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私のオススメ彼氏が特大ブーメランを投げつける #5 【創作大賞2024恋愛小説部門】

 「とんだ災難だったな、ぐはははは!」
 オススメ彼氏のたろう氏が相変わらずの口調で叫んでいる。

 あすかは私のスマホをノートパソコンに挿して「オススメ彼氏」をアンインストールするための準備をしている。私は自室の冷蔵庫にあったゼリー飲料を啜りながら、すっかり傷心に浸っていた。
 
 「ねぇ、あすか?」
 「なに?」
 「いつから気づいてたの、あいつが不倫男だって」
 「名前を思い出したのは最後の最後、瑠衣に店を追い出されそうになった時」
 「そう」
 「でも違和感は最初からあったわけよ」
 「なんで?」
 「あの人、ずっと私のこと無視してたじゃない?だから敢えて言ったの、親友がお世話になってます、って」
 「親友に何か意味があるの?」
 「本気でお付き合いしたいと思っている相手の親友は、大事にするものなんだよ。親友に嫌われて、あんな男やめとけーなんて言われたら面倒でしょ?あと自分の友達に会わせたがらない男も不倫や浮気の可能性大だね」
 
 あすかのことだから私の知らないアプリでも使って身元を突き止めたのかと想像していたがまるで違った。あすかは私が思っているよりずっと視野が広くて思慮深い。
 
 「そもそも学生街にあるあの店選んだのが確信犯なわけよ。いくら自分が徳本会の御曹司で演歌歌手と不倫して週刊誌に撮られていても、お客さんが若い学生さんばかりなら気づかれないだろうと踏んだわけだ。私があの男を知ってたのは、たまたま高齢者向け健康アプリに関わったことがあったからでね」
 
 あすかの推理を聞きながら、不意に虚しさが襲ってきて涙がこぼれそうになった。悲しいのではなく虚しい、悔しいのではなく虚しいのである。
 これまで私は、あすかに対し「性格がまるで違うから対立せず居心地がいい」のだと思っていた。しかし実際は、私には何もないというだけだったのだ。
 
 小さい頃から私は、自分で決めるということをしてこなかった。父はなかなか安定した職に就くことができず、母は育休後に復職しようとしたが会社に席は無く、パートタイマーになった。進学できないほど貧乏ではないが、複数の選択肢から選べるほどの余裕はない。そんな家庭環境の中で、私は、誰かの勧めに従うようにして生きてきた。
 
 今の会社に就職したのは、大学の就職課に勧められたからだ。就職が決まったのを期に一人暮らしを始めたが、奨学金の返済が残っているため、タイパとコスパを意識した質素な暮らしを心掛けた。仕事も卒なくこなしてきたつもりだった。
 
 しかしそれは私の思い過ごしだった。上司には半人前だと指摘され、「優良物件ですよ」とオススメされた男は不倫をしていて、アプリにオススメされるのはアニメキャラのセリフを連呼する外見になんの特徴もない男だ。
 そもそもいま私が飲んでいるゼリー飲料だって、元々は取引先のメーカーさんに「新商品なのでよかったら飲んでみてください」と渡され、タイパとコスパの良さでリピート買いをしているだけで、本当に美味しいかどうかなんてよくわからない。
 
 ああ、なんて中身のない人間なんだ。虚しすぎる
 
 不意にあすかが「たろう、最後に言いたいことはある?」と話しかけた。まるで死刑執行人のようだが、つまりはアンインストールの準備ができたということなのだろう。
 
 たろう氏はわずかに逡巡したが、「本当に欲しいものは奪ってでも手に入れるんだ!」とお決まりのセリフを叫んだ。
 
 「最後まで同じことしか言わなかったね」私は素直な感想を述べたのだが、嫌みのようになってしまった。
 「もう少し続けてみれば、この子も変わるはずなんだけどね」
 
 あすかが発した「この子」という言葉が胸に刺さる。開発者からすればコンピューターだろうがアプリだろうが自分の子供のように感じるのかもしれない。
 
 「可能性は広く持て、諦めることはいつだってできる!」まるで私を説得するかのようにたろう氏がセリフを被せてくる。確かに、これで終わりでいいのだろうか?私はこのままでいいのだろうか?
 
 「誰かの命令じゃない、自分の意志で動くんだ!」
 
 たろう氏が聞いたことのないセリフを叫んだ。
 
 「第13話、将軍がゾンビ化したとの瓦版が出回り、真偽を確認するため長屋の有志と江戸城に向かうシーンでのセリフだね」あすかが素早く解説する。
 
 なんだか急に主人公っぽくなったなと感心してしまう。他人の日本刀を盗んだり、ゾンビのフリをしてまで逃げ切ろうとしたりするしょうもない奴だったのに。魚屋の息子のくせに。いや、剣士の息子なんだっけ?
 
 「ねぇ」たろう氏に聞いてみた。「私も自分の意志で動いた方がいいと思う?」
 「当たり前だ!」腹が立つくらいの即答だった。
 
 たろう氏のような彼氏は絶対に嫌だ。それは間違いない。しかしどんな彼氏がいいかと問われてもよく分からない。

 ならば自分で探せばいい。

 誰かのオススメではなく、自分が本当に好きなものを集めて理想の彼氏を作ろう。自分で自分にオススメできるような彼氏を。
 
 「あすか、私、オススメ彼氏続けたい!」
 こうして、今度こそ、私とオススメ彼氏との生活が始まった。

#創作大賞2024 #恋愛小説部門


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