社会学を学ぶとコンテキスト・センスが高まる

相変わらず「コンテキスト・リーダーシップ」というテーマであれこれ調べたり、考えたり、書いたりしているのですが、いまは「コンテキスト・センス」というものについて深堀しています。

コンテキストに関連して、リーダーには「コンテキストを読む力」と「コンテキストを編集する力」の二つが求められるわけですが、ではどのようにして、前者の「コンテキストを読む力」を高められるのか?

一つ、その答えになるのが「社会学の教養」ということになるかと思っています。

私たちが日々暮らす社会は、個人の意識や行動だけでなく、経済構造、政治制度、文化的規範、技術革新など、無数の要因が複雑に絡み合いながら、一見無秩序なようでありながら、実は相互に関連しあって動いています。このような「全体としての社会の動き」を捉え、理解するための学問が社会学です。

社会学が学問として芽吹いたのは19世紀のことです。物理学が古代ギリシアの時代からあったわけですから、いかにも新しい学問なのですが、この新しさには理由があります。

この時期、古代以来続いてきた農村共同体を基本とする社会から、都市工業社会への転換が進み、また同時並行的に資本主義経済の拡大、大衆民主主義の台頭などが進行し、人々がかつて経験したことのない規模の社会変化が進行していました。

この混乱の中で社会の秩序や統合の原理を探ろうとしたことが、社会学の出発点です。時代的必然性があったということで、学問の発生そのものが非常にコンテクスチュアルなのです。

ちなみに心理学と人類学が発生したのも同じ時期ですが、これは偶然ではありません。この混乱の時期において、主に西欧を中心にして「私たちは何者なのか?」という大きな問いが立ち上がり、その問いに応えるために「社会を研究しよう」として生まれたのが社会学であり、「心を研究しよう」として生まれたのが心理学であり、「私たちとは異なる人を研究しよう」として生まれたのが人類学なのです。

研究の対象はそれぞれ異なりますが、これらの学問は全て、対象を写像として捉えることで「私たちは何者なのか?」という問いに答えようとした点で共通しており、近代ならではの「自己探究意識」の高まりという要請を受けて出てきた学問なのです。

このような出自で生まれた学問ですから、社会学はコンテキスト、中でもマクロコンテキストを理解する上で非常に有用な示唆を与えてくれます。社会学という名称を最初に提唱したのはオーギュスト・コントですが、以来、数多くの学者がコンテキストを把握・操作するための有用なフレームを提供してきました。

これから少しずつ共有していければ、と思いますが、ここで一つだけ頭出しをしておけば、それはなんといってもマルクスということになると思います。

中でも、マルクスの指摘した上部構造・下部構造というコンセプトは、社会変動のコンテキストを理解するために、非常に有用なフレームだと思います。マルクスは、社会を次の二つの要素に分けて分析・整理しました。

上部構造:法律、政治、宗教、教育、イデオロギー等、制度的基盤
下部構造:生産手段、生産関係等、経済的基盤

マルクスの指摘で重要なのは、両者は対等の関係にあるわけではなく、主に下部構造が上部構造のあり方を決める、とした点です。道徳やイデオロギーは個人の内面にあるものですが、これは自律的に生まれるのではなく、社会における経済構造のあり方によって決まる、と言ったのです。

従って、社会を変えるためには、まず下部構造から変換し、しかるのちに上部構造が、下部構造の変換から要請を受ける形で変容します。この指摘は、コンテキストを考える上で最重要なポイントである「順番=シークエンス」を考える上で非常に重要です。もし、上部構造が、下部構造によって規定されるのであれば、上部構造だけを変えるという営みは破綻するに決まっています。

ひるがえって考えてみれば、我が国では、1980年代から「教育改革」ということが叫ばれ、それまでの「詰め込み型・暗記主体」の教育からの脱却が叫ばれていますが、一向に改革は進まず、いまだに極端に偏差値を重視する歪なシステムが残存しています。

しかし、この「上部構造の変換にはそれに先立って下部構造の変換が必要である」というマルクスの指摘を踏まえれば、このような営みが失敗するのは当然のことと言えるでしょう。これはすでに、拙著「ビジネスの未来」でも指摘したことですが、教育のあり方を変えるためには、少なくともそれと歩調を合わせるようにして、ビジネス側の変革も進める必要があるのです。

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