60代のリアル|第20話:病室のベッドから寂しそうに手を振る母を見て──安全に食事してほしくてシリコンスプーン探しが始まった
4月24日 17時。
退院調整看護師さんとの面談を終えて、 母に「今日は帰るね」と伝えに、もう一度病室へ向かいました。
そのとき、看護師さんから
「次に来るとき、シリコンスプーンを持ってきてください」
と言われました。
母は普通のスプーンを噛んでしまうそうで、 少し前には 箸の先を1cmほど噛み切って飲み込んでしまった こともあり、 そのことを思い出して胸がざわつきました。
「シリコンスプーンって、どんなものですか?」
と聞くと、
「赤ちゃんが使う柔らかいスプーンです」
と説明を受けました。
病室に戻って
「また明日来るね」
と声をかけると、母はタオルケットの中から手を出して、 小さく手を振っていました。
その仕草がどこか寂しそうで、 私の胸にも静かに重さが残りました。
病院の近くの100円ショップに寄ってみましたが、 店員さんに聞いても
「扱っていません」とのこと。
仕方がないので、明日(4月25日)は
無印良品
ロフト
赤ちゃん本舗
デパートの生活雑貨売り場
キッチン用品の小物コーナー
を順番に回ってみようと思いました。
母が安心して食事ができるように、 まずは シリコンスプーン探し から始めることにします。
家に帰ると、ふと台所のまな板が目に入りました。
今使っているのは シリコンのまな板。 軽くて扱いやすく、介護と家事を両立する今の私にはちょうどいい道具です。
でも、父が生きていた頃は、 父が作ってくれた 木のまな板 をずっと使っていました。
包丁の音が柔らかく響いて、 あの頃の家の空気がそのまま染み込んでいるような、 そんなまな板でした。
今はもう使っていないけれど、 あの木のまな板は、 私の中ではずっと台所のどこかに置いてある気がします。
そして明日(4月25日)は、 母のために シリコンスプーン を探す日。 家族の形は変わっていくけれど、 「誰かのために選ぶ道具」という点では、 昔も今も変わらないのだと思いました。
シリコンスプーンが見つかるといいのですが……
つづく
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