日本とアメリカのコンサート運営の違い 3
現地での機材の調達
前回の記事では、ブッキングエージェントやプロモーターの仕組み、ユニオンのルールについて書きました。
今回は、アメリカ各地での機材調達についてまとめたいと思います。
ツアーバスで全国各地を巡る場合はまた別になりますが、単発公演になると現地で機材をレンタルするのは必須になります。しかし頼んだ機材が来ない、ケーブルやマイクスタンドが足りない、「無いから近いやつを持ってきた」なんて言われることはザラです。
そういったことを最小限に抑える方法を学び、それでも違う機材が来る可能性があるという前提で公演に臨みましょう、という内容です。
1. Technical Rider
提出必須の資料
欧米でコンサートをする際、ブッキングエージェントやプロモーターから必ず求められる書類が『Technical Rider』です。口頭では少し短縮してTech Rider(テックライダー)、もしくはRider(ライダー)と言ったりします。
テックライダーは、ツアーメンバーの名前や連絡先、コンサート内容、飛行機やホテルに関するリクエスト、ステージデザイン、レンタル機材リスト、照明、音響、映像、電源… などコンサート開催に必要な条件が克明に記された資料です。勿論内容は企画ごとに大きく変わります。
提出後、こちら側のプロダクションマネージャーが、ライダー内容に沿って、会場スタッフやレンタル会社とコーディネートします。もし調達出来ないものがあれば話し合って妥協案を見つけます。
ライダーは「これじゃないとやりません」というより、現地の環境に合わせて最良の選択肢を探すための土台、と考えた方がいいでしょう。
2. 機材レンタル
毎公演、同じ機材が来る保障はない
アメリカは全国に支店を置く機材レンタル会社がなく、都市ごとに借りられる機材が変わってきます。殆どの場合、その会場から紹介されるところに依頼することなります。
もしその会社が持っていない機材があれば、プロダクションマネージャーが現地で他の会社を探します。どうしても見つからない場合は、似たような機材を借りて乗り切ります。
レンタル会社の対応
レンタルを依頼すると、指定した時刻に会場の搬入口へ到着します。搬入開始時間は通常午前8時なので、それに合わせてもらいます。ある程度の遅刻は許容します。
ドラムキットなどを借りると、その会社の運搬スタッフがセットアップまでやってくれます。ドラムテックがツアーに同行していればその方に任せ、いなければドラマー自身に任せます。
レンタル会社が間違えた物を持ってきたり、忘れ物をすることもあります。近ければ取りに行ってくれますが、片道一時間超えとかだとおそらく無理でしょう。話し合って解決策を模索します。
PAや照明のレンタル
PA、コンソール、照明が備え付けられてある会場もあります。そういった場所だと会場スタッフがそれらの機材を熟知していて、全て配線もできあがっているため、オペレーションが非常に楽になります。追加したいものがあれば、他の機材と同じように現地調達です。
スクリーンとプロジェクター
スクリーンとプロジェクターは、そもそも会場に無いか、あってもスペックが足りないことが殆どです。プロダクションマネージャー経由で、現地のレンタル会社とコーディネートしてもらいます。
僕は運良くスクリーンとプロジェクターのレンタルを専門にしている会社を知っていたため、ほぼ毎公演そこに依頼していました。全米どこでもトラックで運搬してくる猛者社長です。
3. 持参する機材
僕の例
僕がプロデュースするコンサートは、大体バンドとオーケストラが混在します。作業効率化とレンタルコスト削減のために、根幹となる以下の機材はいつも持ち込んでいます。
プレイバックシステム
MIDIインターフェース
IEM
マイク
その他ケーブルなど
だいぶ省略していますが、全部で大体フライトケース5個(1個約25kg)くらいの量です。これで根幹となるシステム、バンドとオーケストラのセットアップはほぼ完結します。どこに行っても中核部分は同じ機材なので、ツアースタッフの仕事効率も上がります。
持参すべきものの基準
公演実現に必要不可欠なもの、あれば全員の作業時間が著しく効率化できる機材、は必ず持参します。
追記: 航空会社のステータスを巧みに利用すると、ケースは全て無料で預けることができます。これで経費をだいぶ大きく節約できます。
4. 完璧じゃなくてもいいのがアメリカ
100%を求めないこと
テックライダーに記載された通りの機材が届かないこともある、と想定しておくのがベストです。
「何で指定したものがこないんだ」と問い詰めると、あなたは文句ばかりで面倒な奴のカテゴリーに入ります。そこで柔軟に対応して一緒に解決すれば、仕事出来る奴のカテゴリーに入ります。リスペクトもされます。
日本では何でも完璧を求める文化的傾向があります。頼んだことが100%できているのが当然でそれがプロ、とも思われることがあります。
どこの国にいても自分自身にそれを課すのは良いことです。しかしアメリカでそれを相手に求めても単なる文化の押し付けであり、結果誰もハッピーになりません。
何でも許容するという意味ではありません。違う文化なのだと納得し、アメリカのやり方で物事を進める方が、コンサートを楽しく成功させることができるでしょう。
実際に遭遇したケース
最後に、本当にあった話をいくつか紹介します。日本のプロの現場では先ず起きないことが起きるんだ、ということだけ知っていただければと思います。
レンタル会社のスタッフが明らかにドラムをやったことない人で、セットアップを終えたと思って見てみると、バスドラの位置にタムが置いてあった
ドラムキットの、スネア、タム、イス、しか持ってこなかった
「ギタースタンドはヘッドレス対応のもの」と明記してあるにもかかわらず、そうではないものが来てギターが乗らなかった。それから前述のフライトケースに折りたたみギタースタンドを入れるようにして解決
マイクスタンドが足りず、当日のマイクを減らさなくてはいけなかった
指定したキーボードではないものが届き、ひたすら同じ音色でライブを乗り切った
スモークマシンをレンタルしたのに、プロモーターが使用許可を取っておらず使えなかった
機材が盗まれた(ブラジル)
プロモーターもスタッフもテキーラで乾杯し始め、そのまま設営が翌日に延期された(メキシコ)
FOHコンソールが、事前に同じモデルで作っておいたデータを読み込まないので、地元スタッフに確認したらコンソールの中身がパチモンだった(中国)
5. 過去の記事
もし良かったら、以下の記事も読んでみて下さい。因みにまだ続きます。
