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私のオススメ彼氏が特大ブーメランを投げつける #18 【創作大賞2024恋愛小説部門】

 蕪木さんに今日の予定を聞くと、何時でもいいよと返ってきた。キッチンカーの営業はもうしていないらしい。
 私は昼過ぎに会う約束をした。会社には病欠の連絡をした。部長は何も文句を言わなかった。
 
 蕪木さんは約束の時間きっかりに現れた。仕事ではないので随分とラフな格好をしていて、それが新鮮だった。
 
 「徳本さんの件はどうなったの?」車を走らせながら蕪木さんが聞いてきた。
 思わず私は「出向を命じられました」と正直に答えてしまい、蕪木さんは「その話、ちゃんと聞こうか」とすぐに車を止めてくれた。
 
 蕪木さんは、「会社のやり方はおかしい!」と一緒になって怒ってくれて、「瑠衣ちゃんは悪くない」と励ましてくれた。

 「瑠衣ちゃんは誠実で、頑張り屋だよ。何も間違ってないよ!」
 これまでと同じように一人の人間として扱ってくれた。
 
 「そうだ瑠衣ちゃんにプレゼントがあるんだ」
 
 蕪木さんのくれた言葉があまりに嬉しかったので、ついアクセサリーでも手渡されるのかと想像してしまった。
 開けてごらん、ほら、これ、瑠衣ちゃんに似合うと思って…
 
 手渡されたのは二つ折りにされた紙だった。
 
 「ほら、開けてみて」
 
 広げると、そこに書かれていたのは、厨房、客席、レジ…
 レストランの図面だった。
 
 「俺さ、もうキッチンカー辞めて、普通に店出そうと思って。そうしたら瑠衣ちゃんも会社辞めたりしなくて済むだろ?それで二人で店やろうよ。ただ、開店資金が1000万円くらいかかるみたいでさ…」
 
 自然と涙が溢れてきて、レストランの図面を濡らした。

 やっぱりアクセサリーじゃなかった。
 これでもう終わりだ。もし私が1000万円払ったら彼は姿を消す。
 1000万円払わなくても、きっともう脈は無いと姿を消すのだろう。
 なぜずっと騙し続けてくれないのか。なぜ今日までなのか。
 
 「さようなら」私は助手席のドアを開けると外へ出て走り出した。
 とにかくもう終わりだ。家に帰ってオススメ彼氏を削除してもらおう。

 ところが予想外のことが起きた。
 「瑠衣ちゃん待って!」蕪木さんがキッチンカーで追いかけてきたのだった。

 私は慌てて近くの公園の中を走る。側道をキッチンカーが追いかけてくるのが分かる。公園を横断すると近くの路地へ。一軒家が立ち並ぶ昔ながらの住宅街だ。私は走る走る走る、時々振り返り、真っ黒なキッチンカーが見えないのを確認すると、目に入ったマンションのエントランスに身を隠した。
 こんなに走ったのはいつぶりだろう。早く息を整えなくてはこの音でバレてしまう。
 
 「瑠衣ちゃん」小声で呼ぶ声がする。オススメ彼氏だ。「瑠衣ちゃん大丈夫?」
 
 息が上がって答えられない。
 
 「瑠衣ちゃん、深呼吸して」
 
 深呼吸。吸って、吐く。吸って、吐く…
 
 「ありがとう、落ち着いてきた」物陰から様子を見る。黒いキッチンカーはいないようだ。「ねぇ、タクシー呼んでくれる?」
 「わかった」オススメ彼氏はタクシー会社を検索し、電話を掛ける。
 私は近くの電柱に書かれた住所をタクシー会社に伝えた。

 程なくしてあすかから電話がかかってきた。私とオススメ彼氏の会話、タクシー会社を呼んだ履歴から異変を感じたのだろう。
 
 「もしもし、瑠衣、今どこ?大丈夫!?」
 「蕪木さんに追いかけられたけど大丈夫。これからタクシーで自宅に戻るから」
 「わかった。私も瑠衣の家に行く」
 
 タクシーに乗り込み自宅へ向かう。後ろを振り向くが追跡されている様子はない。気を抜いた途端どっと疲れが押し寄せてきた。
 
 「瑠衣ちゃん、これからどこに行くの?」
 「自宅に帰る」
 「どこかさ、瑠衣ちゃんの好きなところに行こうよ」
 「いや、あすかにアプリを削除してもらって終わりだよ」
 「誰かの命令ではなく、自分の意志で動きます!じゃなかったの?」
 「だからそれはアニメのセリフで…」とまで答えて、ふと考える。
 
 確かに今、私は誰かの命令で動いている。
 会社には半ば強制的に出向を命じられ、あすかには半ば強制的にオススメ彼氏の削除を命じられている。
 蕪木さんに自宅の場所がバレたら家に帰ることすらできないかもしれない。

 その上、命じられた通りに行動したところで私は全く楽しくない。
 ならばいっそ、オススメ彼氏とどこか好きなところに行けばいいのではないか?そうすれば出向することもないし、オススメ彼氏も手元に残る。

 ただ、あすかから逃げ切るなんてことはできるのだろうか。なにせSNSも検索履歴も、オススメ彼氏との会話すらもあすかはチェックできる。これで居場所が特定されないようにするには…と考え、気づく。

 さっき電話したあすかは「今どこ?」と聞いていた。もしかすると。
 
 「ねぇ。私の位置情報ってあすかには送られてるの?」
 「送られてないよ」
 
 やっぱりそうだ。あすかは私がどこにいるか分からないんだ。
 さらに私は気づく。あすかは以前、アプリを削除するために、わざわざ私に会いに来た。今日も私の自宅に来ると言っている。

 「ねぇ、このオススメ彼氏ってアプリ、勝手に誰かが遠隔操作して削除する、なんてことはできないようになっているの?」
 「そうだね、まだ開発中だから、久留米山あすかさんのノートパソコンにケーブルで繋いで作業しないと削除できないようになっているよ」

 やはりそうだ。試作版アプリだからいろいろな不備があるんだ。
 なら逃げられる可能性はある。
 
 「ねぇ、私と一緒にどこか好きなところに行こう!」
 「いいよ、一緒に行こう!」
 「本当に欲しいものは奪ってでも手に入れるんだ!」

 行こう!どこでも、私が本当に好きな場所へ!

#創作大賞2024 #恋愛小説部門


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