60代のリアル|第23話:【実録・高齢の親の入院】面会時間はわずか30分。何軒も探したシリコンスプーンを渡せた日。──病院への感謝と、娘としての本音。母の「とろみ食」に思うこと。
前回までのあらすじ
尿路感染症で入院した母。入院前、デイサービスで箸を噛み切って1cmほど飲み込んでしまう事件があり、病院でも誤嚥(ごえん)をとても気にかけてくださっていました。
看護師さんから「シリコンスプーンを用意してほしい」と頼まれ、私は必死でお店を回り、ようやく1本を見つけました。
今回は、それを持って面会に赴いた日のお話です。
4月25日(土)13:40 母の病室。
私は母の病室を訪れました。
ベッドの上の母は、やはりあまり元気がありません。
右側を下にして横たわり、目は開いているものの、「お母さん」と呼びかけても耳が遠いせいか返事はありませんでした。
「寒いねっ」と、いつもと違う母の手
あんなに苦労して、何軒もお店を回って手に入れたシリコンスプーン。
「買ってきたよ」
と見せてみましたが、今の母にはそれに関心を持つ気力もないようでした。
もう一度、今度は耳元に顔を近づけて
「お母さん」
と呼んでみました。
すると母は、小さな声で
「寒いねっ」
と言い、タオルケットをごそごそと被ってしまったのです。
その日は暑いくらいの陽気でした。
「寒くないよ!」
と思わず声を返し、私は母の手を握りました。
その瞬間、胸がざわつきました。手が、とても冷たかったのです。
いつもは私よりも母の手の方が温かかったのに。どうしてこんなに冷えてしまっているのだろう……。
不安を打ち消すように両手でぎゅっと握り直すと、母は
「手が温かいねっ」
と言ってくれました。
その言葉が、嬉しくも、どこか切なく私の心に響きました。
シリコンスプーンと「とろみ食」
そうしているうちに、看護師さんが点滴の交換にやってきました。
「頼まれていたシリコンスプーンです」
そう言って手渡すと、これで次からの食事が「とろみ食」になるという説明を受けました。
シリコンスプーンが渡せたことで、ようやく口から食事をとる準備が整った。それは一歩前進のはずでした。
けれど私の心には、少し複雑な思いがよぎっていました。
とろみ食は、きっとあまり美味しくないのではないか、と。
毎日一生懸命作ってくださる病院のスタッフの方々には本当に申し訳ないのですが、娘としては、母にはできるだけ美味しいものを食べて元気になってほしい、と願わずにはいられなかったのです。
30分だけの、短い面会時間
病院で定められた面会時間は30分以内。あっという間に終わりを告げる時間がやってきます。
「今度は4月29日に来るね」
ベッドを離れながら母に手を振ると、母はタオルケットからそっと手を出して、私に振り返してくれました。
元気がないように見えても、手が冷たくても、やっぱり母は母のままで私を見てくれている。その小さな手の動きに救われながら、私は静かに病室を後にしました。
つづく
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