60代のリアル|第12話:母の異変に気づかず、大変な事態に・・・【その2】
病院に着くと、待合の椅子に男の人が座っていました。 きっと家族が診察を受けているのだろう── そんなことを思いながら、母が救急隊の方に連れられていくのを見送りました。
救急隊の方がバインダーを先生に渡しているのが見え、 母はそのまま診察室の中へ。
しばらくすると、先ほどの男の人の奥さんらしい女性が診察室から出てきて、 「もう帰っていいそうです」と言われていました。
その一方で、母のいる診察室からは 「いたぁーーーい!」 という母の声が何度も聞こえてきました。
先生と看護師さんが 「痛いことはしていませんよ」 と声をかけているのも聞こえました。
胸がざわつきました。
少し経つと、今度は母の笑い声が聞こえてきました。 その声に、ほんの少しだけ肩の力が抜けました。
やがて先生から 「お話を伺いたいのですが」 と呼ばれ、診察室に入りました。
私はこれまでのことを順番に話しました。
4/11(土)トイレに行くときの転倒
4/15(水)デイサービスから帰宅後の転倒
4/17(金)箸の先端1cmの誤飲
4/18(土)救急外来に断られたこと
4/23(木)上半身の震え、顔の紅潮、動けなくなったこと
先生からは、 「以前から認知症の症状はありましたか?」 と聞かれました。
私は、 「朝はせん妄のような状態で、夢の続きを見ているようで…… 『警察を呼んでくれ!』と言うこともありました」 と答えました。
先生は静かにうなずき、 今回の病名と、必要な処置について説明を始めました。
病名は 尿路感染症。
そして承諾書には、
「暴れたりする可能性があるため、手にグローブのようなものをつける場合がある」
「点滴に安定剤を入れることがある」
と書かれていました。
ここまでは、まだ理解できました。
しかし次に渡された同意書には、 延命治療をするか、しないか を選ぶ欄がありました。
「いつそうなるか分からない状態なので、この場で書いてください」
そう言われました。
さっきまで母の笑い声が聞こえていたのに。 つい数分前まで、あの声が確かに聞こえていたのに。
でも── 動けない母を家に連れて帰っても、 私ひとりではもう介護ができない。
どうしたらいいのか分からなくなりました。
「お母さん……ごめんなさい」
震える手で、 延命治療はしない と同意書にサインしました。
つづく
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