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第8話 メイドの朝は大忙し(メイド✶アリサ―Wishmoreな学園日記)

前回のお話📕

登場人物紹介など、おおまかな内容がわかるページ📃


(✶人の言葉を話す、魔法使い志望のネズミ・スピカと出会ったアリサ。
フリィジアの願いを叶えてもらうことを前提に、スピカが挑戦中の『魔法使いになるための試練「宝探し」』に協力することになったのだが……)


 朝独特のひんやりとした空気に包まれたメイド寮。その廊下を忍び足で歩き、そーっと自室の扉を開く。

「せっかく早起きしたのに、何も収穫がなくてごめんねぇ…」

 朝日に照らされた室内に入るなり、エプロンのポケットから顔を出したスピカがしゅんとした。

「ううん。あたしの方こそ、学園のこと何も把握してなくてごめん」

 すっごく早起きして『宝探し』を始めたあたしたちだったけど、建物には全部鍵がかかってた。
 だから、敷地内をぐるぐる回って、スピカにここが湖に浮かぶ島で、芸術について学ぶ場所なんだって説明するだけで終わってしまったのだ。

 よく考えればわかることだったけど、がっかりした。
 建物内を調査しようと思ったら、勤務時間内じゃないとダメってことだよね、つまり。

「大丈夫っ。アリー、昨日ここに来たばっかりだって言ってたでしょ? 知らないことがあるのは当たり前だもん」

「そう言ってもらえると助かる。ありがと」

 あたしはスピカの頭を指先で撫でて、椅子に腰かけた。ぐ~っと伸びをしてから懐中時計を見ると……時刻は朝五時前。
 朝礼まであと1時間ってとこか。余裕余裕。

「ねぇ、アリー」

「ん?」

 ポケットからもぞもぞ出てきたスピカが、テーブルにちょこんと座って見上げてきた。

「宝物って、アリーだったらどんなものを思い浮かべる?」

「う~ん。そうだなあ……」

 ぱっと思い浮かんだのは、ベタだけど金銀財宝の山だ。冒険小説にでてくるような、海賊が大喜びしそうなやつね。
 それから、やっぱり――。

「お嬢様」

 声に出すと、スピカが瞳をきらりとさせる。

「お嬢サマって、さっきお話ししてくれた人だよね!」

「うん、そうだよ」

 あたしは敷地内を歩きながら、学園に来た経緯についてスピカに話していた。お嬢様との出会いについては軽く説明しただけだったけど、恩返しがしたいっていう気持ちはちゃんと伝わったみたい。

 そしてスピカも、自分のことを教えてくれた。

「ボクの宝物も、ご主人サマなんだっ。ボクとアリーって似てるねぇ」

 上機嫌に尻尾を振るスピカを見て、あたしも嬉しくなった。

「本当だね」

 スピカは元は普通のネズミだったんだけど、野鳥に襲われて死にかけていたところを魔女であるご主人様に助けてもらって、言葉を話せるようになったらしい。

 魔法で命をつなぎとめてもらった時に出た影響だろうって話だった。

 そしてスピカは、そんな彼女に憧れて魔法使いになりたいって思うようになったんだって。

 いつか立派な魔法使いになった姿を見せたい。喜んでもらいたいんだって、キラキラした目で教えてくれた。その話を聞いて、スピカに協力したいっていう気持ちが強くなったんだ。

 お嬢様の願いを叶えることはもちろんだけど、大切な人を喜ばせたいっていうスピカの願いも絶対に叶えたい。

 だから、絶対に『一番の宝物』を見つけ出さなきゃね!
 あ、ちなみにスピカはオスだった!


「よし、とりあえず情報収集から始めようか。もしかしたら学園に眠る秘宝みたいなファンタジックなものがあるのかもしれないし、あたし、メイドの先輩に話を聞いてみるよ」

「ありがと! じゃあボクは、アリーがお仕事している間に、朝行けなかった場所に行ってみるねっ! 何かあるかもしれないし」

「うんうん、いいじゃん! だけど……」

あたしはじっとスピカの瞳を見つめた。

「もし人間と鉢合わせしたとしても、絶対に喋っちゃダメだよ? 魔法なんてここには存在してないし、みんながみんなすぐに受け入れられるわけじゃない。……昨日スピカが言っていたみたいに、なかにはひどい扱いをする人もいるだろうからね」

 あえて厳しく伝えると、スピカも真剣な眼差しで頷いた。

「うん、心配してくれてありがと。気をつけるよ」

 ずーっと胸ポケットに入っててもらうわけにはいかないもんね。窮屈だろうし、何より宝物を早く見つけたいだろうし。

「じゃあ、今日も一日頑張ろっか」

「お~!」

 あたしが差し出した手のひらに、スピカがぴたっと前足をくっつける。そんなあたしたち流ハイタッチとともに、新しい一日が始まったのだった


*  *

「あ、おはよう。アリサちゃん」

 生徒食堂に入ると、ちょうど前方からファーファちゃんが歩いてきた。湯気の立つトレイを手に、長いツインテールをゆらゆら揺らしてる。

 専属メイドとしての一日の仕事は、担当生徒の部屋に朝食を運ぶことから始まるのだ。昼と夜は食堂を利用する人がほとんどなんだけど、朝食は自室でって決まっているらしい。

 メイドの起床時間は五時。その後は身支度を整えて各自従業員食堂で朝食をとり、メイド寮の廊下で朝礼。そして寮の掃除をして(担当場所が週ごとに変わるの。あたしは今週は、階段の掃き掃除)、今にいたるってかんじ。

「おはよう。あ、体調はどう?」

「体調?」

「ほら、昨日お腹が痛いって言ってたでしょ? ご飯も食べてなかったし」

「あ、ああ~。そうだったね!」

「やだな、ファーファちゃん。忘れてたの?」

「えへへ。もうすっかりよくなったから、つい」

 思わず突っ込むと、ファーファちゃんがはにかむ。たしかに顔色はいいし、元気そうだ。

「それならよかった。あ、シャワーってちゃんと――」
「もちろん浴びたよ! うん!」

「? そんなに力説しなくても」

「あ、ごめんね! もしかして臭うのかな~とか思っちゃって……」

「臭うって……ファーファちゃんが? そんなわけないじゃん! 昨日あたしがシャワールーム入った時空いてたからさ、教えようと思ってたんだけどすっかり忘れちゃって。それが気になってたってだけの話」

「……そっかぁ。ありがとう。アリサちゃんは優しいね」

 ファーファちゃんはほっとしたように笑うと、「あ」と表情を変えた。

「引き留めちゃってごめんねっ。厨房、列ができてたし早く行った方がいいかも」

「本当? ありがとう。じゃあ、あたし行くね」

「うん。また後で」  

 ファーファちゃんと別れて、厨房に向かって歩き出す。
 生徒食堂は、食堂っていうよりもカフェテリアって感じの場所だ。天井には青空を背に飛び回る天使の絵が描かれ、広々とした空間には白塗りのテーブルセットが綺麗に並べられている。

 聞いた話によると、厨房には一流料理人が揃っているらしい。月ごとに変わるメニューもあって、旬の食材がふんだんに使われてるんだって!
贅沢〜っ!!!

 ちなみに、従業員食堂で働いているのは見習いの料理人たち。そこで修行を積んだ人が、いずれは生徒食堂で働くようになるらしい。


 足を進めていくと、ファーファちゃんが言った通り、厨房にはメイドの行列ができていた。その一番後ろに並んで、大人しく順番を待つことにする。

 ああ~ベーコンが焼けるいい音がする……。それに、オニオンスープかな、この匂いは……。朝ごはん食べたばっかりだってのに、よだれが出そうだわ。

 なんて、食いしん坊丸出しのことを考えていると、朝食の乗ったトレイを受け取った先頭のメイドが振り返った。

 げっ、性格ブストリオ(あたしの部屋に侵入してたヤツら)のリーダー……。
 一重瞼のキッツそうな顔した彼女は、ポニーテールに結い上げたくすんだ金髪を揺らしながら、こちらに向かって歩いてきた。すれ違いざまにふんっと鼻を鳴らされ、イラッとする。

 あたしはその胸糞悪い後ろ姿に心の中であっかんべーをしてから、正面に向き直った。

 あの性悪女ときたら、朝からやってくれたからね。
 今日ファーファちゃんと喋ったのはさっきが初めてだったんだけど、何を隠そう、性格ブストリオが朝からファーファちゃんにぴったりくっついていたせいなのだ! あの先輩方は、あたしを村八分かなにかにしたいらしい。

 そういうわけで、朝食はちょうど一人だったシーナ先輩に声をかけてご一緒させてもらった。
 その時に「この学園って、秘宝とか、七不思議とか……そういう面白い話ないんですか?」って冗談めかして聞いてみたけど、それっぽい情報は手に入らなかったんだよね、これが。

 学園について何でも知ってそうなシーナ先輩でも知らないってなると、隠された秘宝説は間違ってるのかもしれない……。スピカはまたあたしの姿を見つけて合流するって言ってたから、その時に報告しよう。

 そうこうしているうちに、あたしの順番が来た。白いコック帽がよく似合う料理人からトレイを受け取って、食堂を後にする。

 今朝のメニューはエッグマフィンにカリッと焼き上げたベーコン、オニオンスープにサラダだ。サラダにはフルーツも混ざってて、かなりお洒落なことになっている。

 さすが名門芸術学園! なんて、何回目かわからない感想を抱きながら男子学生寮へ。


「――やあ、おはよう」

 部屋の扉をノックすると、ルミナス様がすぐに顔を出した。制服に着替え終わっていて、今日も爽やかに微笑んでいらっしゃる。

「おはようございます。朝食をお持ちいたしました」

「ありがとう」

「机までお運びいたしますね」

 一礼して室内に入ろうとしたんだけど……ん? ルミナス様が扉の前に立ちふさがったままだから、中に入れない。
 目が合うと、にっこり微笑まれた。

「それくらい自分でできるさ。君はここで待っていてくれるかい?」

 あたしの返事も待たずにトレイをひょいっと持ち上げると、ルミナス様は室内へと引っ込んでいった。そして、絹の袋を持って帰ってくる。
 学園指定のランドリーバッグだ。下の方に金糸でルミナス様のイニシャルが刺繍されている。担当生徒から前日に出た洗濯物を預かるのも、メイドの朝の仕事の一つなのだ。

「くれぐれも、取り間違いのないように頼むよ」

「はい。お預かりいたします」

 ルミナス様からランドリーバッグを受け取り、あたしは口を開いた。

「他に、身支度などお手伝いできることは――」
「特にないよ」

「では、本日のスケジュールをお伺いしてもよろしいですか? 楽器の運搬など、お手伝いさせていただき――」
「必要ないよ。基本的に、何か頼みたい時には、朝のこの時間に僕から伝えさせてもらう。それがない場合は、授業に係る補佐は不要だ」

「……ええと……わかりました。それでは、お部屋の鍵をお預かりしてもよろしいですか? ルミナス様が授業を受けていらっしゃる間に、室内のお掃除をいたしますので」

「それも必要ないよ。掃除くらい自分でできるからね。困ったことがあれば、別途相談させてもらう」

「お……お待ちくださいっ。そうなると、わたくしの専属メイドとしての仕事はほとんどないということになりますが」

「いいや、そんなことはないさ。朝のこの仕事と、昼食の席取りは頼もうと思っているからね。夕食についても、食堂に行くにしろ部屋にするにしろ、声をかけさせてもらうよ」

「はあ」

「ああ、そうだ。今日の昼食は隣室のエディととろうと思っているから、二人分の席を確保しておいてくれ。彼の専属メイドも新人だと聞いたが、面識はあるかな?」

「はい、存じております」

「それはよかった。その彼女と連携をとってもらえればと思う。よろしく頼むよ」

「はい、承知いたしました」

「じゃあ、僕はこれで。またトレイの回収だけ頼むよ」

 ひらひらと手を振ると、ルミナス様は爽やかな笑顔を浮かべたまま扉を閉めた。

 ……。

  ……明らかに拒絶されてた気がするんだけど……気のせい、じゃないよね? もしかして、他人に干渉されたくないタイプなのかな?

 うーん。
 もやもやするけど、ご主人様が必要ないっていうんだから、メイドがしゃしゃり出て勝手に仕事するわけにもいかないよね。

 専属メイドっていっても、生徒に関することだけが仕事じゃない。
 当番制で洗濯もするし(まさに今日はあたしの当番日だ)、敷地内の掃除だってある。……だけど、やる気に満ち溢れてただけにちょっとだけ寂しいかも。

 って、しょげてても仕方ない! その分宝探しに時間が割けるんだから、よしとしよう!


(✴︎次回は入学式! 新キャラも登場します)

˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.

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