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百十|花野奇譚

 昭和四十年頃の話である。石留いしどめ黒川定弥くろかわさだみが友達と初音川はつねがわでザリガニを釣って遊んでいると、川上から鮮やかな紫色の液体が糸のように流れてきた。流れの元を探して川上へ歩くと小さな女の子が倒れていた。足を怪我しているようだった。擦り傷から流れる血が美しい紫色で二人は顔を見合わせて驚いたが、話し合って親に手当をしてもらおうということになり、家に連れて帰った。黒川くろかわの母は消毒をしてガーゼを当てて包帯を巻いた。それからドクダミ茶を取りに台所へ行った。居間に戻ると女の子の姿はなく、息子と友達は熟睡している。外を探したが見当たらず、それきり現れなかった。目を覚ました二人に聞いたが、いつの間にか寝てしまったということであった。
 次の日、二人は女の子と会った場所に向かった。会うことはできなかったが、川沿いに咲く鮮やかなムラサキゴテンを見つけた。女の子から流れた血と花の色が同じであったので、今度は皆で遊ぼうと話して帰った。
 初音川はつねがわ沿いに川上へ歩いた遊冶橋ゆうやばしの手前に今も十数株のムラサキゴテンが見られる。

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