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私のオススメ彼氏が特大ブーメランを投げつける #12 【創作大賞2024恋愛小説部門】

 弊社、ピックススーパーは徳本会グループと業務提携をした。そして徳本会グループのキーパーソン、徳本金光さんに私は呼び出された。
 徳本さんと私は面識があり、少々ややこしい関係性にある。

 徳本さんが集合場所に指定した徳本会南青山病院は10階建ての総合病院で、眼科や耳鼻科といった一般的な診療科目のほか、がん治療や先端治療にも力を入れている、と入口の案内に書いてあった。

 着いたのは午後3時頃。すでに診察を受け付ける時間を過ぎていたせいか、総合受付の女性に近づくと訝しがられたが、徳本金光さんの名前を出した途端に表情が変わり、対応が丁寧になった。
 どこかに電話で確認をしたあと、一般の患者が使うのとは違うエレベーターで9階に上がるよう指示される。私が礼を言って向かおうとすると、受付の女性が別のスタッフと小声で話し始めるのが気になった。
 
 9階に上がると警備員の男性に名前を聞かれ、一番奥の部屋を指さされる。
 室内での会話を全て遮音するだろう重厚な扉。私は唾を飲み込むと軽く2回ノックした。
 
 「要は愛人契約だよね。あとこれ、お車代ね。しまっておいて」

 徳本さんが封筒を渡しながら簡単なことのように言う。私は封筒を鞄にしまうと、革張りのローソファーに腰掛けた。
 
 「自分もこの前の件は反省していてね。まどろっこしいことはせず、初めからこうすればよかったんですよ」

 徳本さんは私の目の前に座るとはっきりとした口調で言った。
 「自分の愛人になりませんか?」

 「愛人、ですか?」薄々は感づいていたが、いざ言葉にして出されると、まるで実感が沸かない。
 「都内にマンションを用意しますので、そこに住んでください。生活費として水道光熱費以外に月に50万円お渡ししますので好きに使って結構です。仕事を続けたいならそれも結構。ただ、自分が呼び出した時は必ず時間を空けるように。といっても週に一度か二度だと思います。自分もそれなりに忙しい身なのでね」
 「はぁ…」
 「何か質問は?」
 
 質問、と言われても、あまりに非現実的なことで何も思いつかない。
 
 「ちょっと、えっと…少し考えていいですか?」
 「もちろん考えてもらって結構です。ただ、断る、という選択肢がほぼ無いことは承知して頂きたい」
 「断ることが、できないんですか?」
 「御社、ピックススーパーと徳本会グループの業務提携は私の肝いりでね。必ず成功させたい。しかし、自分が口説こうとして失敗した女性が御社の社内にいる、なんてことが知れたら、上手く回るものも回らなくなってしまう。この理屈、分かりますか?」
 
 つまり徳本さんは、私を愛人にすることで、「邪魔者を排除し、仕事を円滑に進めたい」ということだろうか?
 
 「私が愛人になるのは必要経費、ということでしょうか」
 「それは違うね。自分は本当に君が欲しいと思ったんだよ」
 
 予想外の告白に動揺する。
 不意に見せた笑顔は、奥二重の目が左右流れていく。あの時と同じだった。
 
 「業務提携の話は随分前から進んでいてね。御社の社風が知りたくて身分を隠して合コンに参加した。そうしたら君に出会ってしまった。君の気を引くためにたくさんの嘘を準備してデートに誘った」
 
 当然だが、徳本さんがマルオカヤ食品の社員だという話は嘘だった。しかしそれは私のためにわざわざ作り上げた嘘だった。
 不遜なのかマメなのか。おそらく両方なのだろう。だとするとひとつ気になることがある。私の心を突き動かしたあの話だ。
 
 「徳本さんは、よく海外出張に行き、インドやベトナムは若い人がいっぱいいて活気があると話してましたけど、あの話も嘘なのですか?」
 「ご想像にお任せしますよ。自分はたくさんの嘘を用意しましたが、決して全てが嘘というわけではない」
 「なら徳本さんは先程、私が欲しい、と言いましたけど、なぜそう思ったのですか?」
 「従順そうだからです。自分はそういう女性が大好きで」
 「果たしてそうでしょうか?」さすがにその言い方には腹が立った。
 「ええ、あなたは従順ですよ」
 「なぜそう思うのですか?」
 「自分がいま、“決して全てが嘘ではない”と言っただけで、どこに事実があるか探し始めたでしょう?そういうところが従順なんです」
 
 私の全てが見透かされているようで、何も返すことが出来なかった。
 
 重たい扉を押して部屋を出ると、エレベーターまで続く長い廊下が少し斜めに見える。フワフワしていて地に足がつかない。
 なんとか病院を出たが、すぐに近くの花壇に腰を下ろした。
 
 冷静になろう。指定されたマンションに住み、水道光熱費以外に月50万円渡される。それだけあれば何不自由ないし、奨学金だってすぐに返済し終わる。仕事は続けても続けなくてもいいと言っていた。
 
 問題は週に一度か二度、徳本さんに呼び出されたら必ず会わなければならないということだ。具体的なことは言っていなかったが、まさか2時間カラオケに付き合ってお開き、なんてことでは絶対に無い。

 会うたびに抱かれる。
 とはいえ、余程アブノーマルな性癖でもない限り大丈夫だろうと思う。なにしろルックスは抜群にいいのだから。
 
 条件だけ見れば破格。ルックスも肩書きもいい。これといった取り柄も何もない私にとっては二度とないチャンスなのかもしれない。
 
 これまで私は、自分で決めず、誰かの勧めに従うようにして生きてきた。
 そんなことすらも徳本さんは見透かしていたのかもしれない。

#創作大賞2024 #恋愛小説部門


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