60代のリアル|第26話:【実録・事務職の逆転劇】限界の先で見つけた光──連休中にAIと作ったチェックツール。マニュアル不要で「誰でもできる」仕組みへ。
前回までのあらすじ
誰も手順を知らない300件もの支払証明書発送や、ミスが許されない130件の入金消込。
以前から要望していた「二名体制」が叶わなかったツケを、母の入院という最悪のタイミングで一人で背負うことになった私は、5月1日の夕暮れ、デスクの前で物理的な限界を静かに悟っていました。
5月2日から始まった、世間では大型連休と呼ばれる日々
カレンダーが赤く染まっても、私の頭から仕事の焦燥感が消えることはありませんでした。
連休前、中途採用の新人さんへの引き継ぎを試みたものの、時間がなさすぎて「操作方法」を伝えるだけで精一杯になってしまっていました。
今思えば、あの作業の「目的」だけでも伝えられていれば、
「だからこの手順が必要んだ」
と納得して、もっと頭に入りやすかったのかもしれません。
全体像が分かれば、
「自分は今、この部分を担っているんだ」
と、新人さんも迷わずに済んだはずです。
「せめて、何か変なデータがあったときに、誰でも簡単に自動で検知できるツールがあれば……」
1つのメーリングリストには、30件から多いときで400件近くのメールアドレスが含まれています。
メールアドレスの後ろに紛れ込んだ目に見えない半角スペース、@が2つ以上重なっているといった入力ミス。これらを人間の目で一つずつチェックしていくのは、どう考えても現実的ではありません。目視での確認こそ、ミスの温床になります。
もし、ボタン一つでエラーを弾き出せるチェック用ツールがあれば、入社したばかりの新人さんにだって安心して作業を任せられる。
「一人で背負う限界」を突破するためには、私自身の手で「誰でもできる仕組み」を作るしかない。
そう思い至った私は、連休中のパソコンの前で、AIの「Copilotさん」を開き、試行錯誤を始めました。
「ExcelのA列、B列、E列をそれぞれチェックして、エラーがあったらセルの背景色を変えたい。さらに、可能なら自動修正までできるマニュアルいらずのツールにしたい」

プロンプト(指示)を打ち込み、吐き出されたコードをテストし、エラーが出ればまたCopilotさんに相談する。
キー操作一つで、見出しのエラーチェックから、文字数カウント、使用不可文字の削除、全角から半角への変換までを網羅する──。
画面の向こうのAIと二人三脚でコードを書き進めているうちに、理想のツールが少しずつ形になっていきました。
実は、もう一つ私を悩ませていた深刻な問題がありました。
それは、社員がメーリングリストを使ってメールを送信した際、宛先エラーなどで届かなかった場合に、私の受信ボックスへ大量に跳ね返ってくる「エラーメール」の存在です。
メールボックスを恐ろしい速さで埋め尽くしていく、パンク寸前のエラーメールの山。
実は、以前にもエラーチェック用のVBAを自作してはいたのです。
そのツールを使えば、手作業なら丸4日かかる1日分のエラーチェックが、わずか30分で終了する。それほど強力なツールでした。
しかし、その「わずか30分」すら、実行している間は他の作業が一切できなくなってしまうため、日々の激務の中ではその時間すら捻出できず、実行できずにいたのです。
チェックが追いつかないため、メールボックスは重くなる一方でした。
「ここは一旦、手作業になってしまうけれど、エラー分だけをログとしてエクスポートして、受信ボックスからは削除しよう。少しでもメールボックスを軽くする、今はその方法でいくしかない」
そんな苦肉の策を練りながらも、連休中に完成させた新しいチェックツールを眺めていると、私の心の中には、あの月曜日に感じていた絶望とは違う、不思議な高揚感が芽生えていました。
会社が用意してくれない二名体制なら、私が「AI」を相棒にして、システムとして二名体制を構築してやる。
それは、迫りくる母の退院調整やこれからの生活から、自分自身と、解らないなりに頑張ってくれている新人さんを守るための、絶対に譲れない戦いでした。
つづく
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