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【小説】『Dystopia 25』~楽園~Phase Ⅺ




Colony Ⅱ Council of war


「・・・内部抗争をしている場合ではない」

「第2の総力を挙げて、阻止せねばならぬ」

「誰がどう反乱側を説得する?」

好色男爵バロンのバカが居れば、話は簡単だったな」

「事態はここ第2だけの話ではない。先ずは第7の現状はどうなっているのだ?」

「第7は元々、第8の『健全者』との外交が盛んであったはず。この事態を知らない訳では無いはずだ」

「外部コロニーとの謁見は各所申請中です。もうしばらくお待ちください」

「・・・どうせ、上層『界』が手を拱ねいているのだろう。とりあえずは外部のことは気にせず、我々だけの範疇でどうするかを決め進めよう」

 ・・・・・・・・・

 会議とはどこも似たようなもので、言葉の戦場と言えば恰好がいいが要するに業を煮やして決定事項を言い出した者が損を見る為に、他者批判と問題を定義するだけに留めて責任のなすりつけ合いのような口頭合戦が繰り広がれていた。

 ライトはただの証人、第1の現状を報告する係りとして備え付けられた様なもので、特にこれといった意見や議論をすることも無く会議は終了する。淡々と質問に対し、第1で見たものを答えただけである。

 ただマイオスにとっては近衛兵、第2コロニーの守備を任せられる将であり、事態の重要性をただ静観しているセンター教上層部や、コロニー代表陣の政治と保身しか頭に無い連中からすれば反乱や敵対する第3勢力からのスパイ、裏切りに費やす懸念を軽減できるために呼ばれたのもある。マイオスにとっては重要人物であり大事な証人だった。
 指名手配の似顔絵が配布されてはいるが、立場がここまで上の人間にとっては所詮、一犯罪者に過ぎない。考慮や思慮の余地に入るはずもなく、明日にはライトの顔すら忘れるだろうということまでマイオスには計算の範囲である。
 早急にこの無駄な会議を終了すれば事は全て上手く運ぶ。会議参加者たちも仕事が早く終わり、いつものように酒と他者を蔑むだけの会話で盛り上がり、より一層、下賤の者のことなど忘れてしまう。


「・・・すまなかったな。しかし、大いに助かったよ」

「こんなんで良ければ・・・僕は何もしてませんし」

「説得力が、違って来るんだよ。まぁ、いいじゃないか。これで私がとりあえず多くの軍を動かせることになった」

 ライトとマイオスは第2のCSタワー内の広場である会議室にて、各将軍やその付き人たち、現代表の政治家勢、センター教らしい正装をした僧侶風の司祭たちが立ち去るのを待ちながら、小声で話していた。各々、何かを探り合っているような世間話を廊下で話し合っている。

「さっさと帰れ。どうせ若いめかけでも抱いて寝るんだろ」

「ふふっ・・・ちょっとマイオスさん、聞こえますよ」


Infiltration tactics


 ライト達二人は会議終了後、再度マイオスの部屋へと戻った。

「・・・ってことで、ライトくん。改めて説明していこうか」

「はい!・・・ってか僕たちもこんな悠長なことをやっている場合ではないんですよ・・・パメラさんたちが・・・・・・」

「ああ、分かっておる。その為にも必要であったのだ」

「??。と、言いますと?」

「兎にも角にも、これで大半の人員をわしが動かせるようになった。なので娘たちの捜索はわしらに任せて欲しい。外部からのProberプローバー対策として特殊部隊を編成する。広大な森の捜索は人海戦術ほど効果的なことは無い」

「い、いいんですか?そんな部分に人員を割かれても・・・ここ第2内部の民たちの護衛は・・・・・・」

「ああ。その方が内部紛争の一時鎮圧としても操作が可能になるんだよ。そうなれば内部の戦力も増えて一石二鳥だ」
 マイオスは不敵な笑みを浮かべながらそう言い切った。
「まぁ、その辺は君が心配することは無い。君は会議前に言ったように、上層階を目指してくれ。これは、チェバラ氏の息子と言っていい君の仕事・・・いや、宿命みたいなものだ」

「宿命?」

「・・・荷が重くなるかもしれんが、これがこの世界、Coloniaコロニアを救う一手になるかもしれんのだ・・・・・・」

「・・・え??」

「・・・その辺も、上へ行きチェバラに会えば分かる。今はとにかく上へ行き、お主の父に会え。そのことだけを考えろ」

「は、はい!それが僕たちは一番の目的でしたから・・・しかし、どうやって??」

「以前に言ったが、ここ第2前代表の消息。その行方を追っている者がいる。そこでチェバラとの関係が繋がったのだが・・・推測だが二人ともが上へと登った可能性がある。そのルートが二つあるのだが、その内の一つを使うしか無い」

「ふ、二つもあるんですか?!」

「その内に一つは代表クラスの権力が必要そうだがな、もう一つは可能・・・かもしれん。その詳細は、また詳しい者を呼んである」

 そう言うとマイオスは手を二回、顔の横で鳴らすと背後の襖がすっと開かれ、そこにはライトを牢屋へと最初に案内した男が現れた。


Emigration


「失礼致します」

「おお、こっちに来てくれ。話は聞いてたな?こいつはチェバラの動向とは無関係なんだ。何なら俺たちよりも”被害者”って形だろう。そして、彼なら誰よりもチェバラの行方を果てしなく追う人物であり、ここの摩擦も心配ない。どうだ?適任じゃろ?」

「・・・確かに」

「ライトよ、こいつは前任代表者の義息でな。奥方様の連れ子であり時期代表候補だったんだが、こいつの両親が共々に消えてからはそれらの役割から外され、危うく野垂れ死にさせられる所をわしが拾ったんじゃが、ずっと親の・・・どっちかといえば母親の方を追っていてな。お主からチェバラの話を聞いた時には行き場のない憤慨をお主に向ける所じゃったわい・・・ほれ、聞いてみるとお主たちは同じ境遇の者同士だ。共に手を取りあって各々の探し人を見つけられぃ」

「・・・はは!」
 低姿勢に現れた男は、頭を下げて膝を地面に付く。

「そうなんですね・・・きっと、僕と同じ気持ちでしょう。分かりますよ。僕の実の両親は僕が小さい時に亡くなって、チェバラ先生が親みたいなものだったんです。何故・・・自分を置いて消えてしまったのか、その真意が知りたい。そうでしょう?」

 男は黙って俯いているだけで返事はしない。

「これ、自己紹介せんか」

「ははっ、私はサルヒコと申す。以後、お見知りおきを・・・・・・」

「あ、ライトです、よろしくお願いします」

「サルヒコよ、以前に話したプランをもう一度申せ」

「はい。上層階からは多くの物資が送り届けられます。それはどのコロニーであれご周知かと。しかし、一部の趣向品は下層から上へと輸出することが稀にあり、その品々に紛れて潜む、という計画にございます」

「こやつがそれでとにかく上へと提言するもんでな。ずっと止めておったのじゃ。事情はともあれ曲りなりにもここの時期代表候補だった者。それがまた消えたとなれば民は不信がるだろう。それにもし上層階にて捕虜として捕まった時の言い訳も立たぬ。それがまたもや『フロア抗争』の火種になり兼ねん」

「なるほど・・・・・・」

「しかしお主の場合はどうじゃ。センター教・・・いや、『セントラル教』に追われる身であり、チェバラ捜索の意義もある。この状態ではForesterフォレスターとなるかこの際、上への『亡命』として登るという不名誉ながらの名分があるではないか。チェバラが上で何がしたいかまでは分からんが、奴が上で上手い事やっていたとすれば、そのまま住人として住まう事も可能かもしれん。そのついでにと言っちゃあなんだが、下の現状もしっかりと誰かに伝えて来てくれ。全ての門を開けて表層界全ての人の逃げ場を提供しろとは言わん。共に戦ってくれとも言わん。せめて、なんらかのもっと有効的な武器や資源を下に送ってくれと献言しておいて欲しいのだ」

 ライトは考え込んでいる。

「第7と第1が・・・いや、それだけではないだろう。各コロニーから排出されていった、手の付けられなくなった異常者、犯罪者どもがセントラル教にてどれだけ第8へと送られて行ったのか・・・凡その一つのコロニーに住民は数千の人が住んでいる。第3、第4は特例なエリアなので人口の増加はあまり無い傾向にあったりと差はあるが、無差別的に送り続けるだけであったとすれば・・・・・・」

「・・・万、単位かも?」

「考えられてしまうな・・・第8の内部がどのような暮らし、環境だったのかすらも、考えたくない話だ」


Seafood dishes


 マイオスは、ライトがどうするかの返事を待つことなく、どこかへと消えて行った。将軍としての任務、責務に追われていることはここの、第2の者でなくても分かることであった。

「さて、ライト殿、行こう」

「・・・え?どこへですか??」

「・・・さっきの話、聞いていたのか?」

「え、あ、はい。・・・え?!まさかもう、ですか?!」

「ああ。善は急げです。趣向品の『酒樽』は容易している。その内の一つを空にし、その中に入って潜む。今からお食事を用意する。こちらからの出荷はちょうど明日の明朝。上へ到着後はその後どんなタイミングでどうなるかは分からないので、出来るだけの食事を今の内に摂っておいて。それらの準備が整えば丁度、時刻は丑の刻。上だけでなくここですら、この計画はバレたくないので今宵がベスト。将軍様方やセンター教のお偉方にはライト殿や表層の出来事は有事に値しないが、大将以下には御達しが降りている。いつ見つかり密告されるか分からず、善は急ぐしかない」

「ああ・・・分かりました。心の準備がまだだったので、ね」

 ライトは諦めるかのように承諾し、気持ちを強制的に入れ替えさせられた。しかし、一縷の興奮も心情の深部に感じてもいた。それはチェバラに会えるかもという可能性と、自身が密やかに憧れていた『The Big H Gateゲート教』へと近づけるチャンスでもあったからだった。


 通された食事処のような広間では、まるで最後の晩餐かのように言わんばかりの豪華な品々が並んでいる。ここでは珍しい魚介の食べ物があり、ライトは初めて見る料理に目が点となった。

「こ、これは何ですか?」

「これはサザエという貝だ」

「これは?!」

「これは刺身といって、生の魚の切り身」

 センターの中枢ではこういった食べ物も用意されていたことに、単純に驚いた。『完全な表層界』で配布される食料とは、保存が効く状態の小麦や玄米、干し肉といった何らかの加工をされた物が主流なために、第7の新鮮な野菜やNomadsノーマッドの遊牧民たちが率いる家畜による乳製品や卵、そして新鮮な肉、ライト達が大好きなカミキリムシの幼虫といった天然と言っていい食材が至高品となっていた程であった。しかも海や川といった水辺はこのコロニア周辺には、少なくとも民たちが行ける範囲内には存在しないのである。

 サルヒコはそういった品々には一切、手を付けずに扉の前を見張っている。

 ライトは様々に初めて見て、味わう品々をがむしゃらに堪能した。


Tipsiness


 周囲が静寂へと移り変わる、丑の刻前。

 ライトとサルヒコはCSタワー内部の一階、ストック広場へとやって来ていた。先ほどまでこの一画であのライトには無謀としか思えない会議が開かれていた場所の、その奥に幾つか樽が置かれていた。

「おい、手伝え」

 サルヒコは中が空であろう一つの樽を倒し、転がす様に運んでいく。ライトもその横で押すのを手伝う。

 閉ざされた上階へと上がる階段の元で、サルヒコは重々しい錠前の鍵と鎖を外し階段の鉄格子を開く。
 ライトはなんだかその階段の闇が、地獄への入口のように見えていた。

「この階段の中腹、踊り場にこれらの品々が置かれている。下の扉の鍵は我々が持ち、上の扉は上層階の民が持っていて毎朝大量の物資が踊り場に置かれている。その際に、下から上への品々も献納する訳だ」

「・・・何のために、献納するんですか?」

「・・・私は知らん」

 それ以上は詮索しなかった。恐らくとして察しは付いているからだった。
 過去の『フロア抗争』では人との繋がりにおいて贔屓が生じ、天からの物資の選定がされたり上下の異動をも良しとしたことによる「摩擦」。
 各コロニーで禁止とされてはいるものの、こういった無言で直接的に「関わらない奉献」が、きっと先ほどの豪華で見た事も無いような食事や武器、便利な物資を手にいれる暗黙の方法となっているのだろうと。

「・・・第1が壊滅化したことで、これ以上の『お酒』は手に入らないんですよね」

「ああ。だからこそ価値が上がり、今、恐らく上は喉から手が出る程に欲しがっているだろう」

「・・・確かに」

「さぁ、階段の上から、これを引き上げて。私は下から持ち上げていくから」

「はい、足元、気を付けて」

 空であるとはいえ、不安定で持ち手も無い樽は無駄に重く感じた。


 階段の中腹地点、踊り場には既にいくつかの樽が置かれている。

「さぁ、入って」

 サルヒコはいつの間にか、器用に開けた樽の蓋を持って待っていた。
 丁度、人が一人ほど入れる大きさの樽は、アルコールの臭いと楢の木で出来た木材からの木香が混ざった臭いで、ライトの脳内はそれだけで朦朧としそうになる。

「側面に二か所、穴を開けてある。これが見えるか?」

 サルヒコは踊り場に一つだけ灯っている篝火から松明を一つ取り、ライトが入った樽の周辺を左右に明かりを灯す。

「ああ、これですね。はい、確かに見えます」

「上へと酒たちと共に上がった後は、そこから様子を見ながら抜け出し、後は自分の判断でしっかりとやってくれ」

「了解」

「じゃ、締めるぞ」

 ゴン、コンコンコンコン・・・バン、バン

 しっかりと閉められた樽の中は、小柄なライトでも少し窮屈で息が詰まりそうになる。しかし、酒気でライトはどんどんと睡魔に襲われて来ていた。

 外部でサルヒコがまだ何かを言っている声が聞こえるが、もうライトには殆ど聞こえずに、夜も遅く間もなくして眠ってしまった。 


White costume


 ドンッ!ガンガンガン!ウィーーーン・・・ガスッ!

 まるで近くで工事でもしているかのような騒音で、ライトは目覚めた。酒気をまだ寝て起きても感じて、少し頭が痛くなっていた。

 すると、自分の樽が持ち上がる感覚を感じて、意識が少しハッキリする。両手足を踏ん張り、揺れや衝撃に耐えれるように体勢を整えながら、スッと息を殺す。

《いよいよ、上へと運ばれている!》

 緊張や期待、そして便意がライトを襲う。


 騒音が少し遠くに離れ、ライトが入っている樽がどこかに置かれた。

 開けられた穴から外を覗き込むが、目の前には自分と同じ樽の木目しか見えない。
 反対側の穴を覗くと、表層界のようなレンガ式に積まれた石壁や石畳みでなく、滑らかにまるで鋭利に切られたような石の断面の壁が見えた。
 今の騒音に紛れて、ライトは上部の蓋に掌底を当てながら外していく。

 一時、ライトは考えた。積み荷作業をしている今の内に動くべきか、逆に静かになり誰も居なくなってから動くべきか。自分達、というこの酒類がこの後どう処理されるかが分からない。一時、ここに置いたままにしておくのか、それとも直ぐにどこかへと運ばれるかもしれない。

 勇気を出して浮いた蓋から外が見える範囲まで顔を出し、もっと周囲を確認する。先ず見えたのは、大きな杭のような物に紐が吊り下げられ、それで荷物を上げ下げしているようだった。太い綱などではなく細い紐のような細さなのに、重そうな荷物を難なく吊り上げている。よっぽど丈夫な素材なのだろうと、ライトは思った。

 階段部分には動く床板が設置され、次々と小から中規模の荷物が何人かの手作業で下へと降ろされていた。まるで巨人の胃袋かのように次々と荷物が階段へと動く床にて消えて行き、下とは文化レベルの違いを感じた。それらの動く物を動かす滑車や手押し車は見当たらない。

 見える範囲ではその作業をしている者は五人ほどしか見当たらなかった。みんな作業に没頭している。今の内だと直感的に感じて、ライトは慎重に樽の中から身を乗り出し、直ぐにそのままその樽群の影へと隠れて様子を見る。

 下からいつも眺めていたこの上層『界』の底を、今、逆に降り立ちその上に立っている自分が信じられなかった。そこにはタワーを中心に多くの物資の数々が無造作に置かれているが、それ以外には何も無いただの広場となっている。

 この荷物の品が全て下へ降ろされるのどうかは分からないが、もし大半が無くなってしまうと自分の身を隠す場所が無くなる。そう思い、周囲をもっと目端を利かせながら移動場所を求め探していた。

 タワーの上を見上げてみる。そこにはまだ上が確かに存在している様で、窓のような吹き抜けがいくつか見える。そこまで登ることは目立つし、このまるで切り取られたかのような石の壁では捕まる部分が全く無い。

 この上層階の屋上のような場所の最端にはぐるっと、タワーと同じ滑らかな壁が隔たっている。どこから生えているのか、その壁の先には木々の枝葉が視界を妨げるかのように生い茂り、下から見上げた風景の中に居ることが如実に伝わる。

 その手前に、滑らかな石の地面が広がる中にポツン、と木材で出来た扉が開け放たれていた。もしかしてあそこから上層階の内部へと降りられるかもしれないと考えるが、十メートルほど荷物も何も無い空間を走り切らないといけなかった。

 積み荷のなんとか身を隠せるギリギリの所までやってくるが、その先からは運に任せるしかないのかと鼓動が早まる。
 その最中、しゃがんで心の準備をしながら身体を支えている右手の上には白い布が無造作に置かれていることに気が付いた。
 積み荷作業をしている上層民を改めて確認すると、釣り糸や動く床を恐らく操作している風の者は、今ライトの右手の上の置かれた白い布を纏っている。階段周辺の手作業で荷だしを行っている者は、その布を脱いで腰に同じ素材であろう白い布で下腹部を隠しているだけだった。力仕事をする者は汗を掻き暑い。きっと作業前に脱いでおいた物がこれだと感づいたライトはそれを拝借し、見よう見真似で同じくそれを纏い、焦らず走らず、作業員として溶け込む様にその下への扉を潜り降りて行った。


Sky burial


 上は下とは雰囲気が違う。

 先ずは身に着けている物だが、下のように多様性はなく殆どが真っ白い細やかな生地で身を覆っている。下の民の基本は干した麻や藁で編んだ物が多く、動物の毛皮などは長老や有識者が身に着けていた。ライトが会議で出会ったセンター教の上層部らしき者は似た生地質で身を包んでいたが、ここまでの清潔感は無かった。

 ライトが上層階の内部に入り、すれ違った者の殆どが顔までその白装束で隠していて、潜伏するには丁度良かった。

 そして気になるのがその体格である。

 上で作業をしていた者は、確かに少しふくよかではあったがその範囲は下層階でも良く見る姿だった。が、内部の人の約八割はみんなかなり太っていて、狭い迷路のような通路では一人しか歩けない程だ。
 この大きな白装束の生地では、その体格などを隠したり皮膚の摩擦の軽減、そして大きな体格変化で服装を変えなくてもいいような、そんな効率的な装いを感じる。

 もう一つ気になったのが、稀にと言っても二割ほど見られる「奇行」
 歩き方は普通では無く、怪我か何かをしているように蛇足や千鳥足の者がいた。高齢者なのかどうかは分からないが、そういった部分も隠す様に装束を纏っている。

 ライトはどこをどう探せばいいのか。

 うろうろと迷路の中を露頭していると、いよいよ現在地が分からなくなってきた。
 すると、蝋燭が大量に焚かれている、異様な部屋を目撃する。他の部屋の多くは扉がしっかりと閉められているのだが、ここは誰でも自由に出入りが出来るようになっているようで、中を見ると既に何人かが跪き多くの蝋燭に対して拝んでいた。

《ここは・・・慰霊部屋、とでもいう場所なのか》

 蝋燭の下には骨壺のような箱がいくつか積まれていて、その上に一本の太い蝋燭がその火をこの世の名残のように煌々としている。

 上層階で土葬は当然不可能なため、火葬も危険として行われてはいない。唯一として人が亡くなった場合には『鳥葬』を執り行っている。屋上広間の外壁の木々に覆われている内側には棺のような空間を作っていて、そこに遺体を放置しておく。そうするとこの周囲に住まう猛禽類の鳥がやってきて、後には骨しか残さない。

 積まれた箱には、その一族、家族の骨が上へと積み上げられていて、広いようで狭い上層階の世界としてはこの共同墓地形式が主流となっている。

 『The Big H Gateゲート教』が空を飛び交う鳥たちに憧れと信仰を抱くのも、天から降りて来て物資を運び与えてくれる大天使と、その使者かのような鳥類が信仰の象徴であり、『鳥葬』も我が身を返し天に孵すという意味を持っていた。

 図らずともライトの空への憧れは、必然かのようにその意図が当て嵌まっていたのであった。

 ライトはなんとなく、一礼をしてその場を去る。


a stakeout


 また別の広間へと辿り着いたライトは、そこで食事を摂った。
 その広間は食堂のようでここもフリースペースになっている。大きな鉄のような入れ物に大量の様々な食糧が料理済みの状態で並んでいて、自由に選び自由に食べれる仕組みだった。

 そこでライトはまた、違和感に怯える。

 他の上層階の民はこの食堂に数人いるが、みんな何一つ会話をしていない。黙々と食べ、小柄な体格の部外者であるライトには目もくれず、まるでみんな幽霊のように一連の動作を繰り返すだけだった。
 その不穏な空気にライトは食欲を失い、目の前にあるまた見た事も無い食事は小食で終わった。

 自分だけが小柄で違和感なライトだったが、ここにも子供の姿らしき者は居てこの体格差は異常、とまでには至らなかったようだった。どこかの誰かの子、のような認識でいて上層民からすれば不自然という訳でもない。
 一部の子供の装束は白ではなく黒や碧といった色付きの生地の子がたまに居て、何らかの区分けがされている。そこにライトはただ子供は色付きだと認識した。


 方々を歩き、途方に暮れる。

 こんな辛気臭く陰気な人々、そして閉鎖的な部屋の数々と迷路のような空間の中で、どうやってチェバラを見つけ出せばいのだろうか。

 仕方なく、ライトは食堂の広間に戻りそこで見張ることにした。明朝に下層世界への荷出しが行われていたとして、体感的にだがそろそろ昼時だと思われる。このような世界では朝昼晩という習慣があるのかどうかも分からないが、いつかは誰もが食事に出向くであろうと思い、食堂前の様々な食器類が置かれている部屋で目ぼしい者を見張ることにした。

 巨漢な人々の中で、子供のように小さくないぐらいに背丈があり、比較的に小柄な人を見つける。これほど簡単な張り込みがあるだろうか。しかし、屋上で従事していた者のように、恐らくここでも何らかの肉体労働を行っている者は少なからずにいた。そういった者を見かければしっかりと見張り尾行して、食事風景を確認し人相を見る。
 しかし、また稀に食堂で食事をせずにそのまま食事を持って、恐らく自室に戻る者もいてその場合はどうしたものかと思案していると、通路の向こうから手錠を付けられ装束を纏っていない人物が連行されてこっちへとやって来る。

 左右に見張りのような白装束の上層民が前後に貼り付き、その真ん中の連行者は、なんとライトをここへと道案内をしてくれたサルヒコの姿であった。


Restriction


 何故、サルヒコがここに居るのか。ライトは少し困惑と狼狽したが、とりあえずその様子を見守ることにした。

 どうやら捕まった侵入者に、一応の食事を与えるためにこの食堂へと連れて来た様子だが、それなら食事を運べばいいと思ったライトだが、その真相は侵入者の姿を他の上層民の目に晒せる用途があった。逃げ出し、何かあった時の為に目撃証言を得るのと、この者に注意せよ、との注意喚起であったりとした目的がある。

 ライトは救い出すべきかどうかを悩む。しかし、良く考えればここで何らかの暴動を起こしたとして、たった一人で何になるのだろうか。逆に自分が今出て行くことで、複数の組織的な反乱を臭わせてしまう。そうなると共倒れだと、自分の中の瞬発的で浅はかな正義感を押し殺し、とにかくサルヒコの食事シーンを見つめているだけだった。

 サルヒコの食事が終わり、再度どこかへと連行される。ライトは念のためにとその三人の後を追った。

 連行している上層民は、白の装束に頭には黒のバンダナを巻いている。警備か警察かはまだ不明だが、このバンダナをここではそういった役割の人なんだろうと推察した。

 サルヒコが連れて来られた部屋は、まるで独房のように扉には小さな窓があるだけで牢屋といった大規模は部屋では無かった。鍵も鎖や錠前といった堅固な物でもなく、小さな鍵一つだけで閉められた。ライトは雰囲気だけでだが、犯罪や侵入者というよりは紛れ込んだ人の一時的な拘束、というものを感じ少し心を撫でおろす。


 二人の警備員らしき者達は無言でサルヒコの部屋から去って行く。

 ・・・・・・

「・・・おい、サルヒコ・・・・・・」

 小声で中のサルヒコを呼ぶ。

「・・・ライトか!無事に潜入できたんだな。良かった・・・・・・」

「いや、なんで君がこんな形で捕まっているのさ」

「お前、気づいてなかったのか?お主を樽に入れた後、後ろから何者かに襲われたんだ。そうして、気が付いたらここさ」

「そうなんだ・・・ごめん、僕、なんかあの変な臭いで頭がクラクラしてきてさ。その日、寝てなかったのもあって直ぐに寝ちゃってたんだよ」

「呑気な奴だな。酔っぱらってたのかよ」

「酔う?どういうこと?」

「お前、酒を知らなかったのか・・・まぁいい。ここから出してくれ」

「ええ?出した方がいい?」

「当たり前だろ!何か脱出できる方法は無いか??」

「このまま大人しく、下へ帰して貰った方がいいんじゃない??」

「バカ!そんな甘く無いだろう。上から帰ってきました、なんて奴、他に聞いた事あるか??」

「あ・・・・・・」

 ライトはここで、第6で殺された長老のことを思い出した。

「それに、どこから来たのか、有ること無い事の推測で誰の差し金だとか、色んな問題を取り上げて下との交渉材料にされるのがオチさ。元々、それらを懸念してお前に行って貰うってことになったんじゃないか。私は第2の者である事がバレて、私個人は無事に帰されたとしても第2コロニーへの何らかの不利な条件のきっかけになんてされたくないね」

「わ、分かったよ、なんとかしてみる。待ってて」

 ライトは慌てて、何か工具的な物が無いか探しにまた迷宮へと入り込んでいった。


Devil's Forest Appreciation


 ウェルバーはパメラ達から聞いた経緯から、とにかくマオリという男を探しに小屋を出た。自分達のこともそうだが、何よりもレイアを救ってくれたお礼が言いたくて仕方がなかった。

 ジロジロとフォレスターの民から視線を感じる。ひそひそと何かを話しているような気もする。それも仕方がない。ウェルバーもここへ乗り込みに来た時に何人かのフォレスターをなぎ倒してきたのだから。

 彼女らが逃げるように去る方向へと、追いかけるように付いて行った。

 すると案の定、その先に装飾が少し派手な小屋の前で、更に他のフォレスターとは違い着飾りが少し派手にしている三人の男が話し合っていた。

「すまない、マオリという者に会いたい」

 言葉が通じないこともパメラ達に聞いていたが、マオリという名前を言えば分かるかと思いそのままの言葉を口にした。

「ワタシダ。モウ元気カ」

 左手にいるふくよかな男が名乗り上げた。

「・・・ありがとう!そしてすまない!レイアを・・・俺の妻を助けてくれたそうだな!本当に、ありがとう!!」

 ウェルバーはマオリの存在を確認するや否や、地面にひれ伏し頭を下げて、心からのお礼と感謝の気持ちを全面に表した。
 ウェルバーは何度も何度も「ありがとう」と良い放ち、顔を隠しながら号泣している。その震える声や嗚咽は、決して隠しきれるものでは無かったが、マオリは無言でひれ伏し詫びる男の肩に手を置き、脇を支えて起こしにかかる。

 立ち上がったウェルバーの顔は涙と鼻水で情けない姿だったが、その場にいた長老とマオリ、そして右手にいたナバホは突然、泣き崩れる男を目の当たりにして最初は驚いたがそのウソも偽りもない行動と反応、目に見えて伝わる感情に心打たれる者はいない。

 ナバホは特に、身に染みてウェルバーの強さも分かっていた。普通であれば大の男が泣き崩れるなんて情けなく、軽蔑に値するだろうがその男がここまでの状況になるのだからと、言葉は通じないが心で通じたのであった。

 マオリに続きナバホ、そして長老までもがウェルバーの方や腰に手を貸し、微笑みかけた。

 ウェルバーはまたその心意気を感じて更に泣き、マオリを抱き締めた。力強く、そして感謝を込めて。ナバホ、長老と勝手に手を取り、ありがとう、ありがとう、と強く握手をしながら純粋な感謝の言葉を投げかけた。


『NEXT』⇩


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