実務と研究はまったく違った…「ダークパターン研究」に向き合った大学院での学び直し
10年以上デザイナーを続けてきた私が、美大の大学院に入り直し、学び直しをする記録。
前回のnoteでは、社会人をしながら美大に通い「問いを見つけるまで」の話を書きました。
このnoteでは、そこから初学者として、問いをどう扱い、研究の一歩を踏み出したのか。
研究の成果そのものよりも、ゾンビのように這いずり回った研究の記録、学び直しのリアルな痛みを中心に共有します。
「実務でもやってきたし」という修論本調査設計の落とし穴
改めて本調査では、「ダークパターンを実装する経験が、開発者自身にどう影響するのかを職種別に可視化する」ことにしました。
ダークパターンとは何か?
「ダークパターン(Deceptive Patterns)」とは、ユーザーの自律的な意思決定を、事業者の利益に向けて 誘導するユーザーインターフェース手法の総称です。2010年にデザイン研究者のHarry Brignull氏が提唱しました。
具体的には「×ボタンを極端に小さくして閉じにくくする」「無料トライアルを解約しづらくする」などがあり、近年は研究対象として注目されると同時に、国内外で規制の議論も進んでいます。
調査方法について

13名の実務者(デザイナー・エンジニア・PdM)にインタビューし、職種ごとの違いを可視化する試みです。
実務でも何年もリサーチをやってきたから、研究でもできるはず。
時間が限られた中、分析もインタビューも、慣れた方法で進めて収束させようとした結果、壁にぶつかります。
分析(KJ法)舐めてた

分析に選んだ「KJ法」は、もともと文化人類学者・川喜田二郎さんが考案した発想法です。
「データそのものに語らしめる」と言い、定量では測れない人々の空気感や機微を、図解化や叙述化を通して整理し、混沌から仮説を生み出していく。
半世紀以上たった今でも、多くの研究で使われている偉大な発明のひとつであります。
実務で“狭義のなんちゃってKJ法”を回していた経験もあったので、正直甘く見ていた私。
13人分のインタビューデータを抱えて分析に挑戦し……結果、見事に詰みました。

分析ではなく、"単なる整理・分類"になってしまっている
「質的データの良さが浮き出ていない」という、教授からのフィードバックを頂きます。


修論最終提出まで、向き合いきる

そんな窮地な状況でしたし、研究の進め方自体に後悔も多かったですが、諦めるわけにもいきません。
教授である丸山先生におんぶに抱っこで伴奏してもらい、KJ法講座を受講した院生同期にも支えてもらい、時間もないので他の手法を採用する訳にも行かず、何度もKJ法での分析を繰り返していきます。
ブラッシュアップの過程


年末年始をかけて分析に修正を重ね、なんとか論文を提出。
そして修論提出後休む間もなく、修了展が始まります。
修了展は一筋縄じゃいかない
論文を執筆しながら、手作業100%・短期間で修了展の準備を行うのは、考えること・やることづくしです。
正直、小〜大規模のイベント運営も、チーム展示の経験もありましたが、あまり通用しませんでした。
方針決め:個性より、伝わる展示を

来場者(院生希望の学生や保護者など)の体験を考え、私たちのゼミでは研究内容の伝わりやすさを重視する方針にしました。
まずは「脳の使い方が近い、論文型の展示」をまとめて配置しようと、展示位置について調整。そして、統一した展示台や紹介パネルを用意するなど、展示体験を議論して決めていきます。
空間設計・レイアウト決め:木工の展示台や自作の垂直壁……そんな夢も見ていた

当初は、展示台を木工で作ったり、垂直壁でリッチな展示体験を作ることもアイデアとして出ていました。
しかし、時間も予算も掛かるので、最終的には紙製ダンボール+MDF板を置く構成に変更しました。

設営1:ポスターは浮かせて張り、立体感を出す

ポスターはただ壁にベタ貼りするのではなく、壁から少し浮かせることで、「展示物」として魅せる空間にします。
まず壁は、事前にペンキを塗り直して補修し、展示に向けてムラのないように仕上げておきます。
次に、木片にポスター固定用の強力な両面テープを貼り、ピンで木片ごと壁に固定します。

最後に、その木片の上から、水平器で水平を測りながら数人がかりでポスターを設置していきます。

設営2:展示台作成。作品に光をあてて、照明調整もしていく

予め発注していた段ボール展示台を組み立てて、購入してきたMDF板を載せ、展示台を作成する。その後、展示物を配置します。
そして、スポット照明を調整して、光を当てていきます。

設営3:仕上げ。配線カバーや標識、細部までこだわる



印刷した論文は展示台の横におかず、まとめて配置
自分のiPad展示には、見栄えよく見せるための展示ボックスカバーを設置しました。


マインド:一人では実現不可能。"誰かを頼る"という恐怖を乗り越える

今回の展示は同期の支えなしでは絶対に完成しなかったなと、他人を頼る勇気を持つことも大きな学びのひとつでした。
隣では学部生たちが、後輩に手伝ってもらいながら、うまくチームで動いて展示を仕上げていました。
例年、恩送りのように助け合っているみたいです。
当たり前のことなのかもしれないけれど、社会人になると誰かに頼ったり、甘えたりするのが怖かったりもして、シンプルにうまくやっているなと、感動しました(資本主義の弊害)
修了展当日ーー設置して終わりじゃない。展示は“場”だ

いよいよ卒展当日。
実際に展示した内容はこちらです。

展示を媒体に、対話を繰り返す
丸山先生の「展示するだけでは、空間は完成しない」という言葉を受け、
場を作るつもりで会場に立ち続けます。
展示前に待機して、来場者に説明し、会話を重ね、フィードバックを頂きます。また丸山先生+ゼミメンバーで、同じ空間にあるお互いの全ての展示の解説ができるようにします。


研究のコミュニティは本当に豊かで温かく、たくさんのフィードバックを頂きました。
また研究に対してだけではなく、
「とにかく、お疲れ様。書き上げたことが本当に偉大」
「これからの人生、生き方をどうするかが研究のアウトプットのひとつですよ」
など、お互いを労る言葉を交わす時間が、何よりのご褒美でした。
最後に撤退作業を行い、無事に修了展完了。
これでやっと、研究領域の入口が覗けたみたいです。(あくまでも覗けただけ笑)
研究内容について
改めて、自分の研究内容をスライドで共有します。
ダークパターンは今、UXデザイン研究界隈の最前線にあるテーマです。
特に生成AIの普及により、既存のUIを参考にしたプロダクトが短時間で作ることが可能です。その結果、意図せずユーザーを不利益な方に誘導してしまう設計が生まれるリスクも高まっています。
だからこそ今、ダークパターンに関する問いは多面的に掘り下げる必要があると思うので、みなさんと議論を深めるきっかけになれば嬉しいです。
大学院でのアンラーニング。「リスキリング」って結局何だったんだ
身銭を切って挑んだ2年間。
たぶん人生でいちばん真剣に学んだ学生生活でした。
振り返ると、この2年間で学んだこととして、スキルの再習得以外のことが大きかったかもしれません。
まだ綺麗に言語化しきれていないですが、
入学時に目標を掲げた「研究とは何か」を知り、考え抜くこと。
実務では「課題を解くこと」を学んできたけれど、
自分で問いを立て、その問いに対して探求する力を育てること。目に見えない人の信用が経済を動かすこと
最後は思考力よりも筋力がすべてを支える(?)こと
自分の好きなものと、再び出会えたこと
目的を決めすぎず、寄り道すると大切なものに出会えるということ
などなど。どうしても抽象的になってしまいますね。
それらの学びが本質なのかはさておき、教科書や本にはないことを体験することができました。
とにかく頂いたたくさんのご恩を、社会還元できますように。
関わってくださったすべての方へ、心から感謝します。
しぶとく学び続けるゾンビクリエイターの、社会人大学院2年間でした。
私の所属していたゼミの取り組みはInstagramで公開されているみたい。
私は、Xなどで引き続き発信を続けるので、そっと見守っていてください。

