私のオススメ彼氏が特大ブーメランを投げつける #22 【創作大賞2024恋愛小説部門】
あれから3年が経った。
私は今も、ホーチミンにいる。
オススメ彼氏のたろう君を失った私は、ピックススーパーを辞め、アパートを引き払い、就労ビザを取得して再びホーチミンに戻ってきた。
理由はもちろん、ハインさんとおにぎり屋を営むためだ。
どうしてもホーチミンで理想のお米を手に入れられなかった私は、かつての取引先であるマルオカヤ食品の商品開発部、安達さんを頼った。
安達さんは仕入れに関して門外漢のはずなのだが、きっと各所に掛け合ってくれたのだろう。おかげでとても質のいいお米を仕入れることができている。日本にいた頃からずっとお世話になりっぱなしだ。
具材もベトナムの人の口に合うようハインさんと試行錯誤した。
最初は見向きされたかったおにぎり屋も、次第に客足が伸びていった。
そしてこの度、2号店がオープンする。
その告知をInstagramでしようと、3年ぶりにログインをした。
ちなみにスマホは日本を出るときに解約し、ベトナムで新しく契約し直した。だからもうオススメ彼氏は入っていない。
「Cửa hàng onigiri thứ hai sẽ mở cửa.(おにぎり屋さん2号店が開店します)」
店舗の場所とメニューをまとめた画像と一緒に投稿した。
料理なんてこれっぽっちも興味がなかった私が、いま、異国の地で飲食店を営んでいる。そしてそれがとても楽しい。人生とは不思議なものだ。
2号店がオープンして数日後、ハインが変なことを言った。
「瑠衣、たろうさんが来ているよ」
ハインの指さした先に、かつてのオススメ彼氏のたろう君に似た人が立っていた。
そんな馬鹿な。
夢でも見ているようだったが、その男性が私に近づいてきて、こう言った。
「先輩」
私はその声ですぐに誰か分かった。
「田村君だよね?」
声は田村君だが、髪型が違う。短髪ではなく、ウェーブがかかっており、長さは耳と目を少し隠す程度だ。
着ている服も、かつて田村君が好んで着ていたタイトなシルエットのスーツではなく、濃紺のストライプシャツに黒のジャケットを着ている。
どこか懐かしいなと思った理由がすぐに分かる。これは徳本さんがよく来ていた服装だ。
つまり、田村君が徳本さんの姿に似せて現れたのだ。
「3年前、先輩になにがあったのか、久留米山あすかさんに聞きました。自分に何が足りなかったのかも分かりました。3年間、もう一度会えると信じて待っていました」
随分落ち着いた話し方をするようになっている。
3年経つうちに、見た目だけでなく、中身も随分成長したようだった。
「あすかは?元気にしてる?」
「はい。でも、とても心配しています」
「奥さんとはどうなったの?」
「別れました。今は独身です」
「そう」
「先輩」
「なに?」
「今度こそ、先輩のお役に立つことはできませんか?」
私は少し困ったふりをしてみたが、答えは決まっていた。
「とりあえず、おにぎり握る?」
あすかにすぐに連絡しよう。
私とオススメ彼氏の生活がまた始まったよ、と。そう伝えなくては。
(了)
