第7話 人生って、なにがあるかわからない!(メイド✶アリサ―Wishmoreな学園日記)
前回のお話📕
(✴︎アリサが聞いた、ガサガサ! という謎の音の正体は……)
目を凝らして窓の外を見てみると、小さくて白い塊が正面の枝でもぞもぞ……って、落ちそうになってる!
ここは2階。地面に叩きつけられたら、無傷じゃ済まない。
「待ってて! 今、助け……」
窓枠に片足を乗せた、その瞬間——白い塊が枝から滑り落ちた。
!!!?
慌てて、両手を前に突き出す。
間一髪! ぽすっ……と手のひらにその「なにか」が収まった。あたしはすぐに両手で包み、抱くようにして部屋に戻った。
「はあ……よかったあ~……」
大きく息を吐き出しながら窓を背にして、その正体をそ~っと確かめる。
「ネズミ……?」
手のひらにおさまっているのは、白い毛並みのネズミだった。
ぱっちりと目が合う。吸い込まれそうな、紫色の大きな瞳だ。すごく綺麗……。
それに……。
あたしの視線はネズミの左耳に向かった。
なんとこの子、耳飾りをつけているのだ。楕円形をした紫の宝石が、耳元できらりと揺れてる。縁取りはまるで月みたいな金色……。
……めっちゃおしゃれさんじゃん!
誰かが飼ってる子なのかな? まさかとは思うけど、メイド――。
「ありがとう! 助かったよぉ!」
突然、男の子の声が聞こえてきた。のほほんとしてて、声変わり前ってとこ……だと、思うんだけど……。

「……気のせいかな? ……今、ネズミが喋ったような……」
「あっ!」
ネズミは、しまった…!って言うように、両手(前足)で口元を押さえた。するとすぐに、あたしの手のひらを蹴って、窓枠に飛び移る。
「あ! ちょっと!!」
あたしは慌ててその小さな身体を掴んだ。
「ここから落ちたら怪我す……痛ッ!」
指先に鋭い痛みが走った。見てみると、ネズミがあたしの指に噛みついてる!!
「痛い痛いっ! やめて!」
ぶんぶん手を振ると、ネズミがぽとんってベッドに落ちた。
「……ボクのこと、処分しない……? するなら、また噛む」
ひっ……! やっぱり喋った!
——って、あたしが飛び上がらなかったのは、ネズミの瞳がうるうるしてるからだ。
四つん這いで、尻尾がぴんと立ってて……
……なんだか……昔のあたしみたい……。
故郷も言葉も記憶も失って……お嬢様に出会う前のあたし。
そう思ったら、胸がぎゅってなった。
「大丈夫だよ」
口から勝手に言葉が滑り出る。
「処分なんてしない」
あたしはそう言って、しゃがみこんだ。
ネズミと視線を合わせるみたいに。
「ほんと……?」
「うん」
「……でも……人の言葉を話すネズミなんて、不気味でしょ……? 見つかったら処分されるって、おじいさんが……」
「おじいさん?」
「……うん」
「……よくわからないけど、あたしは不気味だなんて思わないよ。そりゃあ、びっくりはしたけどさ」
ネズミが、はっと息を呑んだ気がした。
「……キミだったら……」
「?」
「あのね、ボク……『宝物』を探すためにここに来たんだ」
「宝物……?」
「うん。おじいさん……すごい魔法使いからの試練でね。それを見つけられたら、ご褒美としてボクも魔法使いにしてもらえるの」
……なんだか、一気にファンタジックな話になってきた。
魔法って……。いや、でも目の前でこうして喋ってるネズミがいるわけだし、信じるしか……って、本当に? あたし正気?
「それで、試練が始まったと思ったら、急に木の上にいて……。危ないところを助けてくれて、ほんとにありがとう」
なるほど……そういうことだったのか。
あたしは、とりあえずネズミの話を信じることにした。
「どういたしまして。怪我がなくてよかったよ」
「……っ、うん!
……それで……あのね? 宝物を見つけるには、人間の力が必要なんだって。だから……もしよかったら……その……手伝ってもらえないかなぁ……?」
「え?」
「あ! もちろんタダでとは言わないよ!? 宝物を見つけたあかつきには、協力した人間の願いも叶えてくれるって! おじいさんが言ってたんだ!」
胸の奥が、どくんって鳴った。
ネズミの声は、うまく耳に入ってこない。だって、願いを叶えてくれるってことは……!
「ねえ! それって、あたしの願い事じゃなくてもいい?」
「え?」
「あたしが、他の人の願いを代わりにお願いするの。それでも、叶えてもらえる?」
「うん、大丈夫だと思うよ? 死んだ人を蘇らせるとか、誰かを死なせるとか、そういう『命』を左右するものはだめなんだけど、その他はなんでも――」
「やる! あたしに手伝わせて!」
「!! ほんと!?」
「うん!」
紫色の瞳を見つめて、はっきり頷く。
だって、お嬢様の願い事を代わりに願えば、叶えてもらえるってことでしょ!? そんなの、やるに決まってる!
「ありがと! 助かるよお!」
ネズミがにっこり笑った(気がした)。
「わ、あぶなっ!」
いきなりぴょーんと飛びついてきたから、慌てて両手で受け止める。
ネズミは「ごめんねえ」なんて笑いながら、あたしの手のひらの上でのんびり首をかしげた。
「ボクはスピカ。キミの名前は?」
「アリサだよ」
「アリサ……アリサ……よおし、じゃあアリーって呼ぼうっと」
一人で楽しそうに決めたかと思うと、ネズミことスピカははっとした。
「……さっきは、噛んでごめんね。痛かったよね……」
しゅんとうなだれてる。
「大丈夫だよ。そりゃあ、自分よりずっと巨大なヤツに掴まれたら怖いよね」
「……ありがと……」
スピカは瞳をきらりと潤ませると、小さな前足を差し出してきた。
「……助けてくれたのがキミでよかった。これからよろしくね。アリー」
「こちらこそ」
右手の人差し指で、ハイタッチするようにしてぴたっと前足に触れる。もふもふだ。それに、こうやって見ると、なかなか可愛い。
ルミナス様に声をかけてもらったことといい、スピカと出会えたことといい、あたしってば、かなりツイてるよね! ああ、神様ありがとう!
「それで、その宝物ってなんなの?」
あたしは今にも踊り出したい気持ちをこらえて、手のひらにスピカを乗せたままベッドへと腰を下ろした。
「それはねえ……」
「それは?」
「……」
「……」
んん?
「スピカ?」
「……」
「おーい、聞いてる?」
「あ、ごめんっ! なんだか頭がぼやーんとしちゃって」
「……大丈夫? もしかして、具合悪い?」
「ううん、元気! 試練がはじまるときに、おじいさんが『記憶があやふやになるだろう』って言ってたの。だからだと思うっ」
それで、とスピカが続ける。
「『一番の宝物』を探し出せって言われたんだ」
……ええと?
「具体的には?」
「……わからないの」
「わからないい?」
「うん……。それを考えるのも試練の一部……って言ってた気がする」
「……謎解きってことかあ……。かなり手ごわそうだね」
自分で言うのもなんだけど、あたし賢いタイプじゃないからなあ。まあ、脳みそ絞ってでも答えを見つけ出すけどね! お嬢様の幸せのためだし!
そんな風に考えて燃えているあたしだったけど、スピカも同じみたいだった。
「……うん。だけどボク、絶対に見つけ出すんだ」
小さな身体から、熱意みたいなものが伝わってくる。
そんなに、魔法使いになりたいんだ。
……かっこいいな。
「ねえ、スピカ」
「なあに?」
「どうして魔法使いになりた――」
コンコンッ
いきなり響いたノックの音に、あたしたちはそろって飛び上がりそうになった。
点呼のこと、すっかり忘れてた……!
「スピカ、ここに隠れてて。絶対出てきちゃダメだよ?」
「う、うんっ」
スピカが布団にもぐったのを確認して、あたしはゆっくり扉を開いた。そこにはメイド長がいて、訝し気に眉を寄せている。
「……話し声が聞こえましたが?」
「え? ええと……たぶん独り言だと思います。よく注意されるんです。あはは」
笑顔をつくってドキドキしながら反応を待っていると、メイド長は小さく息を吐きだした。「いいですか?」と目配せしてくる。
「独り言は結構ですが、大きさには気を付けるように」
「はい、承知いたしました」
「では、すぐに就寝してくださいね。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
扉を閉めて、あたしは大きなため息をついた。あっぶなかったあ……。
その後あたしとスピカは一緒に布団に入り、朝早くに学園を歩いて手がかりを探してみようと約束して瞳を閉じた。
色々話を聞きたかったけど、それは明日にお預けだ。
こうして、あたしは『お嬢様の幸せな未来』に向けての大きな一歩を踏み出したのだった。

(✶ストーリーが進んできたので、次回は、登場人物紹介を含むおさらいコンテンツを投稿する予定です)
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《投稿スケジュール》
毎週 金🍪☕ 1話ずつ
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マガジン📚
🎨イラストは、アプリ「AIイラスト」とGeminiで作成しました。(サムネ・挿絵ともに)
