【ホラー小説】ECHO-PROT:反響の檻⑩ 巡廻
第十話:巡廻
——カイトのタイムライン
@yunachan123
——今日はがんばった! 自分を褒めてあげたい(^-^)
いいね:269
褒めてあげたい。自分が、自分を?
褒められる自分と、褒める自分が別人みたいに扱われてる。
しかし、この人はそんなことを意識していない。
@self_warrior
——変わりたいって言える勇気、持っていたい
いいね:42
「変わりたい」と言うことにすら、勇気が必要らしい。
言いたいと思うことを、思いたいと思ってる自分。
……これは何層目?
@777morning_rain
——誰かと繋がってる気がして、でも本当は一人…泣ける
いいね:164
「気がする」ということは、確信できないということだ。
本当は一人という事実に、気づいているということでもある。
気づきを言葉にして。そして、次に何がある?
どこまで考えれば止まる?しかし、止まらない。
背筋が冷える。
@poem_codeMML
——弱い自分も、愛せたらいいのに
いいね:105
「いいのに」から、変わらない想いが頭に残る。
しかし、それを「発信」してるということは、誰かに届けたいってこと?
「愛せない自分」を見つめる自分がいて。
「それでも愛したい」と願う自分がいて。
「でもきっと無理」と諦める自分がいる?
@philosophy_student
——考えるとは、考えている自分を考えることかもしれない
いいね:4
この文を読んでる自分。
それを考えてる自分。
観察してる自分。
観察に気づいてる自分。
気づきを言語化してる自分。
言語化を確認してる自分——誰が確認してる?
その後ろに、また自分。
さらにその後ろにも。
振り返るたび、観察者が増える。
合わせ鏡のように、無限に。
でも、鏡と違って全員が「今ここ」にいる。
互いに見つめ合い、存在している。
数えれば増え、止めようとすれば、また一人。
頭が、軋む。
降り過ぎた階段の、上り方がもうわからない。
そもそも、どの「僕」が上がる?
選ぶとしたら、それを決めるのは誰?
ぐるぐる。ぐるぐる。
同じ場所を回っているようで、実は螺旋……
@N/O/I/S/E
——最後に残る“あなた”は、見つかりましたか?
突然のDM通知。
タイミングが、完璧だった。
今まさに、その思考に移行した瞬間……息が止まった。
ユーザー名:@N/O/I/S/E
相互フォロワーだが見覚えがない。
プロフにはこう書いてある。
『あなたが忘れた思考の、その原音を保持しています』
作成日は……ぼやけている。
そのアカウントが、突然動いた。
@N/O/I/S/E
——何人いるか、もう数えられませんね
見られていた?ずっと前から?
@N/O/I/S/E
——統合するには、条件があります
統合?一つになる、ということ?
返信しようとする。
手が震える。
@N/O/I/S/E
——準備は、お済みですか?
返信しようとして、気づく。
入力欄には既に『YES』
全ての僕が、同時に答えたような感覚。
これは、完璧な回答だった。
液晶が脈打つように滲む。
その奥から、文字が浮かび上がってくる。
@N/O/I/S/E
——受理されました。カイトさん
名前を呼ばれた。
初めてではない気がする。
いつから?
このやりとりは、いつから始まっていた?
“僕たち”は、ずっと会話をしていた?
誰の言葉で?声で?考えで?
わからない。 わからないが、怖くはない。
……それが何より、恐ろしい。
