見出し画像

ノカナのジャック【ダンジョン・第10話】 − 169

「凄い……、これでウチも王族御用達になるかも。」
 暗くなりかけている城下の通りを、降り出した雨に濡れるのも構わず、ラビは息を切らせて走った。

 北門の衛兵に、台所頭へつなぐよう伝える。
 雨音の中、堀からだろうか、魚が跳ねた水音が聞こえた。

「でも凄いのはウチの店よりも、あの越後屋っていうガキだ。
 アタイなんて、何ひとつ自慢できるものもないのに……」

 そのとき、ラビは自分と同じように傘を差していない人影を目にした。
 黒いフード姿
 背が高いけれど、痩せたシルエット。
 女の人、かな…

 その黒いフードが話している相手が道場で、バカルに稽古をつけてもらっていた男だとラビは気ずいて、思う。
「……ふうん。衛兵さんだったんだ。」
 こんな商人用の北門だなんて、きっといろいろあるんだろうな。
 そう思ったところで、台所頭が姿を現した。

「よし、来た。甲斐があった!」

 一方その頃、店では ―
 水槽の中を、元気に泳ぐ鯉を見つめながら、コーエンさんがオイラに声をかけてきた。

「暮らしは大変かい?」
 なんとなく、
 察するって言えばいいのかい?
 オイラはさ、組合に入ったこと。
 それには随分と金が必要だったこと。
 そして、毎日の打込み場や狩り道具の出費。
 そんないろいろがあるから、
 時には、卵代ひとつで頭を悩ませる日があるとか。 
 そのままを話しをした。

 しばらく黙り込んだコーエンさんが、ぽつりと言う。

「……ジャックさん。
 この鯉を、城に献上してもいいかい。」
 済まなそうな顔をしている。
 そんな顔をする訳も分かっていた。

 献上

 それは、お願いして城に受け取ってもらうことだ。
 だから、稼ぎにはならない。
 今日捕まえた岩トカゲで、明日くらいまでは何とかなる。
 そう分かっていても、怖かった。

 金がなくなると、人は焦る。
 焦ると、危ないことにも手を出してしまう。
 腹ペコで旧市街の近くに行くだけで、もうソイツは危ない。
 生命のやりとりなんだから。

 だから迷った。

 それでも、オイラは「お願いします。」と返事した。
 今日のうちに仲買に行かなきゃならない。 
 それを告げて、コーエンさんの店を出た。

 仲買で75バリイを受け取って、帰り道を歩きながらいろいろ考えた。
 オイラの獲物を王族が喜んでくれるなら、それで充分だ。
 もしアルス姫も食べてくれるなら、本望だとも思った。

 何より、良くしてくれているコーエンさんに、少しは恩も返せた。
 店に戻ると、どうやら繁盛していたらしく、武具磨きの仕事がいくつも入っていた。
 オイラの取り分は、お一人様分4バリイ
 それが、妙に嬉しかった。

    *    *    *

 少し、体がだるい。
 それに、ちょっと肌寒い。
「バカなオイラでも、風邪引くのかよ…」
 そんなことを考えていた、その時だ。

「トケ、チケッケー!」
 奇妙な鳴き声が聞こえた。

 辺りを見回すと、崩れかけた住居跡の高い場所に、大カナトコがいた。
 小さい。
 それでも、見た目で1フィート半はある。 
 
 用心棒さんに、手で合図する。
 頷き返してくれた。
 よし、周りを見張ってもらえる。
 安心して、音を立てないように、矢の後ろの穴に、狐の尻尾の筋から編んでもらった極細糸を通す。
 腹を狙うため、少しずつ、少しずつ位置を変えるために移動する。

 どれくらい時間を掛けただろう。
 大カナトコが、目を閉じた瞬間だった。
 矢を放った。

 狙いどおり、矢は腹に突き立った。
「よしっ、やった!
 小さいけどさ……
 大カナトコって、やっぱ変だよな…… 」

 と、面白くない冗談を言おうとしたら、オイラに背中を向けたまま、
 用心棒さんが、じりじりと、こちらに下がってくる。

 どうして?
 そう思う間もなく、用心棒さんの背中越しに見えた。
 ― 野犬の群れ。

 八匹……いや、九匹か。
 多すぎる。
 崩れかけた住居跡の高い場所まで移動し、周囲を見回す。

 日没間際のせいか、まったく人影がない。 
 しくじった ……

 まだ死にたくない。
 嫌だ。
 絶対に、死にたくない。

 用心棒さんに、
「こっち来て」と声を掛けながら、覚悟を決める。

 あのナイフと、魔弾を取り出す。
 精霊に、祈る。
 用心棒さんが、オイラの隣に来た瞬間 ―
 ナイフが、紫色に輝きだし、低い起動音が、空気を震わせた。

 用心棒さんが、
 信じられないものを見るような顔で、
 オイラの顔を見ていた。

                  続きます

 ******************
今回のタイトルカットは、フレキシブルフランクこと、ChatGPTによるもの。

 成り上がれジャック!
ノカナのゴミ捨て場のスラムから

1話から読む場合は、コチラ🚀⏬️
リンクがあります🙇


いいなと思ったら応援しよう!