけ迷ったが身体はすぐに動いてくれた。
 けれど、その水路に辿り着いた時、少し後悔した。

 五匹。
 しかも、一匹はやけにデカい。
 子供達が逃げ出す。
 その子供達の背中目がけて、一匹が飛びかかった。

「ナドラッ!」

 雷撃が弾け、野犬を撃ち抜く。
 だが、デカい奴への反応が遅れた。
 噛まれはしなかった。
 だが前脚だと思う、目の周りを裂かれた。 
 血が視界を赤く染める。
 左から、もう一匹!

「ライアッツ!」

 火花が散る。
 クソっ!!
 短い呪文じゃ、仕留めきれねえ。

 どうする……
 デカい呪文か?
 いや、一匹始末しても他は——

 その時。
 タン、と真上から人影が落ちてきた。

 次の瞬間、
 二匹の野犬が地面に沈んでいた。
(な……今、何をした?)

 デカい野犬と、もう一匹が同時に飛びついてくる。
 ——!?
 フッ、とデカい方が消えた。
 反射的に、残った一匹を斬った。

 デカい奴はどこだ。
 頭上から、犬の鳴き声。
 見上げる。
 城の屋根ほどの高さに、野犬が浮いていた。
 そして、その野犬は何かに強く引っ張られるかのように地面へ叩きつけられた。

 空から現れた男は、背中から斧を抜くと、
動かなくなった野犬の首を躊躇なく落とした。
 間違いなく、俺は助けられた。

 俺は剣を置き、片膝をついて頭を垂れ……
 礼を言おうとした、その時——

「やっぱり西門の魔法剣士さんだ。」と、子供っぽい声。
 顔を上げて、ソイツを見た。
 あのクソガキだった。

「オマエ、本当に神の子なのか?」
 問いかけると、
「違うよ。 皆が勝手に言ってるだけサ。」と、あっさり言って笑った。

 旧市街を出て、用水で傷口を洗う。

「動かないで。」

 ジャックがそう言ったかと思うと、目元に暖かな感触が触れた。
 ただ、なんとなく温い感じ。

「もう大丈夫。
 多分、跡も残らない。」

 用水を覗き込む。
 裂けたはずの皮膚が、綺麗に閉じていた。
 空を飛び、野犬を動かし、傷を治す。
 精霊王が側にいるのかと、俺でも思いそうになった。

「何……何をしたんだ?」
 やっとそれだけ言えた。
 だが、ジャックの野郎はやっぱりクソガキだった。

 人の弱みにつけ込んで、にやりと笑ったかと思うと、魔法の呪文は何種類使えるのか。
 詠唱はどれくらいかかるのか。
 杖はいらないのか。
 その内、子供を護ったところがカッコ良かった、とか。

「も、もうどうでもいいだろう!」そう言うと、ようやくジャックは口を閉じた。

 ……と思ったら、
「鹿、重いから運ぶの手伝って。」だと。
 結局、屋台のそばまで鹿を運ぶのを手伝わされた。

 もう帰る、と言いかけたところで、
「串焼き、一緒に食おうよ。」ときた。

   *    *    *

 気づけば、串焼きとエールで盛り上がっていた。
 ジャックも、その手下も、話してみれば妙にイイ奴らだった。

 しかも——、手下の親子はニケアの生まれだってのに、俺を憎んだりしていなかった。

「アンタだって無理矢理、戦わされたんだろう。 今は、同じレドゥビアの民だ。」
 なんて言うんだ。

 ……ニケアの騎士も、やるもんだな。

「だから、そんなに楽しそうな顔で帰ってきたのね。」

 ダーニャが、嬉しそうに笑った。


            続きます。
 

西門闘技場の女魔法剣士

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 タイトルカットと記事末の女魔法剣士は、フレキシブルフランクことChatGPTの作画
 やはり、優音先生のようには、なりませんね…… テデクスは先生にお願いせねば💦

 優音先生

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