神の子とダンジョン ・ 第26話 − 211
レドゥビアで美味いものの代表といえば、森の奥深くに住むオーロックスと、旧市街で採れた鯉とされている。
その “ 名誉鯉 ” のカルパッチョを前に、オイラとトール一家は何故か背筋を伸ばしていた。
なにせ、超高級食材である。
ここで味に不満を口にでもしようものなら、高値で卸している自分達としては複雑な気分になってしまう。
そして…
スフィーダのシルバーリボンを獲得した二世君が、最初の一切れを口へ運ぶ。
皆が一斉に身を乗り出す。
「どうだ?」
「美味しい?」
「 …… う〜んっ…。 」
二世は慎重に味合う。
そして、もう一度考える。
不思議な緊張感が広まる。
「どうなのだ?」
「……コリ……」かな?
一同が「コリ?」
「コリコリ、です。」
なんだそれは。
皆も恐る恐る口に運ぶ。
…… 。
…… プリプリしている。
…… 確かにコリコリしている。
「コリコリしているのですね。」と、フラウが真顔でまとめた。
皆に不思議な困惑感が広まる。
誰も“美味い”とも言わない。
そのとき、マーガレットが立ち上がった。
「こういう時のために、頂いておいたのよ。」
と、今や超有名料理店となったコーエンさんの店から譲り受けたという秘伝のソースを、誇らしげに取り出す。
トールが数切れをまとめてフォークに刺し、豪快にソースを絡めて口へ放り込んだ。
…… 。
「むっ。 これは、美味いっ!」
一同、即座にソースへ手を伸ばす。
「父上、それを!」
「私も!」
コリコリ…
ふっと、フラウが笑顔になる。
「コリコリが目覚めました!」
さきほどまでの緊張は何だったのか。
レドゥビアの鯉は、今、ソースによって救われたのであった。
丁度その時、扉が勢いよく開いた。
「おっ、やってるな!」
バカルである。
レドゥビア王族に仕える十六家門の騎士とはいえ、オイラ達とは気の知れた間柄だ。
席に着くやいなや、状況も聞かずに皿へ手を伸ばす。
数枚の身をまとめてフォークに刺し、秘伝のソースを豪快に絡めると、そのまま一口で頬張った。
「うおっ、この鯉、美味っ!」
早っっ!?
一同、これが鯉の食べ方なのだと納得する(笑)
さきほどまで “ コリコリの会 ”だった空気が一瞬で変わった。
「本当か?」
「本当だ!」
「父上、もう一度!」
皆もトールとバカルに習い、今度は遠慮なく豪快に食べる。
少しずつ上品に食べていた時より、なぜか圧倒的に美味い。
ほのかな甘みが広がり、上品な旨味が舌に残る。
バカルの手土産だというワインを口に含む。
これがまた妙に合う。
飲めば飲むほど、鯉が旨くなる。
食べれば食べるほど、ワインが進む。
「このワイン、やけに上等じゃないか?」とオイラが聞くと、バカルはグラスを軽く掲げて、こともなげに言った。
「それは、ベルゼウの名を賜った時に、王から下賜されたものだ。」
一同、えっ!?
「……下賜?」
「王様から?」
「美味いものは、皆で飲んだ方が美味いだろう?
今日は二世の祝の席だしな♬」
レドゥビアの鯉はと、王のワインで皆は最高に盛り上がった。
マーガレットが、グラスを両手で包みながら笑った。
「二世がシルバーリボンの栄誉を頂き、王から賜ったワインで皆と食事ができるなんて……こんな幸せ、ありませんわ。」
その笑顔は、いつも以上に幸せそうに見えたし、オイラも嬉しかった。
トールが鼻を鳴らす。
「去年までは、雇われ用心棒で、狭いアパルトマン暮らしだったなぁ。」
「雨が降ると、天井が鳴っていましたね。」とマーガレット。
「うむ、鳴ってた鳴ってた。」とトール。
バカルが静かにグラスを傾ける。
最近、バカルは仕草が洗練されてきた感じがする。
そんな彼が、
「俺も、名もない衛士の一人で成り上がることばかり考えてたさ。」
少し照れたように笑う。
今や王から名を貰い、16家門に名を連ねるバカルだが、こうしていると何も変わらない。
さっきまで “ コリコリ ” で騒いでいた食卓が、いつの間にか幸せな空気で満たされていた。
トールが言う。
「まあ、成り上がったなら、それでいい。」
バカルが肩をすくめる。
風雨は変わらず強かったが、暖炉にくべる薪の心配もなく、屋敷の中は暖かだ。
「それでな。
一応は秘密なんだが…」
バカルが、ワインを一口含んでから、そう前置きをして話しだした。
「スフィーダの後、衛士隊長達は必ず集まって、審判役の報告を聞くんだ。」
トールが頷づく、ニケアの国でも同じだったらしい。
「そこでな、二世の“左奥構え”が話題になった。」
二世君が驚いて顔を上げる。
「試しに、見ていた俺がやってみて、隊長連中と相手をした。」
トールが、「……で?」と先を促す。
「誰も俺を崩せなかった。
高名な衛士隊長は槍の使い手なんで、突きの禁止は苦しい。
だが、他の隊長達でも、すぐにあの構えを攻略してみせた者はいなかった。
二世君が目を丸くし、トールが満足そうに笑った。
「来年のスフィーダは、二世の構えが流行する。」
バカルは、一拍置いて、
「これは、大変なことだ。」と言った。
三度参加してシルバーリボンを得られなかったトールが、二世の肩に手をおいた。
セルフィドの風雨は、相変わらず窓を打ち続けていた。
いつの間にかフラウは椅子にもたれて眠り、マーガレットも、
「片付けは明日でいいわね」と微笑んで寝室へ下がった。
それを待っていたかのように、二世が口を開いた。
「それにしても……
ジャック様の来年も出場禁止は、厳し過ぎませんか?」
バカルは即答した。
「じゃあ来年、ジャックと赤髪が何事もなく対戦できると思うか?」
二世は答えられず、風が窓を鳴らす音が部屋に響いた。
「ジャックは神の子だ。
勝っても当然と言われるし、
負けても多分、おかしな噂が広まる。」
オイラは肩をすくめるしかできなかった。
そもそも、オイラは二世君の活躍が見たかっただけだった。
「だから、神の子がシルバーリボンまで持っていったら、さすがにヤバい。」
バカルの言葉にオイラは頷づいた。
トールがグラスを揺らしながら、ふと問うた。
「それほどか。その赤い髪の子は。」バカルは少し考えてから答えた。
「落ち着いて戦っていれば、あいつが一番だったろうな。
木剣ではなく本物の剣なら……尚更だ。」
オイラも、二世も、それは感じていた。
トールが小さく嘆息する。
「大した子供がいるものだ。」と一言口にし、二本目のワインへ手を伸ばす。
オイラは白み始めた空を見ながら、セルフィドも今日には終わるだろうと思った。
レドゥビアの秋が深まっていく。
ノカナのスラムで、雨が降ったらゴミ山に穴を掘って震えながら寝ていた自分を思い出した。
続きます。
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今回のタイトルカットもフレキシブルフランクことChatGPTの作画
前のお話(主人公ジャックのスフィーダ
での闘い。)↓
お世話になっている優音先生の記事
神ダンのリンクもあります。
優音先生の記事も累計300を突破
許可を頂けたら、なんらかの形で、お祝い記事を掲載したいと思っています🎉
神ダンでChatGPT作画と書いていても、
優音先生のデザインを踏襲していることが
多いです。
「量子力学ですが、何か?」以降の記事は基本的に先生のビジュアルを基本に書かれています。
感謝感謝(−人−)✨️
