神の子とダンジョン ・ 第9話 − 187
ダンジョンと呼ばれる旧市街、その奥にある宮殿。
宮殿の地下一階は、下の階からワニが上がってこない限り、概ね平和だ。
ジュニア君の地図作りが終わったことを、オイラはエースさんに伝えた。
エースさんが、
「やり方は任せる、」とだけ言う。
やっぱり、この “ お試し ” は試験だ。
地下二階。
階段を降りたが、ワニの姿は見えない。
地図を確認しながら進んでいくと、いた。
二匹
ワニだ。
昨日、エースさんが倒した奴よりは小さい。
距離は三十フィートちょっと。
(九メートル)
「そいつ、任せていいかい。」軽い調子で、エースさんが言った。
トールとジュニア君の顔を見る。
大丈夫だ。落ち着いている。
予想どおりだ。
ジュニア君は背後の警戒。
トールが片手剣を抜いたのを確認してから、オイラはエースさんに、
「ハイ。」と、それだけ答えた。
すぐに一匹目のワニの背中に、精霊契約陣が浮かび上がる。
最初はジタバタと暴れたが、やがて、ピタりと動かなくなった。
「へえ!?
陣を、ワニの動きに合わせて動かしたのかい?」
そう聞かれたので、一枚の陣の上から、別の陣で押さえつけているのだと説明した。
するとエースさんが、
「思ったより器用なのは分かったけれど、もう一匹のワニはどうするんだい。」と言う。
「どれですか?」そう聞き返すと、
「どれって、すぐ後ろに――」エースさんが指差したそのワニも、すでに目を閉じ、動かなくなっていた。
オイラは、少しだけカッコつけて、パチン、と指を鳴らした。
それに合わせて、二匹目のワニの背中にも、精霊契約陣が浮かび上がる。
「オイラの陣は、見えなくすることも出来るんです。」
そう言うと、エースさんは、
ほんの一瞬だけ黙り込んでから、
「これが、“神の子”の奇跡か。
参ったな……全然、気がつかなかったぜ。」と、苦笑した。
動かなくなったワニを、トールとジュニア君が仕留めている間に、オイラはエースさんからの、いくつかの質問に答えた。
ワニは、大カナトコや岩トカゲと同じで、寒くなると動けなくなると思った。
熱を奪うのは、魔法としては簡単な部類だ。
そしてオイラは、このやり方なら一度に四体くらいは相手に出来る。
「王族の魔法使いも、 同じことが出来るのかい?」と、エースさんが聞く。
王族は、せいぜい一度に五枚くらいだが、勇者が指導しているから、力は増していると思うと答えた。
「レドゥビアの、もう一人の神の子か……。
一度、話してみたいな。」エースさんが、勇者と何を話したいのかは分からなかったが、人使いが粗いから、やめた方がいいと思った。
ワニのほかにも、ヘビがいた。
例の部屋を見てたからサ、出るだろうとは思っていた。
エースさんの話では、飛びついてくるタイプは毒に注意が必要らしい。
派手な色をしていることが多いが決めつけは危険だ。
一方で、地味な色のヘビも油断ならない。
こちらは身体に巻き付いてくるから、気を抜けないのだという。
地下二階の地図が出来上がるまでに、大きめのワニが一匹。
それから、何度かヘビに襲われた。
飛びついてくるヘビは、大地の力で床に押さえつけると動けなくなる。
戦ってみて分かったが、地味な色のヘビの方が、ずっと厄介だった。
近くに行くまで分かりにくいし、精霊契約陣も貼り付けにくい。
結局、頭を一度焼いて、目や舌を鈍らせると倒しやすいことが分かった。
「精霊フレアの力かい?」と、エースさんが聞いてくる。
城下で一番身近な精霊、フレア。
民からの信頼を集める竈や暖炉の精霊
だが、火の力というものは存在しないと、勇者は言っていた。
陣を二枚出して、片方を冷やすと、もう片方から炎を出しやすい。
そう説明だけした。
「精霊魔法も、理屈があるんだな。」そう感心したあと、エースさんは今日の探索の終わりを告げた。
トールとジュニア君が、ワニとヘビの解体をしている間に、
「血まみれ一家は、期待以上だ。
明日も頼む。」と、エースさんが言った。
夕焼け空が、やけに綺麗だった。
明日は、雨かもしれないと思った。
翌日は、朝から久しぶりの雨だった。
事前に、雨が降ったら宮殿探索は中止だと、エースさんは決めている。
ワニやヘビは湿気があると活発になると考えているようだった。
最近は仕事が多かったから、今日は休みにしようとトールに伝えておいた。
* * *
ヘビの革も、かなりの価値があるらしい。
武具屋の工房では、革職人たちが慌ただしく働いている。
武具磨きは当分中止。
正直、ありがたい。
ヘビ肉は串焼きにしたあと、燻製にすると携帯食になるそうだ。
昨日の稼ぎは、十四万バリイ。
実感があまり湧かない。
一人で出かけた。
戦斧の「与三郎」は自分で研いだ。
生け簀に行き鯉に餌をやる。
ラビと生け簀に落ちたっけ…
雨のせいか、池では鯉の幼魚もたくさん獲れた。
あっという間に、日没が近づいた。
鯉の漁場で待っていると、人影が近づいてくる。
「黒フードは捕まったよ。」そう声を掛けると、相手はいきなり剣を抜いた。
ラビの言うとおり、道場で見たことのある顔だった。
「アルス姫の婚礼前だ。
王に悪い知らせを入れたくない。
バカルが、そう言っていた。」
その言葉を伝えると、衛士の手から剣が落ちた。
石畳の上で、カラン、と音がした。
衛士は剣を見遣っていたが拾おうとしなかった。
衛士は無言だった。
しばらく、雨音だけが響いていた。
二人ともずぶ濡れだ。
「すぐにレドゥビアを発つなら、
誰にも言わないし、追わないってさ。」
街外れまで、衛士――
いや、元衛士の後を歩いた。
別れ際、ノカナの銀貨を一枚、手渡した。
続きます

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タイトルカットと記事末イラストは、
いつもの優音先生
番外編です
読んでくれたら、嬉しいワ🐊🐍🦇
