60代のリアル|第7話:「あっ!血だけだっ!」一体何があったのか?
母は朝ごはんをほんの少ししか食べません。 この日も、白いご飯は二口ほどで終わり、あとはおかずだけです。
朝は手がこわばって上手く使えないので、 箸を持つことができない母の口へ、 私が一口ずつおかずを運んでいきました。
食べながらお茶も渡し、 「口の中の食べ物がなくなってから飲んでね」 と毎回のように声をかけるのですが、 母はいつものように、ごくごくとお茶を飲んでしまいます。
母は逆流性食道炎なので、 逆流して吐いてしまうのが怖くて、 私は何度も注意しているのですが、 まったく聞いてくれません。
ようやく食事が終わり、次はお薬です。
いつもお薬は嫌がり、 口から出したり、頬の内側に隠したりするのですが、 この日は違いました。
お薬を口に入れた瞬間、 私の右手──親指を、 母がガブッと噛んだのです。
「いたぁーーーい!」
思わず叫び、 反射的に右手で母の左頬を平手打ちしてしまいました。
母の頬骨のあたりと、口のまわりには、 私の血がついていました。
指の血がなかなか止まらず、 ティッシュで押さえながら、 残りのお薬を飲ませました。 母はかなり嫌がっていましたが、 無理やり口の中へ入れました。
お水を渡すと、 「冷たい!」と母が言いました。 それまで温かいお茶を飲んでいたから、 余計に冷たく感じたのかもしれません。
気づけば、もう7時近くになっていました。 すっかり遅くなってしまい、 私は焦りながら着替えをさせていました。
その途中で、母が突然叫びました。
「血だらけだ!」
とても驚いたようで、 少しパニックになっていました。
せっかく着替えさせたのに、 母の洋服には私の血がついていました。
「それはお母さんの血じゃないよ。大丈夫だよ」 と私は言い、 親指の第二関節あたりをきつく縛り、 血を洗い流してから絆創膏を貼りました。
それからもう一度、母の着替えをやり直しました。 「もしかすると遅刻かも…」 そんなことを考えていました。
つづく
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