六十三|花野奇譚
宵泊の鹿子木ゆのは島外へ嫁いだ。嫁ぎ先で火事が起き、ゆのを遺して皆亡くなった。ゆのは放火を疑われた。無罪にはなったが集落には身を置けなくなり、花野に出戻った。愛する夫と娘を亡くしたゆのは、家に籠り、塞ぎ込んでしまった。泣くことも笑うこともなくなり、表情は能面のようであった。母は不幸な娘にかける言葉もなく、頭を悩ませた。
ある日の明け方、娘の部屋からすすり泣く声がして母は襖を開けた。聞けば、ヒトリシズカの旋律が美しいのですと応えて、それから声を上げて泣いた。
花野では夢の中で音楽を授かることがある。このような夢を花音の夢と呼ぶ。花音の夢で受け取った旋律はできる限り再現し、小波神社の舞殿で奉納演奏を行う。

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