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KPIのために“ちょっとズルいUI”を選んだこと、ありませんか?ダークパターンと向き合った社会人大学院2年間の記録

2025年3月、武蔵野美術大学大学院の修士課程を無事に修了しました。

デジタルデザイナーとして職歴が10年以上ある私ですが、美大の大学院で過ごした2年間は想像以上に濃厚で、思っていた以上に成長痛(だと信じたい)がすごかったです。

「アンラーニング」とか「リスキリング」とか世間では軽く言いますが、大人になってからの初学者としての学び直しはとても痛い。いい意味で。

修了後は燃え尽き症候群が強く、しばらくは灰のように過ごし、出来るならこのままずっと灰でいたいと思っていました。

しかし、社会人で大学院進学を考えている方や、ダークパターンに興味がある方に、何かしら届けばいいなと思い、奮起して、未熟ながらも向き合い続けた研究過程を共有したいと思います。


そもそも、なぜ社会人で大学院に入学したのか

理由はシンプルで、一般大学出身のデザイナーとして、実務経験を重ねるうちに「体系的な美術教育がどのようなものなのか知りたい」と思ったからです。(あとは、美大に行きたかった過去の願いのお焚き上げ

背中押された教授の一言

まずは多摩美のTCL(短期スクール)に通ったのですが、さらに学びを深めたくなり、大学院受験を決意。

仕事が多忙な時期だったので、受験前の1ヶ月間の記憶はほとんど残っていません。ただ当時の会社には勉学休職制度があり、それを利用して通学することができました。(本当に助けられたので、この制度はもっとデジタル業界に広がってほしい

これまで単発セミナーや短期スクールに通った経験はありましたが、せっかくの大学院。「研究とは何なのか」を知ること、そして「とにかく下手でも論文を書いてみる」ことを、自分の学生生活のゴールに設定しました。

"巨人の肩に乗る"という言葉があってだな。問いと向き合う旅の始まり

ふわふわな初期アイデアたち

入学してからは、まず扱う研究テーマの”的”を定めることに難儀しました。
院試でも提出した初期の案は、抽象的で、壮大すぎたようです。

一方で、どの問いも共通して、具体的な開発現場で味わったジレンマから生まれてきました。

例えば、プライバシーポリシーは本来納得の上で同意すべきだけど、どうしても長文で読みにくいので、同意ボタンをすぐに押させる設計にしなくてはならなかったり。

サンプルとして開発していたジレンマケース

また当時、「Ethical Design(デザイン倫理)」という言葉が注目されており、DDC(デンマーク国立デザイン機関)の「The Digital Ethics Compass」という取り組みや、Netflixの「デジタル社会がもたらす光と影」なども話題でした。

例えば滞在時間など、KPIを愚直に追ってしまうと、長期的にはユーザーの健康や幸福を奪っているのではないか……。
ユーザーのため。事業のため。デザイナーとして魂込めて働きながら、ふと「本当にこれで良かったのだろうか?」という疑問が湧く瞬間があったのです。

そんなもやもやを形にできず悶々としていたところ、指導教員の長谷川敦先生からもらったフィードバックが大きな転機に。

巨人見つけました


まさに、自分が現場で感じていた違和感を探究できそうな領域でした。そこで、Webやアプリ上で見かける“ダークパターン”をどうすれば減らせるのか、という研究テーマにたどり着いたのです。
(それでもまだまだ壮大すぎるのですが)

ダークパターンとは何か?

「ダークパターン(Deceptive Patterns)」とは、ユーザーの自律的な意思決定を、事業者の利益に向けて 誘導するユーザーインターフェース手法の総称です。2010年にデザイン研究者のHarry Brignull氏が提唱しました。
具体的には「×ボタンを極端に小さくして閉じにくくする」「無料トライアルを解約しづらくする」などがあり、近年は研究対象として注目されると同時に、国内外で規制の議論も進んでいます。

研究はアジャイル開発じゃないんだぞ。問いと遊びすぎた夏

研究テーマが決まった!と思いきや、もちろん実際には研究”領域”が決まっただけで。 肝心の問いは、まだまだ抽象的で壮大なままでした。

問い、口からはみ出てます

この大きな問いを、自分の院生生活で向き合えるサイズにまで丸め込むにはどうするか。
先行研究論文を読み、研究者や開発者へのヒアリングを重ねながらも、考えはぐるぐると回るばかり。

そんな中、大学の研究展示の機会が巡り、ある決意をしました。
「とにかく手を動かして考えてみよう」
M2の夏、私は2つプロトタイプを作りました。

試作1:診断ツールで可視化してみる

ひとつは、ダークパターンに対する認識や傾向を可視化する診断ツールを作りました。

こんな感じの

簡単な4択の設問に答えると、自分がどれだけ「ダークパターン的」な選択をしてしまっているかが表示され、他の参加者の平均とも比較される仕組みです。

展示会では、思いのほか多くの人が挑戦してくれた

ただ一方で、ダークパターンが実際に発生する、実務の中での複雑な文脈や状況などの深い部分までは捉えきれない限界も感じました。

またツールを作る中で、現場からのボトムアップアプローチには、ある程度限界があることを思い出します。
自分はただダークパターンについての教育をしたいのではなく、可視化したデータ自体をもっと有効に扱い、構造的に立ち回りたいんだということに気づきました。

(このあたりの制作プロセスは、noteに詳しくまとめています👇)

試作2:「あなたが開発者だったら?」を追体験させてみる

そこで、次はダークパターン開発現場を追体験できる教育ゲームを作りました。

こんな感じの

テーマは「プレミアム会員の退会フロー」。 ダークパターンが特に多く見られる領域です。

参加者は「退会率を下げてください」というミッションのもと、
引き止めポップアップや手続きステップ数などの設計判断を選択していきます。
その結果、自分の選択がどれだけ“ダーク寄り”だったかが可視化される仕組みです。

試作(1)で足りなかった実務上の文脈の厚みが反映できた実感はありました。
しかし依然として、抜本的なアプローチに向けて、可視化したデータの扱い先をどう有効に扱うか、深まっていませんでした。

当時のもやもや脳内を起こした図

(こちらも備忘録👇)

手を動かしながら問いを探索していたら、あっという間に卒業まであと半年。
さすがにもう時間がありません。

ここで、印象的だった教授からのフィードバック

アジャイル開発が、生き方の血肉になりすぎている

これがアンラーニングの痛み。ひとつずつ検証を重ねながら細部を深ぼらず、問い全体へのアプローチが必要です。
そこで、問いを見極めるために、ラストスパートをかけることにしました。

法人内でのトップダウンアプローチへの接続は可能なのか?

泥沼の中で、ひとつの団子を丸めたいだけなんだ。
ダークパターンを本質的に防ぐには、個人の倫理観に頼るのではなく、構造として組み込む必要があるのでは?でも一旦どうすれば……。という疑問に、年齢・職種・出身国も多様なゼミメンバーが議論に付き合ってくれました。

お菓子を食べてばっかりの我がゼミ

そこで、教授からのヒントもあり、「ブランド観点での企業価値との接続」という道を探ってみることに。
具体的には、統合報告書などの非財務情報の開示といった文脈の中で、ダークパターンに関する取り組みが活用される可能性があるのかどうかを検討してみることにしました。

調査としては、「大手ウェブサービス企業の組織開発担当者」「不動産業界のIR(投資家向け広報)担当者」の実務者2名にインタビューを実施。

診断ツールや体験型ツールから得られたデータを元に制作した、従業員の判断傾向を可視化するダッシュボード(ラフ)を提示しながら、企業のブランド資産として評価される可能性について意見を伺いました。

今ならFigma Makeとか使って、もっと精度がよいものを作れそう…

インタビューの中で、一定の手応えを感じる部分もありました。

・従業員の取り組みは、人的資本経営やサステナビリティ開示の文脈で活用される可能性がある
・機関投資家の間でも、人権や倫理的判断への注目が高まっている

実際に統合報告書などで開示される可能性はあるし、倫理的な活動そのものが評価対象になる余地も感じられました。
一方で、壁もはっきりしていました。

・現時点では短期的な業績との関係性が弱く、経営層にとって優先順位が低い
・可視化した情報を経営判断にまで引き上げるには、具体的な成果や継続的な事例の積み上げが必要
・なにより、必要なデータへのアクセスや運用は時間がかかる

結論としては、今この時点で企業における非財務情報などに直接つなげるのは難しいということがわかりました。
このあたりは、もう少し長期的に検証していくべき領域なのだと思います。
そして、問いが収束していきます。

組織ではなく“個人”へ。問いの向き先を変える

ようやく、問いを固める決断をしました。この時点で卒業まであと3ヶ月です。
本来であれば半年以上前には固めておきたかった……。

ダークパターンをユーザーのために防ぎたい。そのために様々なアプローチがある。しかし大学院生活で1人で進めるには限界がある。

そんな中、私がずっと手放さず、握りしめていたのは、実際に開発に関わる人に対する影響だったのではないか。
そこで、研究の焦点を組織全体から“個人”へ転換することにしました。

対象としたのは、実際にダークパターンを実装した経験のあるデザイナー・エンジニア・プロダクトマネージャーたち。

立場も考え方も違う彼らが、ダークパターン開発を経て、職種ごとにどのような職種別行動と価値観を抱いているのかヒアリングをしたのです。

ここまでが「問いの芽生え」から「研究の方向性が定まるまで」の道のりでした。
いよいよ研究の本調査について、次回のnoteでご紹介したいと思います。


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