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theyの5つの用法(the Great Pronoun Shift)

久しぶりの投稿です。本日は今学期の授業で講読しているHelene Seltzer Krauthamer著 The Great Pronoun Shift: The Big Impact of Little Parts of Speech(2021)に関する話題をお届けします。

本書の第2章では、theyの5つの用法(the five uses of they)が紹介されています。最近、様々な場面で話題にすることが多いので、今回の記事にまとめておきます。

theyの5つの用法(the five uses of they)

① Plural third person pronoun
例文: The mothers are taking a nap. They need it.
② Singular indefinite antecedent
例文:Someone broke into the restaurant last night, but they didn't take anything.
③ Singular indefinite antecedent with plural meaning
例文:Everyone gets hungry, but they don't need to eat all the time.
④ Singular definite antecedent
例文:Chris is really hungry, but they don't want anything to eat right now.
⑤ Singular definite nonhuman antecedent
例文:The company is changing their logo.

p.23を基に作成


①はtheyの最も典型的な用法ですね。先行詞(theyが受ける名詞)は複数形の名詞です。

続く②から⑤は、近年、議論の的となっているいわゆる単数用法のthey(singular they)です。

②と③はどちらも先行詞が不定の単数代名詞であるという点は共通していますが、先行詞が喚起するイメージが異なります。②の先行詞(someone)は単数のイメージを、③の先行詞(everyone)は複数のイメージを喚起します。

④は特定の個人(singular definite antecedent)を指す用法で、近年もっとも関心を集めている用法です。性別二元論に囚われないノンバイナリー(nonbinary)の人々によって支持されている用法として話題になっています。

⑤は無生物の集合名詞を指す用法です。動詞は単数(is)で一致していますが、代名詞は複数(they)で一致しており、非常に興味深い乖離が見られます。

みなさんは全ての用法をご存知でしたか?また、それぞれの用法に対してどのような印象をお持ちでしょうか?


補足

それぞれの用法について、個人的な体験談も交えながら補足します。

①の複数用法は、多くの英語学習者にとって英語学習の最も初期の段階で習ったものではないでしょうか。私は「they=かれら、それら」と教わった記憶があります。また、theyは私にとって代名詞の諸問題を強く意識するきっかけとなった代名詞でした。「3人称単数はhe, she, itの三つがあるのに、複数はthey一つだけでよいのはなぜ?」「人称代名詞の中でtheyのみが人と物の両方に使えるのはなぜ?」「this, that, theのようなthで始まる語とどういった関係?」といった疑問が湧いてきたことを覚えています。


②と③の用法(不定の単数代名詞を受けるthey)については、中高時代に学んだ記憶がなく、英作文をする際に不定代名詞をどの人称代名詞で受けるべきか何度も悩んだ経験があります。「everyoneは単数だから、複数のtheyで受けるのはきっとダメだよね?でも、だからといって単数から選ぼうとすると、heだと男性、sheだと女性に限定されてしまうし、itだと人間じゃなくなってしまう。一体どうすればいいんだ…」等と悩んでいました。

仕方なく、標準英語では一般的ではないということを知らずに、人称代名詞に頼らず不定代名詞を繰り返し使っていた時期がありました(e.g. Everyone likes everyone's mother.)。

また、いつからかhe or she、his or herを使うようになっていました(学校で習ったのか、それとも苦肉の策として自分で思いついたのかよく覚えていません…)。一度だけならまだよいのですが、繰り返し使わなければならない時はとても面倒で、なんとかならないのかなとずっと考えていました。特に会話の際には、言い回しに気を取られて何を言いたかったのか忘れてしまったなんてことがしばしば…

a studentのような不定の名詞の場合にも同様にいつも悩んでいました。この場合には、複数形のstudentsを使いtheyで受けることで、意識的に問題を回避してきました。

英語母語話者達も同様の問題に直面し、同様の方策を講じてきたことを知ったのは、大学に入って英語史を専門的に学び始めてからのことです。

幸いなことに、②と③の単数の不定代名詞を受けるtheyの用法は現在広く認められるようになっています。言葉の権威として多くの人々に参照される辞書においても、定義文においてこの用法が使われています。『ロングマン現代英英辞典』では以下のように、someoneに対してtheyが使用されている定義文が見られます。

grate‧ful /ˈɡreɪtfəl/ ●●○ S3 W3 adjective
1 feeling that you want to thank someone because of something kind that they have done, or showing this feeling

https://www.ldoceonline.com/jp/dictionary/grateful

個人的にはこの用法に長い間抵抗があったのですが、最近は現状を鑑みて、会話やくだけたメールなどでは躊躇わずに使うようにしています。


④の特定の個人を指すtheyの用法は、実際の使用例に遭遇した際にすぐに理解できるか自信がありません。特に会話の場合にはかなり混乱しそうです。

多様な性自認を持つ人々の言語使用について調査したGender Census 2024によると、theyは自分に対して使ってもらいたい代名詞(preferred pronoun)の第1位となっています。

Gender Census 2024: World Wide Summary 
https://www.gendercensus.com/results/2024-worldwide-summary/

授業では、they isやthey findsのように動詞が単数で一致している実際の例を取り上げ、「この用法が広まると、単数用法のtheyであることがわかりやすくなって助かるね」という話になりました。再帰代名詞を使う際には、themselvesではなくthemselfという形態を使うことで、単数用法であることを明示的に示すこともできるでしょう。


⑤の無生物の集合名詞を指す用法については、本書を読むまで全く意識したことがなかったのですが、会話において私自身の英語にも類似した用法が存在していることに気がつきました。私の推しチームであるNBAのボストン・セルティックスについて話をする際、単複のどちらかに統一できず、両者が混在してしまっていることがとても多いです。団体としてのCelticsについて語りたい時には単数一致を選び、選手達に焦点を当てたい時には複数一致を選択するという使い分けを部分的にはしているのかもしれません。しかし、全体の傾向としては、話し始める時にはCeltics isのように単数一致を選択し(形態は明らかに複数形なのに!)、それ以降は代名詞に切り替え、単数のitではなく複数のtheyを使い続けることが多いように思えます。

ちなみに、⑤の例文には動詞の数の一致と代名詞の選択の観点から、理論的には以下のような変異形を想定することができます。

A. The company is changing its logo. [動詞: 単数; 代名詞: 単数]
B. The company is changing their logo.[動詞: 単数; 代名詞: 複数
C. The company are changing their logo. [動詞: 複数; 代名詞: 複数
D. The company are changing its logo. [動詞: 複数; 代名詞: 単数]

多くの文法書において単数一致のAはアメリカ英語的複数一致のCはイギリス英語的とされています。⑤の例文が該当するBはA(アメリカ英語的)とC(イギリス英語的)のハイブリッドと見ることができるでしょう。(Dも同様ですが、手元にある文法書にはこのような例は紹介されていませんでした。)

おわりに

最後までお読みいただきありがとうございました。本書には各用法についてより詳しい解説があります。また改めて本書から代名詞関連の話題をお届けしたいと思います!

参考文献
Krauthamer, Helene Seltzer. 2021. The Great Pronoun Shift: The Big Impact of Little Parts of Speech. New York: Routledge.
Leech, Geoffrey, and Jan Svartvik. 2003. A Communicative Grammar of English. 3rd ed. Abingdon: Routledge.
寺澤盾. 2008. 『英語の歴史―過去から未来への物語』中央公論新社.







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