見出し画像

神の子とダンジョン ・ 第30話 − 218SPL

 9月、満月の前日にはフロリアがある。
 エコール(小学校)で、新入生が無事に成長し、こうして学べることへの感謝を精霊王様に捧げる日だ。

 精霊王様が本当にいるのかは分からない。 
 ワタシは神父の娘だけど、見たことも感じたこともないものを、心から信じられるかといえば …… 正直、ちょっと微妙。

 神職は弟が継ぐ。
 ワタシはきっと、ノカナ国とかメリンバ王国の神父様のお嫁さんになるんだと思う。
 友達の中には羨ましいって言う子もいるけれど、好きな人のお嫁さんにはなれない。
 私も、もうお姉さんだから、それくらいは分かる。

 べ、別に今、好きな人なんかいないよ。
 だって、11歳だし。
 変じゃないよね。
 ……ほんとに、いないから。

 弟はいつも鼻水を垂らしているし、手も
ちゃんと洗わない。
 聖書を読んでいるところなんて、一度も見たことがない。
 パパも子供の頃は、あんな感じだったのかな。
 パパの子供の頃なんて、想像がつかない。

 ママは聖都華蜀の生まれ。
 帰りたいって思ったこと、ないのかなあ。
 初めてパパと会った時、どんな気持ちだったのか、いつか教えてくれる日が来るのかな …… なんて、考えてしまう。

 そして、それもあるけれど。
 ママだってワタシくらいの年の頃、好きな服も着られなくて、スカートの丈まで決められるの、嫌じゃなかったのかな。

 やっぱり、聞いたりはしないけれど。

 今日はいい天気。
 昔からフロリアの日は晴れるって聞くけれど、不思議よね。
 フロリアでは、学校が選んだ女の子が新入生代表になって、精霊王の妹役 ―― フロリアとして、最初に祈りを捧げる。

 ワタシは、その祈りを聞き届ける役目。
 仕方ないよね。
 神職の娘なんだし。
 朝から、滅多に着ない法衣に袖を通して、エコールへ向かう。

 今年のフロリア役は、血まみれ一家の娘だって聞いている。
 “ 神の子 ” って噂の人のところ。
 アルス姫と結婚した勇者様のほかに、どうして神の子がいるんだろう。
 スフィーダでは暴れまくって、ベルゼウ公の怒りを買ったって噂の子供。
 なんだか、変よね。

 精霊王様が、そんな男の子をレドゥビアに遣わしたなんて、どうにも納得がいかない。
 …… ああ、ワタシったら
 不満ばっかり。
 どうしてこんなにイライラしているんだろう。

 そんなことを考えているうちに、フロリアが始まり、その子が学内の聖堂に現れた。

 ええっ――!?

 体中が、びりっと痺れた。
 雷に打たれたみたいだった。

 新入生だから、まだ6歳。
 それなのに、礼装をまとったフロリア役の女の子は、体の奥から光を放っているように―― 少なくとも、ワタシにはそう見えた。

 王族みたいに優雅に歩き、教師達と、そしてワタシに静かに会釈をする。
 その娘が近くに来た瞬間。
 ワタシは、生まれて初めて、精霊王様は本当にいらっしゃるのだと信じられた。


教会の「聖騎士 百合姫」の壁画


 フロリア役の女の子は、聖騎士百合姫様の御姿、そのままだった。
 教会に描かれている、いちばん大きな聖人の壁画。

 大昔、アルプスの北から来た蛮族がレドゥビアを滅ぼしかけたとき、突然現れて国を救ったという、伝説の姫騎士。

 小さな頃から、何度も何度も見上げてきたあの百合姫様そのものだった。

 ワタシが剣を渡す。
 その娘は、それをまるで持ち慣れた自分の剣のように受け取ると、静かに片膝を床につき、精霊王様へ祈りを捧げた。

 ―― その瞬間。

 その娘の周りに精霊が集い、光の粒がふわふわと私達の周りに生まれたように、ワタシには見えた。

 なんて尊い。
 なんという奇跡だろう。

 祈りを終えたあと、ワタシは決まり事の台詞を告げる。

「精霊王様の御加護あらんことを。
 名を申しなさい。」

 その娘は、天使のように微笑みながら、

「オダネル=ニケア=フランソワーズです。」と、美しい声で答えた。


             続きます


オダネル=ニケア=フランソワーズ


 ******************

 今回のイラストは、全て優音先生の作画
 (教会の壁画だけは、優音先生の作品を、
ChatGPTで加工したもの。)

 前のお話は、こちら📝

 やっと、小学校(エコール)の行事回を書けました。
 11歳の神職の娘@リゼットは、今後も登場予定です。(柾待望の百合展開かっ!?)

 神ダンも、ある程度の閲覧数を保持したまま第30話に到達出来たことに感謝してます。
 先輩ユーザーと比べると、フォロワーも多くない辺境記事を読んで下さること、本当にありがとうございます。
 これからも、神ダンをよろしくお願いします✨️🙇

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集