ノカナのジャック【ダンジョン・第9話】 − 168
今日も晴れて暑い。
そして、ダンジョンは今日も賑やかだ。
オイラには良い日とは言えないが、仕方ない。
みんな必死に生きているのだから。
用心棒さんのおかげで、ダンジョン奥と呼ばれている公園跡の池に、安心して行ける。
本当にありがたい。
タニシを集めながら、ザリガニやヒラガニを獲っていると、少し浅いが良さそうな水路を見つけた。
水路の近くには住居跡があり、身を隠すための石壁を作る必要もない。
このダンジョンと呼ばれる旧市街の家で屋根が残っている建物は、ほとんどないが、この家は2階建てだったのか壁が高い。
雨が降っても、ズブ濡れにはならなそうな場所だから、これからの季節にはバッチリだ。
石壁のスポットより、例の黒フードにも見つかりにくいだろう。
水路が見える窓に吊るすため、池から葦を引き抜き、簾を編むことにした。
簾が出来上がりかけた時、いきなり背後からエースさんに声をかけられた。
前もそうだった。
周りの警戒はしているつもりだけど、エースさんは、近寄ってきても気配がしない。
「よっ。 また変なことしてるなwww
あのよ、夢って案外、簡単に叶うだろ?
そして、夢って奴は、一度動きだすと止まらねえ。
だからな、越後屋ジャック。
チャンスを逃がすなよ。」そう言って、エースさんは宮殿の方へ向かって行った。
旧市街の宮殿。
城がまだなかった頃、王族が住んでいたとされる建物。
旧市街で文句なしに一番デカいこの建物をハンター達は宮殿と呼んでいる。
中はいつも暗く、迷うと出てこれないなんて噂まであって、ハンターでも入る者が少ない場所。
ダンジョン奥の、さらに奥だ。
エースさんは、ソロで宮殿に入るつもりなのかと、思わず驚いた。
簾を編み終えた頃には、すっかり良い時間になっていた。
二つ目の水路に葦を差し、タニシを撒いてから、今日は帰ることにした。
昨日と同じように、早めの時間で狩りを切り上げ、組合に寄った。
飲食の組合では、優しそうな事務員さんが対応してくれた。
ラビより、ずっと気楽でいい。
そんなことを考えながら、バカルが通っているという道場の見学に向かった。
道場は初めてだったから、遠慮がちに入いって、周りを見渡していたら、
「あっ!」と声がして振り返ると、組合の事務服姿のラビが、オイラを指差していた。
「なんで女が道場にいるんだよ?」そう言ったら、
「アタイが誰に弁当作ろうが、勝手だろ!」と、ラビはいきなり怒りだした。
ラビはまだ何か言いたいようだったが、
「道場に来るなんざ、初めてじゃないか。」とオイラを見つけたバカルが声をあげた。
ラビは、びくりとした後、急にしおらしい顔になって、
「バカル様、違うんだ。
急に越後屋がアタイをバカにしてきたから、つい……」などと、よく分からないことを言い出す。
「ハッハッハ、ラビ。
ジャックはそんな奴じゃねえよ。
なんかの勘違いだろうさ。」そうバカルが言うと、
「そ、そうかい。
ゴメン、謝るよ。」とか言って、ラビはバカルに体を寄せた。
頬が、ほんのり赤くなっている。
オイラは、なんだかアホくさくなって、二人から離れ、剣士たちの稽古を見学した。
しばらく見学していると、道場生に頼まれて、バカルが二、三人を順番に相手することになった。
今まで知らなかったが、バカルは師範代と呼ばれていた。
試合は、すぐに終わった。
道場生は皆、バカルにあっさりと負けていた。
その強さよりも、オイラにはバカルが力まないことが印象に残った。
木剣を軽く振っているだけなのに、相手は近づけなかった。
力んじゃダメなんだ。
動きが悪くなるからかな…
そんなことを考えていた時、道場の窓から冷たい風が吹き込んできた。
外を見ると、分厚い雨雲が空いっぱいに広がっている。
冷たい雨が降りそうだと思った。
オイラは道場を飛び出し、ダンジョンへ向かった。
* * *
日没までには、まだ時間がある。
ダンジョンへ向かう道も、着いてから石塔側へ向かう道でも、忘れ物を取りに行くかのような雰囲気を装い、目立たないように歩いた。
石壁を積んだポイントが見えてくる頃、ざあっと雨が降り出した。
雨が冷たいので、今日見つけて簾を取り付けた新しいポイントへ向かうことにした。
思った通り、2階建てだったであろう住居跡は、壁が高いから雨が吹き込んでこない。
嬉しいことに、岩トカゲが入り込んできたので、何匹かを難なく捕まえられた。
やがて、水路の水位が上がってくるのが分かった。
条件は揃ってきたなと考えていると、しばらくして、池の端の葦が揺れた。
水路の水は、いつもより濁ってきている。
だけど、タニシや水草が見えなくなるほどではない。
大丈夫だ、奴が現れたら狙える。
そして、
ユラりと鯉が姿をあらわした。
前よりも落ち着いて、道場で見たバカルのように、力まず矢を放つことができた。
事前に準備していたから、すぐに鯉の頭に布を被せ、さらに濡らした布で包んで背嚢に入れた。
急な雨のおかげで、ダンジョンから戻る他のハンターたちに紛れ、目立たず帰ることができた。
コーエンさんの店の裏口をノックすると、ラビが顔を出した。
「なんだ……アンタかい。」
そう言うラビを無視して、店の中央にある水槽へ行き、布ごと鯉をそっと水に入れる。
布を剥がすと、鯉は元気に泳ぎ出した。
矢は、鯉の身体から少し離れた位置で、鏃と羽根を切り落としてある。
気をつけて見ないと、残された矢に気づかないくらいだ。
安心したせいか、体がへなへなして濡れたままだったが、店の椅子に座り込んでしまった。
慌てて厨房から出てきたコーエンさんが、「おおっ、2フィートはあるぞ……!」と、驚いた声を上げた。
雨は相変わらず強かったが、
「お城に知らせてくる!」と叫んで、ラビは店を飛び出していった。
続きます

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成り上がれジャック!
ノカナのゴミ捨て場のスラムから
追記: ラビの3頭身イラストが可愛いと
メールを頂きました。
優音先生ッ、マヂで感謝です。
あと、本日20,000PVを突破。
なんだか、夢みたいてです。
皆様、本当にありがとうごさいま
す。
CCハイボールを飲みながら。
柾しの
