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『黒の代行者【下】《休日編》:べ、べつに、メロンクリームソーダが好きなわけじゃない。』|ダークファンタジー|掌編小説|AIアート|深淵図書館

今日は、仕事じゃない。

休日、という概念を僕らは本来持たない。
けれど地球に溶け込むには、それらしく振る舞う必要がある。
スーツを脱いで、人混みに紛れて、何でもない顔をして。

そういう日が、嫌いじゃない。
…………別に、好きでもないけど。

行きつけの店がある。

窓際の席。
メロンソーダにクリームが乗った、あの緑色の飲み物を出す店。

店員は僕の顔を見るなり「いつものですか」と言う。
宇宙中を渡り歩いてきた僕が、地球の片隅の喫茶店で「いつもの」を持つ日が来るとは思わなかった。

………まあ、悪くない。

グラスが運ばれてくる。

見るたびに思う。
よく似ているな、と。

あの味に。

人間が深夜に流す涙の、底の方にある甘さ。
後悔が煮詰まって、どうにもならなくなった時の、あの重たい芳醇さ。
憎しみが静かに冷えていく瞬間の、あのひんやりとした、清涼感。

クリームソーダだ、といつも思う。
甘くて、冷たくて、泡立っていて。
なのに飲み干すと、どこか切ない。

人間はこれを「好きな飲み物」として注文する。
自分の負の感情と同じ味のものを、金を払って、笑顔で飲む。

なんて変な生き物だろう。

矛盾を抱えたまま生きていける。
傷つきながら、また同じ場所へ戻ってくる。
絶望したくせに、翌朝ちゃんと目を覚ます。

理解できない。
本当に、理解できない生き物だ。

理不尽な目に遭ってでも、それでも生きようとする…。

でも…。

何度見ても、飽きない。

宇宙中の星を見てきた僕らが。
こんな小さな星の、こんな殴ったらすぐ折れそうな生命体に。

…………べ、別に、好きとかじゃない。

ただ。
素材として、優秀だと思っているだけだ。

グラスの底に、クリームが溶け残っている。

僕はそれをストローでゆっくりかき混ぜながら、 今日も誰かの憎しみが、後悔が、静かに僕の元へ流れてくるのを感じていた。

甘い。

本当に、甘い。

…ごちそうさま、人間。

また明日も、せいぜい矛盾していてくれ。


そして、矛盾していても光に向かって生きようとする自分をどうか。


誇って欲しい。


あんたらは最高だよ。




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