私のオススメ彼氏が特大ブーメランを投げつける #7 【創作大賞2024恋愛小説部門】
「オススメ彼氏」が田村君の声を再現するために探してきたのは、彼の結婚披露パーティの映像だった。他人の空似ではと淡い期待を持ったが、すぐに「新郎、田村伊吹さん」とアナウンスが入り、あっさりと打ち砕かれた。
映像は3年程前に撮影されたものだった。このとき田村君はまだ大学生なので、学生結婚だったということになる。お相手の女性は高校の同級生らしく、お酒を飲んでいる姿が写っているため授かり婚ではないようだ。
ともかく、私に好意がある素振りをした田村君は既婚者だった。
東雲さんに続きまたしても既婚者に言い寄られてしまったことに自己嫌悪する。そもそも田村君は私のことを「推し」だとは言ったが「好き」だとは言っていない。きっと私が勝手に舞い上がっただけなのだろう。
少し相手に言い寄られてすぐ靡いてしまっていては、東雲さんの時と何も変わらない。
私は、誰かのオススメではなく、自分の好きなもの選んで集めたいのだ。
「瑠衣さん」スマホの中のオススメ彼氏が呼び掛ける。声は田村君そのものだ。
「なに?」私は警戒して返す。
「残念な思いをさせてしまいましたよね?」
「…大丈夫だよ」
簡単に靡いてはいけない。
けれどその声で謝られたら許さざるを得ない。だって好きな声なのだから。
翌日、さっそくピンチが訪れた。
「先輩、一緒にお昼に行きませんか?」
田村君にランチに誘われたのだ。
既婚者であることを問い詰めたい気持ちは山々なのだが、そのためには結婚披露パーティの動画を見たことを白状しなければならない。そこを問い詰められるとこっちが不利だ。かといって安易にランチに行くのは躊躇われる。
「ごめん、今日はお弁当持って来ているんだ」
無難な嘘を吐くと、田村君は「わかりました」と一人で外に出て行った。
しかし弁当など無いので困っていると、サンプルでもらったパーフェクトパスタがまだ会社の冷凍庫に入っていたのを思い出した。
温めたパーフェクトパスタを会社の屋上で食べる。「馴染みやすい味」とは言い得て妙だ。「大学の学食で食べたナポリタンの味」と田村君は言っていた。私が在籍した大学の学食にナポリタンは無かったが、あればこんな味だったのだろうと想像できる。そしてきっと田村君は学食で、あの奥様と一緒にナポリタンを食べていたのだろう。
「美味しいですか?」オススメ彼氏が田村君の声で問いかける。顔は平均的な20代中盤日本人男子。なんだか気の合う男友達のように思えてきた。
私は「まぁまぁかな」と返し、一人のランチタイムを満喫した。
