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連載小説「アイは夢に揺らぐ〜1,528,009回の検証記録〜」第3章「笑う知性体」第3話



 ピピピッ

 伸ばした手は、喧しく鳴りはじめた目覚まし時計を停止させる。
 軽く伸びをしながら、カーテンに向かい、世界を開け放つ。
 シャッと小気味良い音を立てながら、暗い部屋に光をもたらす。
 明暗差に顔をしかめながら、やがて調節されて朝の世界が映し出される。
 「今日もユグドラシルは、そこにある」
 遠方には、この世界を支える巨大な樹がそびえ立つ。
 その根本から、高層ビル群が歪な絨毯のように男の足元まで伸びていた。
 まるで枝のように張り巡らされた道路には、整然と通勤しているヒューマロイド達が豆粒のようにうごめいている。
 「……………ん?」
 ふと、違和感を覚える。
 いつもは整然と行進しているかのような列を作っているヒューマロイド。
 その朝の見慣れた光景が、少し崩れている。
 ところどころ、ヒューマロイドの滞留が生まれている。

 『注意。ユグドラシルから各員へ。予期せぬ事故により、各所で滞留が生じています。迂回路を送信するので、指示に従ってください』

 そんなメッセージが脳内に響く。
 「まぁ、そんな日もあるだろう」
 男は呟いて、身支度を整える。
 そして、代わり映えのない、少しだけエラーが起きているだけの日常へと、出発した。

***

 『ユグドラシルから管理局職員へ。A23通りにて、車両と車両の接触が発生。道が塞がれている。直ちに急行し、障害を排除せよ』

***

 『ユグドラシルから管理局職員へ。G5通りにてガス爆発が発生。負傷者はいないが、迂回路に指定されたルートのため、出勤途中のヒューマロイドで溢れている』

***

 『ユグドラシルから管理局職員へ。T5列車が電気系統トラブルにより、停止中。各駅にヒューマロイドの滞留が生じている』

***

 『職員ハリスからユグドラシル管理局。P66通りに急行中だが、ヒューマロイドの滞留により、進めない。迂回路を再設定し、誘導願う』

***

 『エラー。エラー。エラー。迂回路を設定できません』

***

 「レム………このようなこと、どうやったら思いつくのです」
 リリアが、胡乱げな視線を向けている。
 僕等は、ユグドラシル管理局のエントランス前にいた。
 背後の都市では、未曾有の混乱が生じていた。
 きっかけは、僕等が乗ってきた車の1台が、何故だか故障して道を塞いだことだった。
 それから、迂回路に指定された道に、何故かたまたま荒野の岩がたくさん転がっていて、通れなくなっていた。
 駅では謎の水漏れによって、電車の故障が発生し、ある無人ビルでは誰かの締め忘れたガスが爆発したりした。
 たったそれだけのことだった。
 だが、それだけのことが同時多発的に発生してしまい、完璧に回っていた都市機構は前例のない対処を求められ、統制が取れなくなっていた。
 ユグドラシル管理局職員は、各地に派遣されており、手一杯だった。
 だが、ヒューマロイドは感情を抑制した完全人工知能により、こんなときでも合理的に判断できる。
 「『まさか、こんなときにユグドラシル管理局に乗り込んで悪さを働こうという、非合理的な存在なんか有り得ないだろう』と。だから、防衛のために職員を残すなんて、ユグドラシルは判断しない。…できない」
 僕が悪い笑みとやらを浮かべて言うと、リリアは心底嫌そうな目をして、僕から一歩引いた。
 「ユグドラシルが、エラーを排除しようとした理由が、今、真の意味で理解できました。そのとおりでしたね」
 「僕もそう思うよ。感情抑制して、合理的にしか考えられなかったら、こんなことは絶対に思いつかない」

 危険因子。
 僕は僕自身をそう判断する。
 だから、ユグドラシルは隔離したのだ。
 完全人工知能にとって、感情はまさに天敵だった。
 「でも、これはあくまで時間稼ぎに過ぎない。ユグドラシルは完璧なシステムだ。すぐにこちらの意図を解析し、手を打ってくる」
 「ええ。管理局の中枢コントロールルームは、樹の中心。最高権限のカードキーがなければ動かせないエレベータでしか辿り着けません。過去の人類の記録を閲覧するには、そこに行かなければなりません」
 リリアが、目の前の巨大な樹を見上げて言う。
 ここからでは、樹の上の方は雲に遮られて見ることができない。
 管理局はユグドラシルの中に作られた、巨大建造物だ。
 「レム、各地に散っていた仲間は合流した。突入できるぜ」
 エルクが駆け寄ってきて、そう報告した。
 僕は頷き、ユグドラシル攻略のための班を分けた。
 「さぁ、歴史の勉強に行こうか」
 僕がユグドラシルを指差すと、後方に控えたエラー達は怒号を上げた。






次話→



まとめ


 
 

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