世界最先端のネット証券ロビンフッドーー独自チェーンで、伝統的金融と分散型金融の融合

分散型金融(DeFi)を利用するには秘密鍵の管理やウォレット接続などの知識が必要で、これが一般の投資家にとって参入障壁となっていました。
ブロックチェーンとは、取引の記録を複数のコンピュータで分散して管理する台帳の仕組みです。分散型金融(DeFi)は、この仕組みを使って銀行を介さずに送金や貸し借りを行うサービスを指します。
ロビンフッドが独自のブロックチェーンを立ち上げたことで、2,800万人の顧客基盤を持つ同社は、伝統的な金融と暗号資産の境界を崩し始めました。
日本のネット証券会社が悲しいほどどんどん遅れていきます。ロビンフッドと比べると、原始時代のようです。もう、追いつくことはないでしょう。
以下で早速みていきたいと思います。
第1章 ロビンフッド・チェーンの始動
アービトラム技術を採用した独自チェーン
個人投資家向け証券サービスを提供するロビンフッドは、オフチェーン・ラボと提携し、アービトラム(Arnitrum)の技術を基盤とする独自ブロックチェーン「ロビンフッド・チェーン」を正式に稼働させました。

アービトラムは、主要ブロックチェーンであるイーサリアムの処理を補助し、取引の速度を上げて手数料を下げる技術です。このような補助的なブロックチェーンは「レイヤー2」と呼ばれます。

約1年前にテストネットの構築が発表されてから開発が続けられてきたプロジェクトで、2,800万人の個人投資家を抱える金融機関がオンチェーン市場へ本格的に参入したことを意味します。
「オンチェーン」とは、ブロックチェーン上で直接取引や資産管理を行う状態を指します。オフチェーン・ラボの最高経営責任者スティーブン・ゴールドフェルダー氏は、この参入が暗号資産市場の構造を変える出来事になると述べています。

90日間のガス代無料化戦略
ブロックチェーン上で取引を行う際には「ガス代」と呼ばれるネットワーク手数料がかかります。ロビンフッドは新チェーンの利用者を拡大するため、稼働開始から90日間、プラットフォーム上でのスワップ(異なる暗号資産を交換する取引)や株式トークン取引にかかるガス代を全額負担すると発表しました。
他のチェーンからロビンフッド・チェーンへ資産を移す「ブリッジ取引」の手数料も無料化の対象に含まれており、利用者はコストを気にせず新しいエコシステムを試すことができます。この施策の効果は早くも表れており、稼働直後からエコシステム全体の預かり資産総額(TVL)とウォレット作成数が急速に増加しています。

ユニスワップの統合とベースとの競争
稼働初日から、分散型金融の主要な自動マーケットメーカーであるユニスワップ(Uniswap)とユニスワップX(UniswapX)が基幹インフラとして統合されました。自動マーケットメーカーとは、利用者同士が直接取引相手を探さなくても、あらかじめプールされた資産をもとに自動で交換価格を計算し取引を成立させる仕組みです。
ロビンフッドは強固なユーザーベースと潤沢な資金を持つ会員を多数抱えており、競合するレイヤー2ネットワークのBaseを市場シェアで上回る可能性が高いとみられています。開発者はロビンフッドの資産を活用して独自のサービスを構築できる環境が整っており、インフラの充実度は稼働初日の時点で高い水準にあります。
第2章 現実世界資産のオンチェーン化とグローバル展開
株式トークンの世界展開とUSDGの活用
ロビンフッドは、株式などの現実世界の資産をブロックチェーン上のトークンに変換する「現実世界資産(RWA)」の取り組みとして独自の株式トークンを開発し、世界120カ国以上のロビンフッド・ウォレット利用者への提供を開始しました。
この機能は前年までヨーロッパ市場に限定されていましたが、新チェーンの稼働に伴いグローバルに展開されました。利用者は、価格が法定通貨と連動するように設計された暗号資産である「ステーブルコイン」のUSDGなどを用いて、リアルタイムに更新される気配値に基づき株式トークンを購入できます。

アービトラム・ワンでの実績
ロビンフッド・チェーンの正式稼働前から、同社はすでに2,000以上の株式トークンをアービトラム(Arbitrum)のメインチェーンであるアービトラム・ワン(Arbitrum One)上でローンチしていました。
以前はブロックチェーンの処理能力を高める「スケーリング」が最大の課題でした。ネットワークの拡張性とユーザー体験が向上した現在は、オンチェーン上にどのような資産を存在させるかという点が新しい技術開発の焦点になっており、株式のトークン化はその一つです。

専門知識を必要としないユーザー体験
従来の分散型金融では、利用者が秘密鍵(暗号資産を管理するための重要なパスワードのようなもの)の管理やウォレット接続、RPCの設定といった複雑な手順を理解する必要がありました。
ロビンフッド・チェーンはこれらの技術的な詳細をアプリ内部で処理し、一般的なスマートフォンアプリと同等の操作感を提供することで、ブロックチェーンの知識を持たない顧客層をオンチェーン金融に呼び込むことに成功しています。

第3章 デリバティブ取引の拡張とシェア競争
ライターとアーカスの参入
ロビンフッド・チェーン上には、分散型取引所のライター(Lighter)と、dYdXの開発チームが手がける新取引所アーカス(Arcus)が、現物取引と「無期限先物(パーペチュアル)」取引の機能をローンチしました。
無期限先物(パーペチュアル)は、通常の先物取引と異なり満期日が存在せず、ポジションを無期限に保有し続けられる金融派生商品です。利用者はロビンフッド・ウォレットから直接これらの取引機能にアクセスでき、証拠金やレバレッジの倍率を最大6倍まで変更できます。

トークン報酬によるハイパーリキッドとの競争
ライターはロビンフッドのコミュニティに向けて1,100万ドル相当のLITトークンを報酬プールとして割り当て、8月1日から一部地域で始まるパーペチュアル取引に対してポイントを付与するプログラムを開始します。
ロビンフッド・ウォレット経由の取引はポイントが通常の2倍になり、貯まったポイントはLITトークンに変換されるため、既存の主要デリバティブプラットフォームであるハイパーリキッド(Hyperliquid)から一定の市場シェアを奪う可能性があります。
第4章 分散型レンディング「ロビンフッド・アーン」
モルフォを基盤とした年利7%のレンディング
ロビンフッドはメインアプリ内で、初の分散型レンディング製品「ロビンフッド・アーン」を導入しました。分散型レンディングとは、銀行を介さずにブロックチェーン上で暗号資産の貸し借りを行う仕組みです。
このサービスは開始時点で7%の年間利回り(APY)を提供し、金利はローンの総量に応じて変動する仕組みが採用されているため、中長期的に予測しやすい利回りが維持されます。レンディングのバックエンドには、イーサリアムとアービトラムで実績のある貸付プロトコルのモルフォ(Morpho)が採用されており、利用者は現金残高から直接ステーブルコインのUSDGを購入して運用を開始できます。

ロイズ・オブ・ロンドンによる保険プログラム
暗号資産レンディングで最大のリスクとなる資金流出や債務不履行に対応するため、ロビンフッドは300年の歴史を持つ大手保険組合のロイズ・オブ・ロンドンと提携しました。この提携による保険プログラムは暗号資産業界でも過去最大級の規模で、大口投資家や伝統的な金融資産を好む層でも安心してオンチェーンレンディングを利用できる環境が整いました。

段階的な提供と資産移管インセンティブ
ロビンフッド・アーンはまず米国のゴールド会員の1%を対象に提供を開始し、数週間かけて条件を満たす全顧客に利用範囲を拡大する計画です。
他の取引所やウォレットからロビンフッドへ暗号資産を移す利用者には、対象資産の3%に相当するマッチングボーナスが付与されるため、外部プラットフォームに滞留していた流動性がロビンフッド・チェーンへ流入することが見込まれます。
ビットスタンプ買収による企業構造の転換
ロビンフッドは欧州の主要暗号資産取引所ビットスタンプ(Bitstamp)の買収を完了しており、従来のフィンテック企業という枠を超えて暗号資産企業へと成長しています。
ロビンフッド・アーンの高い利回りと保険プログラムは、既存の主要取引所であるCoinbaseなど競合他社に対し、預金金利やサービス内容の見直しを迫る圧力となっています。

第5章 AIネイティブ機能とエージェント型カード
ユニスワップとプリヴィによる自動取引
ロビンフッド・チェーンは設計段階からAIとの親和性を重視した「AIネイティブ」なブロックチェーンとして構築されています。
ユニスワップと、認証インフラを提供するプリヴィ(Privy)がすでに技術をチェーン上に展開しており、AIエージェントがウォレット接続や分散型取引所の選定、取引の署名までを代行します。利用者は複雑な操作をせず、画面上で取引結果を確認するだけで資産運用を完了できます。

自律的な株式投資と税金対策
実際のデモでは、利用者がAI関連株のウォッチリスト作成を指示すると、エージェントがリアルタイムでリストを構築します。
そのリストに1,000ドルを投資するよう命令し、株価が3%から5%下落した段階で自動的に再投資する条件を付与すると、エージェントが市場を監視して自律的に取引を行います。
ビットコイン保有の未実現損失(含み損)を検出し、税金対策の機会を通知する機能も実装されており、米国のロビンフッド・ゴールド会員には追加料金なしで提供されます。

バーチャルズ・プロトコルとの統合
ロビンフッド・チェーンは稼働初日から、AIエージェントのインフラを提供するバーチャルズ・プロトコル(Virtuals Protocol)を統合しました。
この統合により、利用者は独自のAIエージェントを立ち上げ、資金を集め、運用することが可能になります。数年前にゲームストップ株の急騰を引き起こしたような高リスク志向の個人投資家層にとって、これらの自律的なAIツールは新しい投資機会を模索する手段になります。

世界初のエージェント型クレジットカード
ロビンフッドは世界初となる消費者向けのAIエージェント型クレジットカードを米国のカード保有者に向けて導入しました。利用者がAIエージェントにギフトの購入やチケットの確保を指示すると、エージェントが自律的に決済を完了します。

承認機能や支出制限の設定も可能で、クラウドフレアがステーブルコイン決済の限定サイトを導入した事例と同様に、AI取引ではステーブルコインが主流になる見込みです。ゴールドフェルダー氏は、自動取引の件数が近い将来に人間の取引数を上回ると予想しています。

第6章 弱気相場とイーサリアムエコシステムへの影響
レイヤー2の成功がイーサリアムにもたらす利益
ロビンフッドが独自チェーンにアービトラムのレイヤー2技術を採用したことは、イーサリアムのネットワーク全体にとって大きな成果となりました。
企業や金融機関が独自チェーンを構築する場合、イーサリアムのレイヤー2として立ち上げるか、独立したレイヤー1を構築するかの二択になります。
ソラナなど他のレイヤー1ブロックチェーンには他社にレイヤー2モデルを提供する仕組みがないため、企業需要を満たす存在としてイーサリアムの優位性が示されました。

ステーブルコインUSDGの挑戦
ロビンフッドは新しいステーブルコインUSDGの創設コンソーシアムパートナーの1社であり、USDGをチェーンの基礎的な流動性として位置づけています。現在の市場の大部分はUSDCとUSDTという先行するステーブルコインが占めており、単独の新規プロジェクトがこれに対抗することは困難です。

しかし、USDGや同様の戦略を採るOUSDは、複数の大手金融機関が共同で経済的インセンティブを設計し、自社プラットフォーム内で優先利用させることで、先行する大手への挑戦を可能にしています。
※OUSDについては、以下のnoteに詳しく書きましたので、ぜひご参照ください。
弱気相場を活かした開発
現在の暗号資産市場は弱気相場の状況にありますが、ゴールドフェルダー氏はこの時期こそ過度な外部プレッシャーを受けずに製品を構築する最適な期間だと指摘しています。
市場のセンチメントが好転して新しい投資家と流動性が戻る局面では、AIエージェントによる自動取引や株式トークン、高利回りレンディングといった機能がすでに完成した状態で利用者を迎えることになります。
伝統金融とオンチェーン経済圏の統合
ロビンフッドが実現したのは、伝統的な金融システムの利便性を維持したまま、バックエンドのインフラをブロックチェーンへ置き換えたことです。
個人投資家はブロックチェーンの存在を意識することなく、高い利回りと24時間稼働のグローバルな取引環境を利用できるようになりました。この仕組みは暗号資産の普及を進める鍵であり、冒頭で触れた伝統金融と分散型金融の境界は、この事例を通じて実際になくなりつつあります。
一方、日本のネット証券会社は、株式トークンやオンチェーンレンディング、AIエージェントによる自動取引といった機能を提供していません。ロビンフッドが2,800万人の顧客基盤を武器にオンチェーン金融のインフラを整備している間、日本の証券会社はこの分野に参入すらしていない状況です。
冒頭で触れた伝統金融と分散型金融の境界は、ロビンフッドにおいてはすでになくなりつつありますが、日本ではその議論すら始まっていません。この差は、今後さらに広がっていくものとみられます。


